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ダート界のチャンピオン級に育つ約束はできた/レパードS

  • 2015年08月10日(月) 18時01分


正攻法でパワーアップしたい

 芝部門の3歳馬は、セントライト記念、神戸新聞杯から「菊花賞」の路線があり、牝馬はローズSなどをステップに「秋華賞」に向かう路線がある。だが、ダート路線組はこのレパードSが3歳限定のグレードレースの区切りの1戦。次走からは距離を問わず4歳以上馬との対戦になり、クロスクリーガーダノンリバティゴールデンバローズ…などは、6歳ホッコータルマエを筆頭のダートチャンピオン級と対決することになる。

 兵庫チャンピオンS(Jpn2)につづいて重賞2勝目を飾ったクロスクリーガー(父アドマイヤオーラ)は、第1回の勝ち馬トランセンド(のちにG1格4勝)の破格の勝ち時計1分49秒5(自身のレコードとタイ記録)には、馬場差もあって遠く及ばなかった。しかし、良馬場のダートでは12年ホッコータルマエ(G1格9勝)の1分51秒8。10年に勝った牝馬ミラクルレジェンド(交流重賞7勝)の1分51秒8とまったく互角の、「1分51秒9」である。

 母ビッグクィーン(父ブライアンズタイム)の半兄には、8歳時に日経賞G2を制し、のちに障害戦でも勝つなど10歳まで活躍したユキノサンロイヤル(父サンデーサイレンス)がいる。

 今春、11歳で急逝した父アドマイヤオーラ(父アグネスタキオン、母ビワハイジ)の送った最初のJRA重賞の勝ち馬となったクロスクリーガーは、これでダート【5-1-1-0】。一連のレース内容から、まず大崩れのないダート界のチャンピオン級に育つ約束はできた。

 ノンコノユメ、いきなり今回小差に食い下がってきたダノンリバティ、やがて巻き返してくること必至のゴールデンバローズなど、同期のライバルをさばくだけでも大変なことだが、このファミリー出身ならおそらくタフだろう。成長力に恵まれているのも間違いない。今回のレース運びと同じように、先行馬をマークし、ねじ伏せて抜け出す正攻法でパワーアップしたい。課題は、一段のスタミナ強化か。ノンコノユメに屈した前回も、今回も、最後は甘かった。

 2着に押し上げたダノンリバティ(父キングカメハメハ)は、大変なダート巧者の可能性を秘めているとみられていたが、その予測を上回る力強い内容だった。初ダートで砂を被るのは賢明ではないと判断した戸崎騎手は、コースロスを承知で最初の1コーナーからずっと外を回る作戦をとった。追いすがろうとした直線の中ほど、抜け出したクロスクリーガーに突き放されたが、ゴール寸前もう一度接近して4分の3馬身差(0秒1)に追い詰めている。

 初ダートで、終始外を回りながらクロスクリーガーとわずか0秒1差。ゴール寸前の脚いろはむしろ上回っていたあたり、レースの中身は勝ったクロスクリーガーと少なくとも互角。次に対戦するなら先着して不思議なしの印象があった。詰めの甘さで伸び悩んでいた芝のレースとは、「あと一歩及ばず」の中身が異なっている。陣営は、方向転換に自信を深めたはずである。前出のホッコータルマエなどの活躍により、ダート戦に限ると日本のエース種牡馬の座を不動にしつつあるキングカメハメハに、また1頭、強力な手駒が誕生した。

 最終的に2番人気に後退することになったゴールデンバローズ(父タピット)は、最初からかなり気負っていた。パドックでもそうだったが、返し馬でも鞍上を振りほどこうとするような高ぶりを示し、気力の充実というより、ドバイ遠征で受けた「力及ばず完敗」のダメージを引きずっているように映った。

 ドバイで5秒0差の大敗につづき、前回のジャパンDDで5秒9差の凡走、そして今回は異常歩様で競走中止となったディアドムス(父ジャングルポケット)のダメージは大きい。キャリアの浅い3歳馬の海外遠征は、たとえ敗戦でものちの大きな糧となる可能性があると同時に、エース級の存在であることを否定され、プライドの喪失につながる危険もある。

 ゴールデンバローズには、「こんなはずではない」の陣営のあせりも伝わっているように思えた。あれだけカッカしていたら、レコード独走の2歳秋と同じように先頭に立ってレースを先導した今回のレース運びは、当然の選択だったろう。だが、前半1000m通過61秒5のとくに無理のないペースで先頭は奪っても、カッカしながらで決して気分良くレースを運んではいないから、同型の先行馬やライバルにとって格好のペースメーカーにすぎない。3コーナー過ぎから早くも並ばれてしまった。しかし、振り切って一度はクロスクリーガーと競り合いに持ち込んでいる。交わされて失速し、もう勝機がなくなってからもゴールデンバローズはギブアップしなかった。

 ちょっと、ゴールデンバローズを見直した。連勝をつづけた当時のプライドは失われていない。ただ、いまは精神的にも肉体面でも疲れが出ている。それならしばらくの休息で立ち直る。

 ゴールデンバローズを交わして3着に突っ込んだ牝馬タマノブリュネット(父ディープスカイ)は、直線だけの競馬に徹した結果とはいえ、この相手に0秒4差の好走は価値がある。上がりはただ1頭だけ36秒9。祖母ピノシェット(父ストームキャット)は、2001年のオークスのほか、中山牝馬S、府中牝馬Sなどを制したレディパステルの半姉にあたり、しだいに真価を発揮しつつある種牡馬ディープスカイ(父アグネスタキオン、母アビ)との組み合わせで、セクレタリアトの[5×5]。ダノンリバティと同じようにノーザンダンサーの強いクロス[5×5.5]をもつ。やがて、前出の牝馬ミラクルレジェンド(JBCレディスクラシックなどダート12勝)に近づくくらいの活躍をみせてくれるだろう。

 6着ノボバカラ(父アドマイヤオーラ)は、先行タイプなのにスタートでつまずいて後方からのレース。あの形から差して6着は、高い地力を示す侮りがたい内容だった。同じく勝負どころで苦しいところに入りながら、良績のない左回りで5着したカラパナビーチ(父キングカメハメハ)のレース内容も決して悪くなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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