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ダートチャンピオンも夢ではない/レパードS

  • 2014年08月11日(月) 18時00分


育成手段の考え方の違い

 アジアエクスプレスが鮮やかに巻き返し、夏の3歳ダート重賞を力強く快勝した。

 6月のユニコーンSを12着(1番人気)で凡走したが、当時は有力候補だった皐月賞を激走した後とあってかなり手控えた調教に終始していたが、今回はウッドコース中心ではなく、美浦南のDコース(ダート)中心の調教に切り替え、連続して好タイムの追い切りをこなした。疲れもあったのか緩んで映ったユニコーンS当時とは一変、馬体重は増えていても引き締まってみえた。

 アジアエクスプレスに懐疑的な見解があったのは、これは仕方がない。アメリカのトレーニングセール出身馬は、外国産馬がNHKマイルカップ、ニュージーランドTなどで上位を独占した1990年代を中心に、特殊な育成方法の効力が利いている期間をすぎると、信じがたい不振に陥り、そのまま評価を取り戻すことなくやがて忘れられた馬が山のように存在した。

 2歳チャンピオンになった同馬が、おそらく負けるはずのないユニコーンSを12着に沈んだとき、多くのファンや関係者は、しばらく忘れようとしていたアメリカのトレーニングセール出身馬の、「世界のほかの国では許されていない幼駒に対する育成方法」を思ったはずである。

 相変わらずその育成手段を禁止することのできないアメリカの生産界の闇を再び見たような気がしたのも否定できない。今回は、前回とは「デキ一変」。ならば、たちまち好勝負、とは素直にできないところがあった。

 アメリカのトレーニングセール出身馬には、魅力はあっても、現在でも決して手を出さないオーナーや関係者が数多く存在する。魅力的ではあっても、種牡馬としての導入は避ける生産者グループも少なくない。競走馬の育成のみならず、生命体、農業生産物に対してさえも、対する考え方が根本的に異なる部分があるのだから、相容れないのは当然である。

 アジアエクスプレス自身がそんなことをささやかれる筋合いはない。関係者はそういうタイプではないから購入したのだろう。でも、現実のアメリカ生産界のサラブレッド幼駒に対する育成手段は、(もちろん全面的ではないが)まだまだ変わらない。アメリカの抱える悩みの淵は深い。ということは、世界のサラブレッド生産国の抱える悩みも消えることがない。

 ただ、これで日本に単年だけ来たことがあるヘネシー(父Storm Cat)産駒の種牡馬「ヨハネスブルグ、ヘニーヒューズ」が高く評価される時代がくるかもしれない。ヘニーヒューズ産駒は、ヘニーハウンドはともかく、ケイアイレオーネ、そして3歳夏に巻き返してきたアジアエクスプレスなど、こなせる距離の幅は広く、日本では嫌われがちな早熟型でもない。

 素早く好位の外につけたアジアエクスプレスは、この時点で戸崎圭太騎手が「これなら大丈夫と思った」と振り返るくらいで、最初からまったく楽な追走だった。好スタートからN.ローウィラー騎手のクライスマイル(父スクリーンヒーロー)が先手を取ると、走りやすい締まったコンディションなのに、「前半36秒0-49秒2-61秒9-」の落ち着いた流れ。

 ほかのレースもそうだったが、この時点で置かれては、突っ込んできても3-4着が精いっぱいであり、いつにも増して先行馬向きのダートは、行って粘るタイプが失速しなかった。1分50秒4の時計は、この日のコンディションからすると平凡だが、余力を残して最後は「11秒5-12秒0」。競り合う馬がいれば楽に1分49秒台前半も可能だったろう。

 皐月賞の内容から、アジアエクスプレスはあまり距離延長は歓迎ではないだろうが、JRAのダートの頂点は、1600mのフェブラリーSと、1800mのチャンピオンズC。このまま順調に成長過程を歩むと、ダートチャンピオンも夢ではない。ファミリーは、4代母リヴァークロッシング(父アファームド)が、世界を代表する名繁殖牝馬として知られるフォールアスペン(父プリテンス)の半妹。芝もOKなくらいだから、時計の速いダートはとくに歓迎だろう。

 指示ではなく、「自然とハナを切る形になった」というクライスマイルは、たしかに隊列ができてしまうと競って入れ代わりの生じることの少ない新潟ダートの特徴を生かしたとはいえ、メンバー中ただ1頭、たった2戦のキャリア。突きはなされてからも失速しなかった。アジアエクスプレスとともに直後でマークしていた2番人気のレッドアルヴィス(父ゴールドアリュール)、3番人気のアスカノロマン(父アグネスデジタル)が伸び悩む中、とうとうしのぎ切って2着に粘ったのは価値がある。

 そのレッドアルヴィス、アスカノロマンは、ともに1分51秒2-3で乗り切り、上がりも36秒3-5でまとめているから、数字上は凡走とはいえないが、先行馬残りの、この上がりの速いレースでアジアエクスプレスから1秒近く離されてしまっては、今回はまったくの完敗。

 レッドアルヴィスは、1600mくらいの方がいいのだろうか。一方、ここまで1戦ごとにタイムを短縮してきたアスカノロマンは、スピードに乗るまでに時間がかかり、追い出しても鋭い脚を使うシーンがなかった。最終12Rで楽勝したヒカリマサムネ、土曜の札幌で独走したモンドクラッセなどと同じアグネスデジタル産駒だが、この馬はスピードタイプではないのだろう。

 2000mのジャパンダートダービーのあとで、今回もまた内枠でスムーズに流れに乗れなかったランウェイワルツ(父ゴールドアリュール)は、もう少し外枠でスムーズなレースができれば2着に届いて不思議ない直線の伸び脚だった。この馬は残念。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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