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文句なしに合格の内容/弥生賞

  • 2015年03月09日(月) 18時00分


弥生賞としても標準以上の中身

 クラシックを前に、最重要のトライアルとなる皐月賞と同じ中山2000mのこのレースには、重賞勝ち馬が7頭も含まれていた。

 前日の7日(土)に行われた牝馬の重要なトライアル「チューリップ賞」では、ココロノアイ(父ステイゴールド)が快勝し、この3歳世代で初めてJRA重賞2勝目を記録したばかり。

 ここで重賞未勝利馬が接戦を切り抜け、さらに牡馬クラシック路線が難解になるのも悪くない。逆に、一段と強い勝ち方を示す候補が現れ、牡馬陣初の重賞2勝目を飾り、候補ランキングのトップに立つのも悪くはない。大きな注目を集めた中山の2000m(稍重)を鮮やかに抜け出したのは、これで3戦3勝。11月の東京スポーツ杯2歳Sにつづいて重賞2勝目となったサトノクラウン(父マルジュ)だった。

 勝ちタイムの2000m2分01秒8(レースの前後半61秒3-60秒5)は、直後の古馬1000万条件の1600mが1分35秒5(前後半47秒7-47秒8)で決着した内容から推測すると、馬場差はマイル戦で少なくとも1秒0はあるので、推定「2分00秒5」前後の中身に相当すると考えられる。少しも遅くはない。弥生賞としても、さらには例年の皐月賞2000mと比較しても、標準以上の中身と判断していいだろう。

 サトノクラウンの今回の課題は、2連勝してきた東京の1800mではともに上がり33秒台の切れを発揮し、とくに東スポ杯では坂上から50-100mの間に瞬間移動を思わせる瞬発力をムーア騎手で爆発させたが、中山の急坂であの切れが繰り出せるのか。自在性はあるのか、だった。

 中団につけ、前に馬がいないのに十分に折り合い、4コーナーからスパートすると楽に抜け出してきた。文句なしに合格である。上品すぎるのではないか、と思える馬体も482キロになり、稍重馬場も平気、不安のあったゲートの不安もまったく問題なかった。

 血統図は、まるでエルコンドルパサーを思わせるようなクロスパズルで、5代血統図の中だけでも、ノーザンダンサー、ミスタープロスペクター、バックパサー、サーアイヴァーがクロスする。父マルジュ(その父は日本にきたラストタイクーン)は、ジェネラスの勝った1991年の英ダービー2着馬であり、代表産駒には、M.デムーロ騎手を主戦に仏G1を勝ったマルバイユがいる。輸入されたマルバイユは、桜花賞馬マルセリーナと、皐月賞1番人気のスピード型の大物グランデッツァの母である。輸入種牡馬ジェネラスの弟には、オースミタイクーン(父ラストタイクーン)がいる。ラストタイクーンの血は、だいたい入り組みながら日本で枝を伸ばしている。

 サトノクラウンの場合、母ジョコンダII(父ロッシーニ)のファミリーは中距離向きのスタミナも秘めている。シャープで伸びのある体型からみて、2400mくらいまでなら距離うんぬんは問われないだろう。ただ、このあとの騎手は、どの馬も乗り代わりなど日常茶飯事で、だれが主戦ということもないケースが多いうえ、福永祐一騎手はリアルスティール(スプリングS予定)ではないかと思えるから、まだよく分からない。短期免許の外国人騎手までありえる。

 2着に突っ込んできたのは、札幌2歳Sの勝ち馬ブライトエンブレム(父ネオユニヴァース)。

 道中はひかえて後方に位置し、4コーナーでは外に回ってよれたグァンチャーレのさらに外へ。あれだけ強引にスパートして、それも大外に回って、坂で失速するどころか抜け出したサトノクラウンを追い詰めるように1馬身半差(0秒2差)。上がり3ハロン35秒2は断然だった。

 札幌2歳Sとは相手が異なるから届かなかったが、3着以下には2馬身半の差をつけている。通ったコースを考えれば、勝ったサトノクラウンと同じくらいの総合力があるだろう。

 ただ、あの形で良さが生きるとすると、11頭立ての今回でさえコースロスが大きかった気がするから、18頭立ての皐月賞は、正直、ちょっと心配である。今回は渋り気味でタイムを要した芝コンディションも明らかにプラス要素だった。まさか本番で一転、好位追走も、イン狙いもないだろう。大外から届くのだろうか。

 ロジユニヴァースと同じネオユニヴァース産駒。スタミナに不安はないはずだから、陣営がもらしたように「皐月賞のころはもっと全体に荒れた芝になるだろう…」。皐月賞は、Bコースとなる。たしかに春の天気は難しく、また、内寄りの芝がいいということはない。

 パドックでは大きなスケールの好馬体を誇り、最初は落ち着き払っているようにみえた1番人気のシャイニングレイ(父ディープインパクト)は、本馬場に入ってしばらくたち、ちょっと目を離した瞬間に川田騎手が下馬していた。暴れかけたので飛び降りたのか。いれ込みというより、急に機嫌が悪くなり、鞍上の指示もなにも聞きたくなくなったように映った。いかにも不機嫌そうにスタート地点近くのポケットに行ったものの、「あれではレースが大変だろう」と心配された通り、こころここにあらず、だった。少々行きたがるのは前回も同じで、単にかかっての失速ではない。まだ2戦だけの若駒だからなんともいえないが、「いやだ、といっているだろう…」、そういう首の振り方だった。

「ひとまず馬の状態を確認して、次に向かいます(高野調教師)」となったが、ここまで候補No.1馬に生じた突然の異変である。注目馬が連勝のスタートを飾り、さあこれからと期待がたかまったところで、次に「あれっ、どうして…」という凡走になったのは、ティルナノーグを筆頭に、今回のクラリティスカイもほぼ同じ。休み明けだったとはいえベルラップも。前日チューリップ賞のクルミナル、コンテッサトゥーレ、先週のネオルミエール…など、今年はそんな馬が異常に多い気がする。シャイニングレイも、ほかの注目馬も、何ごともなかったように立ち直って欲しいが、クラシックはサバイバル路線とはいえ、明らかに不完全燃焼で妙な大敗を喫する馬が、この世代はどうしてこんなに多いのだろう。なにかが、変である。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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