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次のレースに大いに注目/シンザン記念

  • 2015年01月13日(火) 18時00分


上位勢の能力は紙一重かもしれない

 年が明けて3歳馬(2012年生まれ)となったこの世代の初重賞を制したのは、グァンチャーレ(父スクリーンヒーロー)だった。

 武豊騎手(45)は、これで歴代単独トップとなる29年連続「JRA重賞」制覇であり、シンザン記念制覇は7回目となった。その7勝は、1997年シーキングザパール、1999年フサイチエアデール、2002年タニノギムレット、2003年サイレントディール、2004年グレイトジャーニー、2005年ペールギュントに続いてだった。

 日本ダービーを勝つことになるタニノギムレットを筆頭に、シーキングザパールはNHKマイルC、モーリスドギース賞(仏GI)…など。フサイチエアデール、サイレントディール、グレイトジャーニーものちの重賞勝ち馬であり、3歳グァンチャーレにとっても、武豊騎手にとっても、なによりうれしい年最初の重賞勝ちである。

 種牡馬スクリーンヒーロー(父グラスワンダー。祖母は名牝ダイナアクトレス)にとっては、2世代目の産駒から出現した初めてのJRA重賞の勝ち馬だった。

 1分34秒8(前後半48秒2-46秒6)の勝ちタイムは、高速レースが続く最近5年間ではもっとも遅い時計だが、これは前半1000m通過「60秒1」のスローが原因として、4着ダッシングブレイズまで同タイム1分34秒8で、「アタマ、ハナ、クビ」の差だけ。スローで逃げたレンイングランドも当然のように残って、1分34秒9。ひょっとすると、結果が示すようにみんなの能力は紙一重かもしれない。各馬のこのあとの展望や評価は大きく分かれそうでもある。

 勝ったグァンチャーレは、2歳11月の東スポ杯1800mをインに詰まって不満足な7着のあと立て直し、今回はプラス12キロの446キロ。中間の動きも素晴らしく、この時点では満点に近い状態だったろう。スローの流れの中団。4コーナー手前から一気に先頭を射程に入れたスパートは鋭かった。3代母ハシノシーダー(父ミンシオ)は、中京記念などのパワーシーダー(その産駒ヴァイスシーダーはニュージーランドTの勝ち馬)の、半姉。中山記念などのヒカルジンデンの一族である。

 馬体重より大きく見せる体のバランスは良く、騎乗した武豊騎手のコメントは「距離は延びたほうがいい」というトーンだったが、ここが難しい。もちろん短距離タイプではないが、個人的には2000m級の方がいいという中距離タイプではなく、マイラー色が濃いようにも思える。陣営が次走にマイル戦を選ぶことはないだろう。有力なクラシック候補になれるかどうか、次のステップレースに大いに注目である。

 2着に突っ込んだロードフェリーチェ(父ハービンジャー)は、前半は最後方から差を詰めたあと、そう外には回らずに突っ込んで、先に抜けたグァンチャーレとアタマ差。上がりは勝ち馬を0秒2上回った。高速上がりのマイル戦で、あまり器用な脚を使う産駒が少ないハービンジャー産駒とすれば(だから9番人気)、頭数が少なかったこともあるが、京都1600mでこの内容は素晴らしい。ファミリーは、トリプティク、ジェネラスで知られる日本でも大人気の牝系であり、凱旋門賞2連覇中のトレヴと同じ一族。ロードフェリーチェの3代母バーガー(父リヴァーマン)は女傑トリプティクの1歳下の全妹であると同時に、トレヴの3代母トレヴィラの半妹でもある。グァンチャーレが6戦目だったのに対し、こちらは3戦目。短絡にハービンジャー産駒だからというだけでなく、距離はもっとあった方がレースはしやすいだろう。反骨の昆厩舎所属、四位騎手のコンビ。だれもが抱くイメージ通りのタイプに育ってくれたら、楽しみが大きくなる。

 評価の難しくなっていたナヴィオン(父ハーツクライ)が、道中は最後方近くでモタつきながら、猛然と割って伸びて「アタマ、ハナ」差の3着。上がり33秒2は、断然のNo.1だった。なまじ動かず、直線だけのレースになったときにだけ好走し、これで全6戦が1600m以下であり、【2-0-2-2】。ハーツクライ産駒で橋口厩舎の期待馬。ここまで1600m以下だけを6戦もしてしまったが、当然のことながら、目ざすはワンアンドオンリーである。勝ったグァンチャーレと同じく、本当に2000m級になって能力全開があるのか。マイルを使いすぎてはいないか。問われるのはこの後の重要なステップの一戦である。

 1番人気のダッシングブレイズ(父キトゥンズジョイ)は、大外から突っ込んだが同タイムの4着。コース取りではなく、一気にペースが上がったときに対応できず、エンジンフル回転となるのに手間取ったのがこの馬だった。こういうタイプはどの世代にもいるもので、負けて強しの印象がずっと残るからやっかいだが、ここがまだ3戦目。どうみても器用なマイラー系のスピード型ではないのは明らかであり、あまりにも月並みだが、「負けて評価が落ちないのはこの馬」ではないかと思える。

 上位陣はまだみんなコンビの騎手を確保したわけではないが、今回はダッシングブレイズだけがまたまた騎手変更でテン乗りだった。賞金を加算するため(早く展望の開ける権利を得るため)には、ジョッキーの変更は仕方のないことではあるが、クラシック本番まであと3ヶ月。どんどん強化する相手に立ち向かい、これを切り抜けていかなければならない当の馬自身も大変だが、同時に陣営の力量が問われるのがクラシックである。

 5着レンイングランド(父クロフネ)は浜中騎手も認めるように、「マイルはぎりぎりで、ちょっと長いかもしれない」だろう。サトノフラム(父マンハッタンカフェ)は、行きたがる気性が前面に出てしまい、レース振りが1戦ごと悪くなっている。ふつうは休んでいる時期ではないが、素質を開花させるには、さすがにもう連戦はつらいかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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