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ハルウララ、浦河へ

  • 2004年03月16日(火) 11時35分
 現在105連敗中の話題のハルウララが、このほど引退後に浦河町へやってくることが決定したらしい。

 3月10日付けの地元各紙がいっせいにこの記事を掲載し、今浦河ではこの話題で持ちきりである。

 「負けても負けても走りつづける姿が共感を呼び、全国人気の競走馬になった高知競馬ハルウララ(牝8歳)=三石町産=が引退後の余生を浦河町西舎の乗馬リゾート施設・アエルで送ることが9日までに決まった」と一面トップで報じているのは日高報知新聞。続けて「引退時期は決まっていないが、同馬の父ニッポーテイオー(20歳)もアエルに功労馬として繋養されており、町あげて誘致に動いてきた谷川弘一郎町長は『ハルウララは物語を背負った馬。ロマンを感じる。お父さんと一緒に浦河で余生を送ってもらいたい』と話し、町観光の起爆剤として大きな期待を抱いている」と記す。

 この報道を受け、さっそく浦河町役場に問い合わせたところ、次のことが確認できた。1.引退時期は未定であり、その時期についてはあくまでも馬主や厩舎サイドの意向によって決まる。当面は現役続行すると聞いている。2.現在決定しているのは「引退後浦河で余生を送る」ということだけ。譲渡に伴う諸条件については今後関係者と交渉する予定。

 引退時期未定はすでにあまねく知られた事実だから、それはまあいいとして、気になるのは、「譲渡に伴う諸条件については今後関係者と交渉する」というくだりである。

 報道を見る限り、このハルウララの余生について町ではかなり熱烈に誘致活動をしていたようだ。それが奏効し、このほど念願叶って浦河での繋養が決定した、と手放しの歓迎ムードなのだが、どうも現在の(つまり3月22日に武豊が騎乗し出走する直前の、という意味である)ほとんど人気がピークに達している姿に幻惑されているのではないか、と私には思えてならない。

 次走が引退レースならば、人気が頂点に達したまま引き取ることが可能だが、ハルウララは今後も当分の間、高知競馬のためにひたすら走り続けるのである。そして、このハルウララの存在価値は、高知競馬でけなげに走り続けてこそ、高まるものだと思われる。

 この馬にいったいどれくらいの対価を支払うことになるのかは今後の交渉次第だが、地元紙には「お金で換算できないほどのPR効果がある、と町は皮算用している」とあり、どうもこのあたりが私などとは考え方に温度差のあることを感じる。引退後、浦河で引き取ることそのものに反対はしない。幸せな老後を送れることになった幸運な馬だなあと思うのみである。ただし、今の人気にあやかって「客寄せパンダ」にするべく町を挙げて手ぐすね引いて待っているような姿勢はいかがなものだろうか。

 ハルウララの価値をいくらに見積もるか、はそこの部分での「付加価値算定」いかんで決まる。様々な関連グッズを考案し販売している高知県競馬組合には、正直なところ頭が下がる。競馬場存亡の危機に立たされている高知だからこそ、今のうちにたくさん儲けていただきたいと心から願うものである。大いに結構なことだ。地元の所属馬であればこそ、こうした事業展開も許容されると私は思う。

 だが、もし浦河町も、柳の下のどじょうを狙って、高知競馬と同じ手法を本気で考えているとしたら、それはいささか無理があるだろう。本来、ハルウララと浦河は何の関係もないのだから。現在の人気が過熱しすぎていると思えるだけに、今後の展開が気になるところだ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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