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着差以上の完勝/セントライト記念

  • 2014年09月22日(月) 18時00分


豪華メンバーによる中身の濃い一戦

 イスラボニータを筆頭に、秋のGIシリーズの注目となる春の実績上位馬がそろって出走した今年は、その期待どおり、かなり中身の濃い一戦だった。

 快勝したイスラボニータは「皐月賞1着、ダービー2着」馬であり、2着トゥザワールドも「皐月賞2着、ダービー5着」馬。3着に押し上げたタガノグランパも「ダービー4着」の星があり、4着ステファノスも「皐月賞5着」馬。上位はみんな春のGI好走馬だった。

 その中で「ダービー3着」のマイネルフロストは9着に伸び悩み、「ダービー6着」のショウナンラグーンは8着にとどまったものの、秋のビッグレースで注目を集めるだろうイスラボニータ、トゥザワールドは、春のランキングどおり秋の主要レースでも上位勢力となることになった。

 新潟の内回り2200mで、レースの中身は「59秒8-(11秒8)-60秒1」のバランス。大半の馬が内ラチ沿いを嫌った芝コンディションを考えると、緩みない流れでコースレコードと0秒7差の勝ちタイム「2分11秒7」は上々だろう。勝ち馬の上がりは35秒4。

 勝ったイスラボニータ(父フジキセキ)は、皐月賞と同じような2200mの距離。きわめて安定している左回り。血統背景から得意と思える平坦コース。それも自在の先行力が最大の強みとなる内回りの約360mの直線。負けたことのない充電直後の一戦。すぐ前方に当面の相手となるトゥザワールドが先行している展開…など、すべてプラスとなる要素ばかりがそろったが、もともと死角らしい死角のないスキのなさが長所だから、恵まれたわけではない。

 スタート直後、クビを曲げるようなシーンが続いたが、あれは蛯名騎手が内に押し込められるのを避け、芝の傷みかけたインから少しでも早く外に出そうとしたためで、口向きの悪さや折り合い難ではない。最後までノーステッキ。着差以上の完勝だった。

 レース直後は、「これで菊花賞かな」「いや、距離を考えて天皇賞(秋)だろう」。「天皇賞(秋)の蛯名正義騎手には、フェノーメノがいる…」。蛯名騎手は「逆転したい」と言ったから菊花賞だろうなど、さまざまな憶測が流れたが、オーナーサイドの吉田照哉氏から「菊花賞に挑戦することにした」と発表された。

 春のダービー2400mに出走する際には、血統背景や体型から考え、「距離のカベが大きいのではないか」とされた。だが、今週の「神戸新聞杯」に出走するワンアンドオンリーには4分の3馬身及ばなかったものの、ダービー史上6位の2分24秒6の勝ちタイムから0秒1差。とりあえず1マイル半まではこなしている。ペースしだいで、乗り切って不思議ない3歳馬同士の3000mである。配合の形や、体型は違うが、同じフジキセキ産駒では、ドリームパスポート(母の父トニービン。ステイゴールド、サッカーボーイの一族)が、2006年、3分02秒7の菊花賞レコードが記録された年の同タイムの2着馬である。

 ダービー快走の2着により、一部で春にいわれた「フジキセキの産駒だから…」は、ちょっと短絡がはっきりしたが、さすがに3000mになってプラスがあるとはいえない。しかし、競走馬にとり、未知の距離への延長、あるいは逆に、距離の短縮に対する試みは、さまざまな距離適性を秘めるタイプが入り混じっていた古い時代と異なり、みんな中距離型に集中した現代だからこそ「進展、進歩」への意味のある挑戦となるだろう。

 まもなく凱旋門賞が行われる。ゴール寸前に苦しくなり、がんばり切れず2着にとどまる敗戦がつづく日本馬(人)の課題は、育て鍛える術を見習い、知識を広げ、もっと強い馬を作ろうと努力しているうちに、いつのまにか、長い歴史を誇るがゆえに固定観念にとらわれすぎるとされてきたヨーロッパの競馬人より、もっと頭が固くなってしまったのではないかとされることもある。とくに距離に対する考え方は。イスラボニータの挑戦が、広がる可能性につながることに期待したい。

 トゥザワールド(父キングカメハメハ)は、外枠からコーナーで振られ置かれることを嫌ったか、最初から積極策に出た。2分11秒9(上がり35秒8)の2着は十分に合格だが、今回は皐月賞(0秒2差)、日本ダービー(0秒3差)と同じような0秒2差ではあっても、「秋の初戦だったから…」とはいいつつも、イスラボニータに完敗を認めざるを得ないレース後だった。

 当然、トゥザワールドが目ざすはイスラボニータ逆転だけではなく、ワンアンドオンリー以下ライバルをまとめて封じたい菊花賞だが、3000mになってのプラスはなにか、どこが物足りないかを考えるとき、ひょっとすると、距離延長に対する心配は(大型馬ゆえ)イスラボニータ以上に大きいかもしれない。ちょっと詰めの甘い一族の特徴(まず崩れない長所でもある)が、3000mになって無類のしぶとさとなってプラスになるか。それとも、決定力不足がさらに大きな死角となってしまうのか。非常にむずかしい馬である。凱旋門賞遠征を前に、今回の川田将雅騎手はおとなしくソツなく乗っていた印象はあった。

 タガノグランパ(父キングカメハメハ)は、巧みに中位につけて、終始勝ったイスラボニータをマークするようなレース運び。直線も勝ち馬の通った後を追うように伸びてきた。猛追してきたステファノス(父ディープインパクト)と並ぶと、あと一歩でトゥザワールドを交わして不思議ないクビ差まで追い詰めたから、さすがダービー4着馬。課題とされた折り合いはばっちりだった。同じキングカメハメハ産駒のトゥザワールドと似た体型だが、スマートに映る点で(母父スペシャルウィーク)、トゥザワールドより距離延長は応えないようにも思える。

 そのあとを追うように馬群から抜けてきたステファノスは、2着との差が「クビ、ハナ」の同タイムだけにちょっと残念。詰まるようなシーンもあって上がり35秒0。馬群を割ったが、脚を余した印象もあった。この距離だから切れたともいえるが、次走の注目馬だろう。

 ワールドインパクト(父ディープインパクト)は、直前の輸送減りとは思えるが、休み明けでマイナス12キロは3歳馬の秋だけに本来の動きを欠く結果につながってしまったか。さすがに内回りで後方18番手からは追い込めなかった。

 ショウナンラグーン(父シンボリクリスエス)は、たくましくなったと同時にちょっと太め残りだった。調教でも春の鋭さはなく、また、どうみても新潟の内回りというタイプではないから今回は仕方がない。このあとどう変わるかだろう。祖母は同じ大久保洋吉厩舎で、吉田豊騎手とのコンビだったメジロドーベル。ビッグレースになれば…の、変わり身に期待したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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