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引退馬ホースサミット

  • 2014年09月17日(水) 18時00分
引退馬ホースサミットの風景

引退馬ホースサミットの風景



改めてどうあるべきか、どうするのがベストかを考える必要がありそうだ

 去る9月14日(日)、新ひだか町静内の北海道市場多目的ホールにて、「引退馬ホースサミットin日高」なるイベントが開催された。主催は同実行委員会だが、実際には、自身が代表を務めるローリングエッグスクラブの藤沢澄雄氏(藤沢牧場代表、道議会議員)が音頭をとり、引退功労馬に関係する各方面に声をかけ、「これから引退馬のために何ができるのか、生産者、競馬関係者、馬主、ファンが一緒に考えるきっかけになることを願って」企画されたものである。

 会場となった北海道市場多目的ホールは、雨天などの悪天候の際に、市場開催時に臨時の比較展示場などに利用するべく3年前に建てられた大きな屋内施設で、先ごろのサマーセールの際には、西側半分に仮設馬房が設けられ、また東側半分には椅子とテーブルを数多く配して休憩スペースとしても利用されていた。

 今回はその休憩スペースとして利用されていた側をパネルで囲み、そこに引退馬連絡会に加盟する11施設、団体、牧場で繋養されている引退功労馬たちの現況が写真で展示、紹介されており、来場者はそれらの写真を順に閲覧できる形になっていた。

 広々としたスペースの中ほどにはパイプ椅子が並べられ、その一般席と対面するように正面には、パネルディスカッションの司会者とパネラー席が4つ、用意されている。

パネルディスカッション

パネルディスカッション風景



 午後2時より主催者を代表して藤沢澄雄氏がまず挨拶に立ち、今回のサミット開催を企画した経緯などについて説明した。その後、静内町軽種馬生産振興会の田中裕之会長やNP法人引退馬協会の沼田恭子・代表理事などが次々にマイクの前に立った。

 そして、今回の参加団体がそれぞれ紹介され、続いて功労馬として現在各牧場や施設にて余生を送っている馬たちや、すでに他界してしまった繋養馬たちの在りし日の映像が放映された。

 今回の企画の目玉は、ゲストを招いてのパネルディスカッションである。実行委員会の藤沢澄雄氏がコーディネーター役を務め、獣医師の服巻滋之氏、新潟馬主協会会長の飯塚知一氏、白馬牧場の後継者である長浜謙太郎氏、沼田恭子氏の4氏がパネラーとして席についた。

 それぞれの立場から、順に引退功労馬との関わりや考え方についてスピーチを行なったが、いずれも、現役を終えた馬たちの行く末についてはそれぞれ強い関心を持つ方々であり、その意味では多少方向性が異なる部分はあるものの、意見を異にするわけではなく、対立した見解を戦わせるような場面には至らなかった。そのために、終始和やかなムードの下で静かに淡々とパネルディスカッションが進行した。

 服巻氏は、獣医師の立場から高齢馬をケアする際の留意点などについて細かくアドバイスし、日本ではまだ高齢馬の飼養管理に関する研究が進んでいない現状についても言及していた。また「良質の繊維質飼料、水、ミネラル成分を含んだビートパルプを給与すること」と「歯のコンディションの維持に務める」ことで健康な状態を維持できる点を強調した。

周囲に貼り出された引退馬写真

周囲に貼り出されたウイニングチケットやニッポーテイオーらの引退馬写真



 また馬主の立場から飯塚知一氏は、周囲の馬主が所有馬の引退後についいてどう考えているかを簡単に紹介し、自身は所有馬の引退後のために賞金の一部を預金してそれに充当させていることや、まだまだそうしたことを実行している馬主が少ないことなどを語った。引退馬の余生について意識を高めるべく努力して行きたいとも発言した。

 長浜氏は、みなさんから教わるために参加したと言いながらも、競馬賞金の0.1%でも積み立てて頂けるような方策はどうか、また、引退功労馬の繋養は日高の今後を考えた場合、生産牧場の救済策として、高齢者対策にもなり得るのではないか、と自説を披歴した。

 沼田氏は長らく引退功労馬と関わってきた経験から、日本の厳しい現状や海外の事例などを紹介しつつ、「日本には戦前150万頭もの馬が飼われていた歴史がある。それを考えたら、もう少し受け入れられる余地がありそうに思う。競馬以外に、馬たちが生きていく上でどんな仕事ができるのかについても考えて行きたい。」と語った。

周囲に貼り出された引退馬写真

周囲に貼り出されたナイスネイチャやウラカワミユキらの引退馬写真



 いずれにしても、これまで馬に関わる多くの人々が直視してこなかったのが、この引退功労馬の余生についての問題だ。誰が馬の余生を見るのか、費用は誰が負担するのか。それぞれ意見は分かれるのだが、サークル全体で考えて行かねばならぬ問題ではあるだろう。

 現在、JRAの重賞勝ち馬や地方交流重賞の勝ち馬に限り、助成金(最大月2万円)が交付されており、約200頭がその恩恵を受けているが、年々対象馬が増えており、そのために14歳以上に限定されるようになっている。全ての引退馬の余生を保障することなどは到底できないにしても、改めてどうあるべきか、どうするのがベストかを考える必要がありそうだ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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