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ハルウララと元主戦が再会「いつか高知競馬場で一緒に馬場を一周したい」/動画

  • 2015年08月04日(火) 18時01分
第二のストーリー

▲ハルウララと古川文貴元騎手、高知のコンビが千葉で再会


「相変わらずですね、現役時代も噛みついてきました」


 ハルウララの取材をするため、千葉県御宿町にあるマーサファームを訪問したのは、昨年9月だった。(前回の記事はこちら)

「負け組の星」と呼ばれ、連戦連敗のハルウララに日本中が声援を送って一大ブームとなってから、10年近い月日が流れていた。途中からオーナーとなった女性の方針で放牧に出て、そのまま高知競馬場に戻ることなく競走馬登録を抹消されたハルウララは、ファンの前から姿を消した。その後は居場所を転々としながら流転の日々を送り、ようやく落ち着いた場所がマーサファームだった。

 ハルウララというのどかな馬名とは裏腹に、写真撮影にも苦労するほどに落ち着きがない。馬場に出れば、跳ねては走り、仲良しのマーキュリーを従えて馬場内を元気に歩き回り、砂地にゴロゴロ寝転ぶという、ハツラツとしたハルウララがそこにいた。

 あれからおよそ10か月が経った7月19日、ハルウララの元主戦だった古川文貴元騎手がマーサファームに訪れると聞き、再び御宿の地に赴いた。113戦のうち37戦の手綱を取ってきた古川さんはデビュー前のハルウララの馴致から手掛け、デビュー戦にも騎乗していた。途中、騎乗していない時期もあったが、後半はほとんど古川さんがその背中にいた。

 古川さんが馬房の前に立つと、ハルウララは耳を絞って噛みつこうとした。「なぜ会いに来てくれなかったの?」と怒っているのか拗ねているのかは不明だが、古川さんを覚えているという感じは伝わってきた。

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▲いよいよハルウララとご対面


「相変わらずですねえ。現役時代も噛みついてきましたから。で、乗ると跳ねるんです(笑)。気性が荒かったので、宗石先生が大人しくなるようにって、優しい名前をつけたんですよ」(古川さん)

 だから性格と名前が裏腹なのだと、妙に納得する。

「この馬が高知競馬場に入厩した時は、鞍着けもまだしていなくて馴致から手伝いました。デビュー戦に騎乗しましたけど、シンガリ負け(笑)。ゲートもうるさかったですよ。武(豊)さんが乗った時も、ゲートの中で暴れて出遅れてました(笑)。ほとんど毎回暴れていましたけど、慣れてましたし、何もしないで放っておきます(笑)。その方がちゃんと出ます」

 と古川さんの口から、現役時代のエピソードが次々と明かされる。ハルウララといえばキティちゃんのメンコが有名だが「あれはメンコがボロボロで、穴が開いていたからキティちゃんのアップリケで埋めていたんですよ(笑)」(古川さん)と、これまた衝撃の事実が明らかになったが、地方競馬の台所事情が垣間見えて、複雑な気持ちにもなった。

 やがて負け続けながらもひたむきに走るハルウララにスポットが当たり、走るたびに日本中から注目される存在となった。たくさんのファンが高知競馬場に詰めかけ、声援が送られた。しかし放牧に出たハルウララは、高知競馬場に帰ってくることはなかった。

 約9年間の騎手生活に古川さんがピリオドを打った翌日に、ハルウララの競走馬登録も抹消されている。

いつの日か高知競馬場でのお披露目が実現されたら…


 マーサファームの宮原優子さんが、早速馬装を始める。鞍下のゼッケンにはハルウララと刺繍されていた。居場所が判明して以来、テレビや新聞などのマスメディアの取材を受けることも多く、馬名入りのゼッケンを作成したという。「ここに来てから、私以外の人が乗るのは初めてなんです」と宮原さん。それくらいハルウララは気ままな馬のようだ。

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▲「ハルウララ」の馬名入りゼッケン


 馬房から引き出されて馬場へと向かうハルウララの姿に「張りがあって若々しいですねえ」と古川さんに同行してきた粂川京利元騎手は言う。さらに「痛いんだよ、こいつのムチはって、ハルウララは古川を見て思ってますよ、きっと(笑)」と明るく笑った。

 古川さんは騎手を引退後。しばらく育成牧場で勤務していたが、現在は三重県で車関係の仕事している。その傍ら三重県や長野県、静岡県など各地で行われる草競馬やお祭りで花形騎手として活躍中だ。古川さんと地方競馬教養センターの騎手課程で同期だった粂川さんは、現在は美浦近郊の育成牧場で働いており、2人とも、形は違えどずっと馬に関わり続けているのだった。

 古川さんがいよいよハルウララに騎乗する時が来た。最後のレースとなった2004年8月3日のハルウララ・チャレンジカップ以来だから、約11年振りの騎乗だ。ちなみにこのレースには、ハルウララの半弟オノゾミドオリと半妹ミツイシフラワーも出走しており、優勝したのはオノゾミドオリで、ハルウララ5着、ミツイシフラワーが8着という結果となっている。

 ハルウララに跨った古川さんは、鐙の長さを調節すると、静かに馬を発進させた。ゆっくりと常歩で足馴らしをしてから、ダク(速歩)へと移行し、スピードも徐々に上がる。ハルウララと古川さんは、互いの感触を懐かしむかのように馬場を周回し、駈歩に移る頃にはすっかり人馬一体となっていた。駈歩を踏むハルウララのリズミカルな蹄音と息遣いが、ファーム内に響いた。

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▲宮原さん(左)が馬装をし、古川元騎手が馬上へ


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 ひとしきり走った後に「どう? 昔の彼女は?」と粂川さんが質問する。

「(競走馬時代は)物見が結構激しかったのですけど。変わったものがあると、遠回りをしてみたりとか。でも今日はほとんど物見をしなかったですし、とても乗りやすかったです。普段乗っている人が巧いのではないかと思います」と、古川さんは答えた。

 古川さんがハルウララから降りると、今度は騎手を目指す粂川さんの長男の賢心君が、馬上の人となった。しかし、ハルウララは押しても引いてもまるで動かない。

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▲騎乗しているのは粂川元騎手の息子で、中央競馬の騎手を目指す賢心君


「動かないか、動いたらどこか飛んで行っちゃうかどちらかです(笑)」と宮原さん。鐙の長さが賢心君の体に合っていなかったので、うまく脚(きゃく)を使えなかったのも影響していたようだが、宮原さんが言う通りにハルウララが気ままな馬だというのもよくわかった。

 最後に粂川さんが跨ると、さすが父の貫録、打って変わってハルウララは機敏に動いた。「乗った感じは、若々しくて素軽かったですよ。可愛がってもらっているんだなというのも、伝わってきました。でも人の彼女を取ったみたいな気分です。してやったりですね(笑)」と粂川さんはおどけていたが、元騎手が乗るとさすがにまずいと思ったのか、途端にシャキッとするハルウララにも笑えた。

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▲元ジョッキーの貫録!粂川元騎手が騎乗すると機敏に動くハルウララ


 11年振りの騎乗後、洗い場の前で手入れをされるハルウララを古川さんはねぎらった。ウララは甘えるような仕草をした。やはり覚えている。漠然とだが、そんな気がした。それほどごく自然な一対に見えた。

 手入れをしていた賢心君が人参を差し出すと、一層、甘えた表情になった。

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▲乗せてもらったお礼に手入れをする賢心君


「人参をおねだりする時だけ、ものすごく可愛い顔をするんですよ」と宮原さんに教えてもらったのでしばらく観察続けていると、人間の手に人参があるとわかるたびに、この上なく表情が女の子っぽくなる。再会した古川さんに耳を絞って噛みつこうとしていたのに、食べ物があるとこの表情…。このしたたかさが、ハルウララの魅力の1つにもなっている。

「いつか高知競馬場で、ハルウララと馬場を一周したいですね」

 19歳とは思えないほどの馬体の張りと、ハツラツとした若々しさをその背中から感じ取った古川さんは、夢を語った。放牧に出されたまま、高知競馬場に戻ることなく引退してしまったハルウララだけに、現在の元気な姿をファンの前にお披露目をしたいという気持ちが、古川さんの中に湧き上がってきたのだろう。その話を聞いていた宮原さんは「帯同馬がいるなら良いですよ」と笑顔だった。

 もし実現したら、ハルウララと仲良しのマーキュリーが一緒に高知競馬場に行くのかもしれないし、高知競馬場に集まったファンの方々も、きっと笑顔なるのだろうな…など、想像するだけで嬉しい気持ちになってくる。これは古川さんだけの夢ではなく、かつてハルウララを応援し、ハルウララに励まされてきた人々の願いでもあると思う。

 強かった日射しがようやく陰ってきた頃、手入れを終えたハルウララが馬房に戻ってきた。

「騎手時代に僕が乗った馬の中で生き残っているのは、多分ハルウララだけだと思います」

 古川さんがつぶやいた。競走馬に生まれたほとんどの馬が天寿を全うできずにこの世を去る。高知競馬出身で引退後に命を繋いでいる元競走馬を過去に何頭か取り上げたけれど、この馬たちはラッキーだったのだと言っても過言ではない。古川さんの口調は、決して重くはなかったし、さりげなくつぶやいた感じの一言だった。だがその一言は、ずしりと胸に響いた。

 表舞台からひっそりと姿を消して、居場所が明かされないまま居場所を転々としてきたハルウララだが、今では「春うららの会」の支援を受け、宮原さんの愛情のもとマーサファームでのんびりと余生を過ごしている。ある意味ハルウララは、運の良い馬のように思う。

 競馬は優勝劣敗の世界だとよく言われるが、1頭1頭の馬に個性があり、感情がある。競走馬としては能力が足りなくても、乗馬として、セラピーホースとして才能がある馬もいる。特別な才能がなくても、ただそこに存在しているだけで、人々に喜びを与えてくれる馬もいる。競走馬としての能力が劣っているからという理由で、切り捨てられていく馬の命を考えた時、天寿を全うできない馬たちの分までハルウララには、心ゆくまでのんびりと御宿の地で過ごしていってほしいと心から願う。

 そしていつの日か、ハルウララ&古川さんの名コンビのお披露目が高知競馬場で実現する日が来ることを、心待ちにしたい。

(取材・文・写真:佐々木祥恵)


※ハルウララは見学可です。見学の際は事前に必ず連絡をしてから訪問してください。

マーサファーム
〒299-511
千葉県夷隅郡御宿町上布施2636-2
見学時間 9:00〜11:00 14:00〜16:30
連絡先 090-7823-2234(宮原さん)

春うららの会HP
http://mf-urara.jimdo.com/

マーサファームHP
http://www.matha-farm.com/

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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