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6歳牝馬による驚きの歴史的快挙/チャンピオンズC

  • 2015年12月07日(月) 18時01分


底力勝負から抜けだしたのはすごい牝馬というしかない

 昨年、勝ったホッコータルマエの0秒4差4着(単勝67.4倍)に食い込んだとはいえ、今年、6歳の晩秋を迎えたサンビスタ(父スズカマンボ)が、再び単勝オッズ(66.4倍の12番人気)にとどまったのは仕方がないところがある。ジャパンCダート当時から通算し過去15年、これまで牝馬は【0-0-0-16】。それがこのダートG1の歴史である。

 ところが、人気のコパノリッキーも、ホッコータルマエも、厳しい激戦に抗しきれずに失速したのに、力強く伸びて完勝したのは牝馬サンビスタだった。恵まれた勝利ではない。着差以上の完勝、実力勝ちである。芝のレースだと、「展開(流れ)が…」とか、「馬場が…」などの勝因・敗因が成立するが、3ハロン目からゴールまで、7ハロン連続して「12秒台」のラップが刻まれた底力勝負で、中団のインで大型の男馬に囲まれながら、直線に向くと猛然と割って抜けた。すごい牝馬というしかない。ジャパンCのショウナンパンドラにつづき、頂点のGIを制したのはまた牝馬だった。

 引退時期を延ばした今年は、57-58キロの負担重量も関係し、同じ牝馬の5歳トロワボヌール、さらには3歳牝馬のホワイトフーガに屈するレースもあったが、強気に再挑戦したこのGIで驚くべき底力を爆発させたのは見事というしかない。

 素晴らしい状態に仕上げた角居厩舎のスタッフも、絶妙の乗り方で勝負強さをフルに発揮させたM.デムーロ騎手も、絶賛されていい。男馬をダート戦で蹴散らしたのは、しかし、サンビスタ自身の能力全開のがんばりである。この強さはどこからくるのだろう。

 コパノリッキーが沈み、ホッコータルマエが手ごたえを失ったなか、インから2着に突っ込んだのは3歳牡馬ノンコノユメ。直線で外に出すのにちょっともったいないシーンがありながら3着に強襲したのは5歳の上がり馬サウンドトゥルー、最後に馬群を割ってきた4着ロワジャルダンは4歳牡馬。サンビスタ以外はみんな新勢力である。たしかにダート界の世代交代の波も芝と同様、早くなっている。それを考えると、ベテラン6歳牝馬サンビスタの快走は、驚きの歴史的快挙である。

 今春、脚光を浴びる種牡馬となりながら、14歳で急死したスズカマンボ(父サンデーサイレンス。3代母はキーパートナー。サンビスタと同じグランド牧場生産)の送った代表馬は、ほかにメイショウマンボ、パワースポット、ミナレット…など、なぜか牝馬が多い。

 どんな馬でも5代6代、それで足りなければ7代、8代…とさかのぼれば著名牝馬に到達するのは珍しくない。でも、このサンビスタの場合はちょっと別格である。

 名馬物語を開くと、きまって初期の伝説の馬のページに登場する牝馬に、英国のセプター(父パーシモン。母オーナメント。25戦13勝)がいる。歴史の1ページを飾るセプター(1899-1926)は、1902年の「千ギニー、二千ギニー、オークス、セントレジャー」の勝ち馬である。ダービーだけ4着に沈み、クラシック5冠馬とはなれなかったものの、その直系子孫は代を経て世界に広がった。

 日本では、自身が有馬記念を連勝したあと、シンボリルドルフの母の父となって再び有馬記念連勝に貢献し、さらにはトウカイテイオーの有馬記念制覇にも影響力を与えたスピードシンボリ(父ロイヤルチャレンジャー)は、血統図をたどると直系牝祖になる「7代母」がセプターである。

 いまでは毎年のように日本ダービー馬を送るが、1986年、社台グループの生産馬として初めて日本ダービーを制したダイナガリバーは、その9代母がセプターである。

 サンビスタのファミリーは、近いところには著名馬は少ないが、その牝系をたどると10代前の母として登場するのが1899年生まれの「セプター」だった。また、伝説の名馬ハクチカラの8代母、クモハタ(父トウルヌソル)の場合はその6代母に登場するのは、セプターの母オーナメントである。

 10代も前の、100年以上も前の牝馬セプターが、サンビスタの歴史的な快挙に関係することはまったくない。だが、セプター直系の牝馬だから日本に輸入されたのが5代母ルーシーロケット(父ネヴァーセイダイ)であり、セプターの直系子孫だから大切にされてきたのが、サンビスタの母や、祖母や、3代母である。伝統の名牝系はサンビスタの出現によって100年前の古典ではなく、現代の名牝としてよみがえった。

 人気の中心コパノリッキー(父ゴールドアリュール)は、他の伏兵も行く構えで牽制したから、前半1000m通過60秒2は良馬場の中京ダート1800mとしてはちょっときびしかったか。だが、人気の先行馬が自分のペースで楽に行けるわけがない。ダートG1である。しいて敗因を探せば、530キロ台の馬にしては他を圧倒するような存在感がなかった。絶好調というには足りない部分もあった気がする。

 ホッコータルマエ(父キングカメハメハ)は16勝もしているが、1800mの最高時計も、2000mの最高タイムも、ともに勝ち馬に大きくちぎられた際の3着時、4着時の記録というのが隠された死角だった。流れが異なるからではあるが、今年の「1分50秒7」は、1分51秒0で勝った昨年より速い。自力スパートが不可能になるようなきつい流れが歓迎ではないのだろう。

「ノンコノユメ、ちょっとロスがあって届かなかったサウンドトゥルー、ロワジャルダン」の3頭は、サンビスタに負けはしたが、中身が示す能力は文句なし。底力を問われた厳しい流れのG1で、コパノリッキー、ホッコータルマエに先着した自信は、今後の大きな糧になることだろう。

 逆襲に期待したローマンレジェンド(父スペシャルウィーク)は、意欲的にテンに気合を入れたが、好位に付けるのに苦労してしまった。7歳の衰えというより、前回1分47秒8の自己最高タイムの好走が、目に見えない内面の疲労をもたらしたということか。3コーナーで動いたが、もうあの時点で形作りだった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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