アイネスフウジン、ミホノブルボン、サニーブライアン、メジロパーマー、サイレンススズカ、ツインターボ、ニッポーテイオー、レジェンドテイオー、タップダンスシチー、トウケイヘイロー。
思いつくままに「逃げ馬」を挙げてみた。
今週の菊花賞にはリアファル、来週の天皇賞・秋にはエイシンヒカリという、強い逃げ馬が出てくる。リアファルは今後いろいろな競馬をする可能性があるので、「逃げて結果を出している馬」と言うべきなのかもしれないが、そうした馬も「逃げ馬」として話を進めたい。
最近テレビで「夢の第11レース」というJRAのCMを見かける。シンボリルドルフ、オグリキャップ、メジロマックイーン、トウカイテイオー、ナリタブライアン、ディープインパクト、オルフェーヴルといった歴代の名馬が東京芝2400mの同じレースに出る、というものだ。最後の直線のシーンなどは、作り物だとわかっていてもドキドキさせられる。
そのレースでは、サイレンススズカがすんなりハナを切っている。
同じように、冒頭に記した馬たちで「夢の逃げ馬レース」をやったらどうなるだろう。
さらに、カツラギエースやダイワスカーレットなど、逃げなくても大きなところを勝っている馬や、サクラバクシンオーやエイシンワシントンのように、1200mのGIでも楽にハナを切るだけのスピードのある馬も加えたら、とんでもないことになりそうだ。
どの馬がハナを切るのかも見モノだが、どの馬が最後方になるのかも気になる。
今この稿で挙げた逃げ馬は、現役の2頭と追加した4頭を含め16頭。これだけの頭数が揃うと、全馬が横並びのままコーナーに進入することは不可能なので、絶対に通過順位がつく。どれかは好位につけることになり、どれかは中団から抜け出す機をうかがい、どれかは後方で脚を溜めることになるわけだ。
いや、しかし、16頭の馬名(と、それについて回るイメージ)と、「中団」だとか「後方」という言葉の、まあ似合わないこと。
面白いのは、ここに記した16頭は、「レース序盤からハナに立つ」という、言ってみればワンパターンの競馬を繰り返してきた馬たちであるのに、「どの馬も同じ」という感じがまったくしないことだ。
個性派である。自分に似たタイプは同時代にはあまりいない「オンリーワン」と言える存在。
もうひとつ興味深いのは、前述した「夢の第11レース」に出走している18頭のうち、サイレンススズカ、メジロマックイーン、スペシャルウィーク、ディープインパクト、エアグルーヴと5頭の主戦が武豊騎手で、何度か(あるいは1度だけ)騎乗したウオッカ、オグリキャップ、ナリタブライアン、キングカメハメハを加えると、彼が乗った馬は出走馬の半数の9頭にもなる。
それに対し、ここに挙げた逃げ馬の主戦を敬称略で列挙すると――。
中野栄治(アイネスフウジン)、小島貞博(ミホノブルボン)、大西直宏(サニーブライアン)、山田泰誠(メジロパーマー)、武豊(サイレンススズカ、トウケイヘイロー=騎乗数最多、エイシンヒカリ)、中舘英二(ツインターボ)、郷原洋行(ニッポーテイオー、レジェンドテイオー)、佐藤哲三(タップダンスシチー)、クリストフ・ルメール(リアファル)、西浦勝一(カツラギエース)、安藤勝己(ダイワスカーレット)、小島太(サクラバクシンオー)、熊沢重文(エイシンワシントン)の13人。武騎手が3頭、郷原氏が2頭の重なりを有するだけだ。
ひと口に「逃げ」と言っても、「大逃げ」もあれば、後ろを引きつけての「溜め逃げ」もある。また、ゆったり流れる長距離戦でハナに立つのと、スプリント戦で一気に行き切るとのでは、見た目の印象も、それができる馬もまったく変わってくる。他馬を怖がるから逃げたり、スピードがありすぎて自然とハナに立ってしまったりと、逃げる理由もいろいろだ。
そうしたことに加え、いろいろな騎手が強い逃げ馬に乗り、大舞台で華々しく逃げていることも、逃げ馬の個性を色濃くすることにつながっているのだろう。
強い逃げ馬がいる時代は面白い。
リアファルとエイシンヒカリに、今の競馬を面白くしてもらいたいものだ。