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今回の内容なら中距離も十分に適距離/関屋記念

  • 2014年08月18日(月) 18時00分


他場ほど渋馬場の巧拙はポイントではなかった

 土曜日の午前中に大雨が降り、午後には回復したものの、日曜の午前中にはまたまた激しい雨があった。不良に近いような重馬場からスタートしながら、今年も良馬場の予測タイム(現在のコースになった過去13年平均1分32秒25)とほとんど差がない「1分32秒5」の決着だった。

 野芝の根が張った新潟コースは、水はけのいい土壌に恵まれ、芝硬化防止策をほどこされながらも、雨がやんでしまえば「重馬場」の状態にはならない。2番人気で12着に沈んだマジェスティハーツの森一馬騎手の感想が印象的だった。

「中京記念(微差3着)は、同じ稍重でもボコボコした馬場だった。こういう水気を含んだ芝は合わないのかも……」。表面の芝にはまだ水気が残っているくらいでも、その下の水はけは良く、地盤はほとんど緩んでいないのである。新潟の稍重に、マジェスティハーツは少し上滑りしたのかもしれない。

 そういう芝だから、決着は1分32秒5。芝の1600mは4戦2勝ながら、最高タイムは1分34秒3にとどまり、今回、初めて最初からマイル戦らしい流れに乗ることになったマジェスティハーツは、濡れた芝を気にしたのも事実だろうが、今回の走破タイムは自己最高の1分33秒8。敗因はしっかりかき込める馬場を好むフットワークに、春の新潟大賞典のころとは異なるクッションの利いた芝が合わなかったのか。また、全体に時計が速い1600mが合わなかったのだろう。

 重馬場は不得手に近いとされたクラレントがしっかり伸びて勝ち、同じくサトノギャラントはダッシュつかずの大きなロスがありながら、惜しい3着。新潟の芝は稍重程度なら、ちょっと上滑りするような芝を気にしないかぎり、他場ほど渋馬場の巧拙はポイントではないのである。

 そういう新潟芝コースに対する適性は、なかなか実際に走ってみなければ分からない。また、夏のマイル重賞「関屋記念」は、多くのマイラータイプにとって、最初から年間の大きな目標にかかげる重賞でもなく、途中から秋を考えたときに出走したくなるレースだから、コース実績はポイントにはならない。

 今年の勝ち馬5歳クラレントは、新潟は初めて。昨年の7歳レッドスパーダも新潟芝は初コースだった。最近10年の勝ち馬のうち、新潟芝の経験があったのは、09年スマイルジャックと、06年の7歳馬カンファーベストだけ。他の8頭はみんな初めての新潟で、それで快勝である。

 同じ左回りの東京芝で3勝(すべて重賞)を記録する5歳クラレント(父ダンスインザダーク)は、今年は夏休みを返上。芝コンディションのいい新潟の関屋記念を選んだのは大正解。すでに七夕賞のメイショウナルトで10ポイントを挙げ、サマージョッキーシリーズの優勝(ワールドスーパージョッキーの出走権が与えられる)に意欲を燃やす田辺裕信騎手(30)に騎乗依頼したのも大正解だった。

 同じように初騎乗だった関西馬メイショウナルトを果敢なレース運びで勝利に導いた田辺騎手にとって、自在型のクラレントは結果を出しやすいタイプだった。渋馬場はあまり好ましくないクラレントに、馬場の急速な回復と、外枠も味方した。超スローもあるのではないかと予測されたレースの流れは、伏兵が果敢に行ってくれたから「46秒5-46秒0」=1分32秒5。

 理想の平均ペースで流れ、すぐ前には人気のダノンシャーク(内田博幸騎手)が先行策をとってくれているから、格好の目標にもなった。行きすぎるとちょっと詰めの甘くなるクラレントには有利な要素が絶妙に重なり、ゴール寸前、もう一回伸びた。ここまでの全6勝は、マイルの5勝が中心だが、今回の内容なら1800-2000mも十分に適距離に入るだろう。

 58キロのダノンシャーク(父ディープインパクト)は、好スタートから他が行かないなら自ら主導権を握ってもいいくらいの行きっぷり。こちらもクラレントと同様に新潟は初コースだが、ディープインパクト産駒の中ではスピード色の強いタイプとあって、長い直線で再加速するほど高い適性を示したが、最後は1キロの負担重量差と、目標にされた分の半馬身差か。これで通算27戦【6-8-5-8】。やや勝ちみには遅いが、1600-1800mならまず崩れない。

 サトノギャラント(父シンボリクリスエス)は、楽に追走できる流れを鋭い切れで抜け出すタイプ。それを考えると、出負けに近い前半は気合を入れつつの追走になり、かつ、タメを作るシーンもない最悪の展開。なし崩しのようなスパートで一旦は先頭に立とうかの勢いだった。結果、最後は鈍って3着にとどまったのは、いかにも惜しい敗戦だった。これで今年5戦のうち4回まで後手を踏んでいる。あおっての出遅れではなく、スタートして2-3完歩目にダッシュつかずの形になって後手を踏む「立ち遅れ」である。対策を講じないとならないが、ゲート難でもないから、矯正には苦心するかもしれない。

 同じように後手を踏んだエキストラエンド(父ディープインパクト)は、ゲートに潜るような仕草を見せた瞬間だから、タイミングが合わずの完全な出遅れ。最初にあれだけ置かれてしまうと手の打ちようがなかった。立て直して落ち着いた好馬体をみせていたから、最後は流しながら上がり33秒5。もったいない敗戦だった。

 ミトラ(父シンボリクリスエス)は、マジェスティハーツと同じで、「馬場が合わず、走り辛そうにしていた――M.エスポジート騎手」という。先行するどころか最初から流れに乗れないのでは凡走も仕方がない。快速系だから渋馬場を嫌ったのだろう。

 ただ1頭の牝馬エクセラントカーヴ(父ダイワメジャー)は小柄な牝馬ながら、ここまでの成績は1度使ったほうがいいタイプ。昨年、1分31秒8で快勝した京成杯AHは、今年は良績(2勝)のあるこの新潟コース。今年も好勝負と思える。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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