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種付けシーズン最盛期

  • 2004年05月11日(火) 19時31分
 何とか大型連休と日高路の桜の開花が重なることなく過ぎ、生産者は正直なところホッとしている。今年はとにかく4月29日から5月5日まで、たっぷり一週間あったのだ。この期間に静内の二十間道路の桜並木が開花していたらと思うと、ぞっとする。私も5月2日に種付けのためトラックでこの道を通ったのだが、花はなくとも車だけはズラリと連なっていた。各種場所の入り口には交通整理のための人員(町役場職員?)が配置され、馬運車の出入りするたびに誘導に務めている。桜並木が静内町にとっては大きな観光資源であるとともに、一方ではサラブレッドの生産も町の基幹産業である。種付け時期のピークに大型連休と桜の開花が微妙に重なってくるため、毎年この時期は生産者も交通渋滞に泣かされることになる。

 現在、その渋滞の最大のポイントは、日高の場合間違いなく門別町富川の国道分岐点だろう。苫小牧方面から静内、浦河方面へと進んでくると、ここで日勝峠方面へ向かう国道237号線と、日高路をまっすぐ浦河に向かう235号線とに分かれるのだ。例えば浦河(静内でも)に住む私たちが馬運車で社台スタリオンに行く場合、必ずここを通過しなければならない。行楽客の車列に馬運車が呑み込まれ、二進も三進も行かなくなっている風景を毎年見かけるのがここだ。

 そんな渋滞を嫌ってのことか、今年はいつになく種付け開始が早かった、というのが獣医師たちの弁である。種付けの前には、獣医師により必ず繁殖牝馬の肛門から手を入れて触診による「直腸検査」によって卵巣の状態を調べてもらうため、彼らは生産者たちの動向に通じている。自身の抱える顧客に関しては、いつ、誰がどの種牡馬を種付けしたかを完璧に把握しているのが普通だ。

 種付け時期の前倒し?によるメリットは何か。一つはピーク時の混雑を避けられることが挙げられる。人気種牡馬は、今や年間200頭もの交配を行う時代だから、ピーク時の混雑ぶりもまた大変なものなのだ。朝昼夕方の一日三回交配が標準ペースだが、とてもそんな悠長な種付けでは捌けなくなるので、それに早朝やナイターが加わり多い日だと一日五回もの「お勤め」をこなすことになる。いくら馬でも、これは“難行”だ。

 そしてもう一つには、「早く出産させて早く成長させる」ことを目指す生産者が増えている、ということ。とりわけ2歳あたりまでは、早生まれと遅生まれでは、成長度においてかなりの開きが生じる。方や1月生まれと、もう一方の6月生まれでは、およそ半年のハンディとなる。早く生まれた馬はそれだけデビュー時期も早くできる、という理屈である。仮に地方競馬へ入厩したとしても、認定レースは2歳の時期しかないので、早生まれはその分有利なのは間違いない。

 さて、現在の段階で、人気のある「満口種牡馬」は、アグネスタキオン、ダンスインザダーク、バブルガムフェロー、マヤノトップガン、マンハッタンカフェ、マーベラスサンデー、アグネスデジタル、シンボリクリスエス、ジェイドロバリー、タイキシャトル、ティンバーカントリー、トワイニング、ワイルドラッシュ、といったところ。

 種付け料はそこそこで実績のある馬、そして現役時代の圧倒的な強いイメージの残る馬、などが人気と言えるだろうか。必ずしも、リーディングサイアーランキングの上位馬ばかりに集中しているわけではないようだ。フジキセキ、サクラバクシンオー、クロフネ、フレンチデピュティ、アフリート、コマンダーインチーフなどはまだ満口にはなっていないようで、これらの高額種牡馬は、付けたくとも肝心の種付け料を捻出できなくなっている生産者が増えてきているのかも知れない。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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