“ひょっとしたら”と感じさせるトーホウジャッカルの潜在能力/トレセン発秘話
◆衝撃的だった坂路後の姿
普通に考えれば、今回のトーホウジャッカルは“無理筋”だろう。爪を傷めたことで阪神大賞典を回避。回復に予想以上に手間取り、厩舎で馬房につなぎっぱなしの日々がしばらく続いた。
坂路入りを再開したのはアクシデントから1か月半以上もたった5月6日。その時点で馬体は完全にしぼんでしまっており、かなり厳しい状況だった。時計を出し始めてから順調にタイムを詰め、それなりに格好もつくようになってきたが、それでもこうした経緯があっての8か月ぶりだ。惨敗もやむなしだろう。
が、この馬ならひょっとして…と思ってしまうような光景をこの中間に目にした。一頓挫があって以降、4ハロン55.6-13.8秒と初めて坂路で時計らしい時計を出した5月21日のことだ。たまたまこの時の動きを見ていたが、重要なのはタイムではない。坂路を駆け上がった後だ。
普通ならキャンター程度の時計でも、坂路を上がり切った直後は息が多少なりとも乱れるものだが、この時のトーホウジャッカルは「フーッ」とすら言ってなかったように見えた。追い切り直後の馬の息遣いではない。しかもケガが長引いて馬場入りもできず、あれだけ長いこと休ませた後の初めての追い切りでこれなのだから余計に衝撃的だった。
これこそが、従来の記録を1秒7も更新して菊花賞を勝ってしまう馬の心肺機能なのだろう。併せた1週前追い切り(17日=4ハロン51.7-12.8秒)の調教役を務めた藤懸も「あれだけビッシリ追い切って、すぐ息が入った。さすがGI馬だと思いましたね」と驚嘆していた。
常識的には厳しい今回のトーホウジャッカルだが、生死をさまよった2歳夏の重い腸炎から復活し、史上最速で菊花賞を制した馬の根性とポテンシャルの高さを思えば、やはり無印にはできないと考える次第である。
(栗東の坂路野郎・高岡功)