中竹師が絶賛のタマモイレブン、その“歩き”にも注目だ/吉田竜作マル秘週報
◆中竹調教師は「他の馬とは違う雰囲気。柔軟性もあるし、これは絶対走ってくるよ」と大絶賛
最近、街でよく見かけるようになったのが「犬の幼稚園」。ペットブームの産物というよりも、ペットのいる生活が日常に浸透しきった証左だろう。人間や他の犬とのコミュニケーションの取り方、しつけ、マナーなどなど…その道のエキスパートを「幼稚園」と称する店舗に集め、トレーニングをしていくようだ。
何げなく見かける散歩についてもいろいろとマナーがあるようで、ネットで調べただけでも「散歩なども含めた生活習慣が身につきます」といううたい文句が目につく。記者などは「散歩なんて好きなように歩かせておけばいいだろ」って感覚なのだが…。最近はただほったらかしで歩かせるのではなく、「他の犬に過剰に反応しない」とか、「飼い主より前を歩かない」など、いろいろとマナーを守らなくてはいけないらしい。
ある日の午後。中竹調教師が厩舎スタッフに自ら馬の手綱を引いてレクチャーする姿を見かけた。話を聞いていた船曳助手のあまりに真剣な表情に、最初はお説教でも受けているのかと尻込みしたほど。
「ゲート練習をしてたんだけど、その馬がゲートになかなか近寄らなくて…。それでシャンクを使って馬を歩かせるやり方を説明していたんだ」(中竹調教師)
シャンクとは馬の鼻面からあごにかけて巻くようにして使うチェーン状の馬具。サラブレッドはとくに鼻先が敏感だけに、このシャンクをつけて手綱を引くと抵抗することなく歩くようになるそうだ。同厩舎の白倉助手にさらに話を聞くと「最近は牧場でも幼いころからシャンクを使って引き運動などをしているから、つけただけで馬もすんなり言うことを聞いてくれる」という。
パドックなどで厩務員と並んでおとなしく歩いているサラブレッドの姿は、我々にとって見慣れた光景。しかし、そこに至るまでは「犬の幼稚園」以上の労力がかかっているのは言うまでもない。何より人に従って歩くということは、犬の散歩以上にサラブレッドの場合は重要な意味を持つ。
「サラブレッドを引く人によって歩き方も全然変わってくる。それだけでセールなどでは値段まで違ってくるわけだから。牧場だってそこは必死。海外などでは専門に教える人もいるくらいだよ」(中竹調教師)
そういえば以前、松田博調教師からも“歩き”の重要性を教えられたことがあった。「セレクトセールに出る馬はみっちり歩いたり止まったりの練習を繰り返すんだ。セールの前になると練習するために、よその牧場の馬も預かるくらい」と。
先週から関西エリアでは阪神開催が始まった。屋根が覆うパドックは若駒たちを驚かせることもあるが、裏を返せば、そこで平常心を保って歩けるのは普段からの人馬の努力のたまもの。静かに温かく見守ってあげてほしい。
ちなみに中竹調教師が手綱を引いてレクチャーしていた馬はタマモイレブン(牡=父サウスヴィグラス、母ドリーミーアイ)。「引っ張っているだけで威圧感があって、他の馬とは違う雰囲気。柔軟性もあるし、これは絶対走ってくるよ」と師は大絶賛している。
12日にゲート試験を突破し、デビューがいよいよ視野に入ってきた。このタマモイレブンがパドック、ゲート入りでどんな歩きを、そしてレースではどんな走りを見せるのか、今から注目してもらいたい。