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生産原価743万円

  • 2004年01月20日(火) 12時55分
 やや古いのだが、中央畜産会の調査による2002年度のサラブレッド一頭あたりの生産費に関するデーターが「JBBA・NEWS」2003年12月号に掲載されている。

 これは全国の生産牧場からモデルケースとなる牧場を34戸(74頭)抽出し、それぞれの支出項目に応じた数値を平均化したもので、一応の目安になるものだ。

 これによれば、全国平均で、2002年度のサラブレッド一頭あたりの生産原価は、628万円と、前年比5.4%増。そして地域別では北海道が721万円、日高で743万円と、全国平均をかなり上回っている。しかも、対前年度比でも、北海道全体で11%、日高に至っては15.1%も上昇し、それに伴って収益性がますます悪化の一途をたどっていることが浮き彫りとなった。

 生産原価に占めるもっとも大きなものが種付け料である。全国平均で38.8%(219万円)、北海道で40.0%(約260万円)、日高で39.7%(265万円)と、依然としてかなりの負担になっている。

 ついで大きな割合になっているのは労働費。つまり家族以外の人件費である。全国平均で22.3%(約126万円)、北海道で20.4%(132万円)、日高で20.3%(135万円)とある。種付け料と人件費で、生産費の6割を超えるのである。

 また、繁殖牝馬の原価償却費も大きい。全国平均で11.6%(65万円)、北海道で13.5%(87万円)、日高では14%(94万円)にも膨らむ。

 生産牧場の場合、馬を管理する上で必要不可欠なのは、まず厩舎と放牧地。そして、その次に飼料と敷料などが思い浮かぶ。だが、それらの費用は、全体から見ると実に微々たる数字である。このデーターにある飼料費はいずれも6%以下。金額にして30万円台である。敷料に至っては1%にも満たない。(これはたぶん多くの牧場が自家生産した牧草を敷料に使用しているからか?)

 こうしてみるといかに種付け料に食われているかが歴然とする。全体の40%を占めるのは、明らかに異常である。これでは、収益性が悪化するのもやむを得ない。人件費よりも、繁殖牝馬の原価償却費よりも、抜けて数字が大きいのは、今後の日本におけるサラブレッド生産の険しい道のりを示唆している。

 ただ、現状では「種牡馬でアピールしなければ顧客がつかない」という背景がある。「10万や20万の種付け料では、生産馬を見にも来てもらえない」と多くの人が口にする。「市場でも、種付け料の高い順番に買い手がついて行く」との印象を持つ人も多い。総じて「実馬重視」から「血統重視」に傾斜しているのが今の競馬社会なのかもしれない。

 その意味で、繁殖牝馬の原価償却費が日高でより高い数値を示しているのは、「血統の更新」を目指して海外などから新たに繁殖牝馬を導入した投資分がここにカウントされているのであろう。確か償却期間が7年間だったはずなので、単純に掛け算をすれば、サンプル牧場全体(日高の場合だが)で繁殖牝馬の平均価格は約600万円から700万円という金額が算出できる。

 この2002年度の調査結果を踏まえて、中央畜産会では「生産費増、粗収益減、収益性の悪化さらに進む」と結論づけている。粗収益が全国平均で約557万円。生産原価を割り込む販売価格になっているために、「生産を続ければ続けるほど赤字が増える」結果となっているのである。何とも厳しい調査結果だ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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