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【特別企画】柴田大知騎手の『私の恩人』(1)―華々しいデビューから一転、2年目の厩舎破門

  • 2014年07月30日(水) 18時00分
私の恩人2
「あの人がいたから今の自分がある」「あの人のあの言葉があったから、ここまでやってこられた」──誰の人生にも“宝物”のような出会いがある。浮き沈みが激しく、つねに“結果”という現実にさらされているジョッキーたちは、そんな“宝物”たちに支えられているといっても過言ではない。ここでは、そんな出会いや言葉でジョッキー人生がどう変わり、そして今の自分があるのかを、ジョッキー本人の言葉で綴っていく。第2弾の2回目となる今回は、柴田大知騎手。華々しいデビューから、3年連続平地0勝というドン底を経て、劇的な復活を遂げた苦労人。その過程には、どんな出来事、どんな恩人の存在があったのか。波乱万丈の18年間を振り返る。(取材・構成/不破由妃子)

◆甘い考え、勘違いしていたあの時の自分…

 1996年、柴田大知は“花の12期生”のひとりとして、大きな注目のなか騎手人生をスタートさせた。この期が人々の耳目を集めたのは、もちろん天才ジョッキー福永洋一の長男・祐一の存在が大きかったが、ほかにも女性ジョッキー(田村真来、細江純子、牧原由貴子)や双子ジョッキーの誕生など、“JRA初”が重なったことも一因だった。つまり、大知・未崎の兄弟にも、デビュー前から容赦なく人々の視線が降り注がれた。

 とにかく福永への注目度がすごかったですからね。そこにたまたま女性ジョッキーがいて、僕たち双子がいて。注目されているのを自覚するにつれ、一時的な話題性で終わってしまうのは嫌だな、そのぶん一生懸命頑張らなくてはいけないと思い始めました。とにかく同期には負けたくなかったですね。

 とはいえ、12期生はすごく仲が良かったんですよ。厳しい学校生活を一緒に過ごすうちに、自然とそうなったというか。期によっては仲が悪かったという話も聞きますが、僕にはなんでそうなるのかわからないくらい、僕らは団結していたと思います。今でも同期の絆は強いです。

 美浦・栗田博憲厩舎からデビューした大知は、3月31日の中山5R(3歳未勝利)で初勝利。自厩舎のライトオンファイアを駆り、1番人気に応えての快勝だった。初勝利こそ同期で7番目だったが、5月3日・新潟メインの粟島特別(4歳上500万)をヤマニンサイクロンで逃げ切り、特別勝ちでは一番乗りを決めた。

 同期がみんな優秀だったので、1年目は負けたくない一心でしたね。だから、一番最初に特別を勝てたことがすごくうれしかった。

 栗田先生は、それはそれは厳しい方でした。それこそ箸の持ち方からカーテンのたたみ方まで細かく注意されて、当時は「なんでこんなことまで怒られるのかな」と思っていましたが、今思えば当然なんです。自分は本当に何も知らなくて、何もできていませんでしたからね。振り返ってみても、当時の自分は本当にひどかった(笑)。仕事のなかで、馬主さんと接する機会もありますし、いつ誰に見られているかわからない世界。そういうことも踏まえて、私生活から日常の細かい所作まで、厳しくしてくださっていたんだと思います。

私の恩人2

▲新人の大知を厳しく指導したという栗田博憲調教師


 1年目は27勝を挙げ、民放競馬記者クラブ賞(関東新人騎手賞)を受賞。同期では福永の53勝、和田の33勝に次ぐ勝利数だった。10月には、翌年の牡馬クラシック戦線を賑わすエアガッツと出会い、未勝利、きんもくせい特別(3歳500万)を2連勝。朝日杯3歳S(現・朝日杯FS)から翌年のダービーまでは横山典弘が手綱を取ったが、再びコンビを組んだ1997年のラジオたんぱ賞で重賞初制覇を決めた。

 内側の馬場が悪いから外から行こうとか、折り合いに気を付けながらジワッと上がっていこうとか、事前に先生といろいろ作戦を練って臨んだレースでしたが、本当にその通りになって。重賞を勝てたことはもちろんですが、思った通りの競馬ができて、すごくうれしかったのを覚えています。もう17年も前の話ですが、今でもエアガッツ、エアガッツって言われるんですよね(笑)。それだけあの勝利をみんなが覚えてくれているんだなって。

 2年目も順調に勝ち星を積み重ね、9月末の時点で早くも前年の勝利数を更新していた。しかし──10月中旬、大知の騎手人生が大きく変わる決定的な出来事があった。師匠の栗田に結婚の意思を伝えたところ、これに栗田が大反対。にべもなく破門となったのだ。

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