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未登録馬905頭に及ぶ

  • 2003年12月08日(月) 17時58分
 JRAの外郭団体である中央畜産会の調査によれば、サラブレッド1頭あたりの生産原価は現在およそ700万円ほどになるそうだ。

 その原価に高い割合を占めるのが種付け料である。文字通りピンキリとはいえ、ブランド志向の強い日本人は、どうしても人気種牡馬の方に目が向きがちだ。その結果、ついつい無理をして人気種牡馬を配合し、後の種付け料の支払に慌てふためくことになる。

 このほど10月1日現在の当歳血統登録申し込み頭数が日本軽種馬登録協会から発表され、それによればサラブレッドが7496頭、アングロアラブが190頭の計7686頭が今年、血統登録されたとのこと。

 サラブレッドは対前年比で332頭、アングロアラブも72頭、それぞれ減少している。そして、更に問題なのが、今年誕生しているにもかかわらず、血統登録を申し込まなかった当歳が、サラ、アラ合わせて計905頭にも達している事実である。

 当歳の血統登録には、まず母馬の血統登録証明書、そして、種付け証明書に登録料(今年は1頭15300円)を添えて申し込む。このうち種付け証明書は各種馬場が種付け台帳を元に作成し、種付け料の入金を確認した後に発行するのが基本である。905頭の未登録馬の相当数が、生産はしたものの、種付け料が払えないために、種付け証明書を発行してもらえずに現在に至っているケースだろうと思われる。

 と同時に、「種付け料を払って登録しても、たぶんその金額以上に売却するのが困難だろう」と判断し、離乳と同時に当歳を“処分”した知人もいる。五体満足ながら馬の価格が低落著しい今年は、こんなケースも出てきているのである。

 せっかく生まれたのに……と思う気持ちはもちろん生産者とて同じことだが、秋も深まり、売れ残りの1歳馬も複数いるとなれば、例えば離乳のために馬房を空ける必要から、見込みのなさそうな当歳や1歳を食肉業者に託すようなことも行われる。「背に腹は代えられない」のである。

 日高で主として故障や老齢などのために用途変更される馬を扱っている業者のAによると、「この秋には処分される馬も多かったのだけど、それ以上に馬肉の在庫がだぶつき、価格が安くてひどいことになっている」とか。「1頭千円なんていうこともあった」とも聞く。いずれにしても、生産地を襲う不況の嵐は、当分の間、収まりそうにない。

 日経新聞12月5日付け夕刊には野元賢一氏が「パドック」というコラムで、この未登録馬についてこう記している。「売れる見通しが低い状況で、種付け料も工面せずに生産するとは、不思議な世界だ」と。

 手厳しいご指摘だが、残念ながら「その通り」と認めざるを得ない。

 「小規模牧場が借金で馬をつくり“一発大当たり”を狙う日本の生産界には無理がある。足元を見直し、生産継続の可能性を自ら判断すべき時が来ている」と結ぶこのコラムは、小規模生産者の私にとっても耳の痛い内容だが、しかし「転廃業に消極的な姿勢」の生産者もまた少なくないのが今の日高の現状でもある。

 「他に俺たちに何ができる?」とばかりに、この仕事以外には考えられないと口にする多くの生産者を、馬の生産に見切りをつけて他の仕事や作目に転換する道を模索しろ、と説得するのはかなり難しいことだ。一部の生産者は、すでに和牛を飼育し始めたり、花卉やアスパラ、いちごなどの栽培を導入する動きがあるとはいえ、依然として「一発当てる」ような発想から抜けきれない生産者がまだかなり多いのである。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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