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時を待つこと

  • 2014年11月06日(木) 12時00分


アルゼンチン共和国杯で思い出すスクリーンヒーロー

 粘り強くあるには、ひとつの心境がもとめられる。克服のできない困難、終わりのない逆境などありえない、そう自分に言い聞かせることだ。秋の天皇賞を重賞初勝利で飾ったスピルバーグを見て、そんなことを考えていた。3歳時の春、フェノーメノやゴールドシップなどと十分に戦っていたのが、ダービーで夢破れて挫折し、その後ぜい弱な体質が災いし長期休養を余儀なくされていた。

 この一年3ヵ月に及ぶ休養期間こそ時を待つ心境と言ってよく、この春、東京でオープン特別を勝って3連勝し本格化と思ったところでまた休養、あくまでも無理をさせずねばり強く秋を待ったのだった。体質が強くなった証拠に、毎日王冠から中ニ週でも十分にトレーニングできた点があげられた。当初から期待されていた決め手にみがきがかかり、これが北村宏騎手の自信にもつながっていて、自分の競馬に徹し切ったのだと言えるのではないか。正に、克服のできない困難、終わりのない逆境などありえないのだ。いかにスピルバーグを信じていたかにも通じ、事を成すとはどういうことかを教えてくれている。競馬に人生をダブらせることがあるが、こんな成功例を目の当たりにすると元気が出てくる。さて、スピルバーグの次はと、人間の欲はふくらむのだが、こう思うのも人間だから仕方ない。

 重賞未勝利馬の優勝が続くこの秋、これに続く馬が出てくるかどうかだが、アルゼンチン共和国杯で忘れてはならない重賞初勝利馬がいる。セントライト記念で菊花賞出走の権利を得ながら、無理をしなければ必ず大成するからと、脚元の不安に出走への思いを踏みとどまらせていたスクリーンヒーローだ。3歳秋から翌年の夏まで休養し、そこから4戦目、格上挑戦で挑んだアルゼンチン共和国杯を勝ち、その3週間後、ジャパンカップをも制覇したのだから、このときのねばり強さも大したものだった。GI初挑戦での初制覇、何ごとをなすにも時というものがあり、そのチャンスをものにする心構えが見えてくる。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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