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【C.ルメール×藤岡佑介】第3回『誰一人、豊さんの後を追わないのはなぜ?』

  • 2016年06月22日(水) 18時01分
with 佑

▲今週のテーマは「佑介騎手のフランス遠征」と「ルメール騎手から見た武豊騎手」


2013年にフランスへの長期遠征を敢行した佑介騎手。その時はルメール家に居候をしたそうですが、日本人騎手の挑戦に「何で来たの?」と厳しい声が大半だったなか、ルメール騎手だけはまったく違う反応だったと言います。佑介騎手の決断をルメール騎手はどう捉えたのか ――そこには、武豊騎手へのリスペクトが関係していました。(構成:不破由妃子)


(前回のつづき)

「あれが理想形」四位騎手も唸る騎乗スタイル


佑介 なぜフランスに行ったのかについては、今までそれほど詳しく話したことはなかったけど、最終的にフランスに行くことを決めたのは、クリストフがいるからっていうのも理由のひとつだったんだよ。

クリストフ そうなんだ。ありがとう。

佑介 クリストフの騎乗スタイルがすごく好きだから。馬に負担を掛けないし、とにかくキレイ。僕はやっぱりそういう騎乗を理想としていて、日本人のジョッキーのなかでもアクションの大きい騎乗スタイルを取り入れる人が増えていた時期だったから、自分の理想とするスタイルに近づくためにはどうすればいいのか、それを確かめたくて、フランス行きを決意したんだ。

クリストフ 正解は1つではないけどね。若い頃は、関係者によく「やる気あるの?」って言われたものだよ。

佑介 えー!? なんで?

クリストフ アグレッシヴな乗り方ではなかったから、勝つ気がなさそうに見えたんだって。だからよく、「勝ちたくないのか!」って言われたよ。

佑介 へぇー、そんなこともあったんだ。最近はね、クリストフが追っている姿を見ながら、四位さんがいつも「本当にすごい」って話していて。「あの乗り方が理想形だから、ビデオに撮って全部分析して、競馬学校の教科書にするべきだ」って。

クリストフ そうなの!? 嬉しいけど、ちょっとビックリ(笑)。

佑介 直線ですごく速く走れる馬には、だいたいみんな格好良く乗れる。でも、ちょっとバテてきたり、動かさなきゃいけない馬のときは、気持ちが入りすぎてバランスが崩れてしまうことがあるけど、クリストフは馬が一番走りやすいであろうバランスを絶対に崩さない。膝とか足首とか細かい扶助を駆使して、絶妙なバランスを保っている。見た目には涼しげに乗っているように見えるけど、実はものすごくしんどい作業だもんね。

クリストフ そう言ってもらえるのはすごく嬉しいけど、豊さんも同じだと思うよ。僕は、豊さんの騎乗スタイルを“キレイだなぁ”と思ってずっと見てきた。日本のジョッキーは、豊さんの乗り方を何年も近くで見てきているのに、なんで今さら僕の乗り方を見て「ワオ!」って言うの? ちょっと驚きだよ。

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▲キタサンブラックで天皇賞・春を制した武豊騎手(C)netkeiba.com


佑介 “武豊”は“武豊”であって、僕たちにとってすごい人なのが当たり前になっていて、とても真似できるとは思えないから(笑)。

クリストフ なるほどね。豊さんは神様のような人で手が届かないけど、とりあえずルメールなら手が届くということか(笑)。

佑介 それは違うよ(笑)。今思えば、クリストフが日本の関係者に一番インパクトを与えたのは、2009年のジャパンCじゃないかな。

クリストフ ウオッカ! 今まで乗った日本馬のなかで、一番印象に残っている馬だよ。なんていうのか…、マシーンのような馬だった。確かに、今までのジョッキー人生のベストバウトを選べと言われたら、あのジャパンCは3本の指に入る。それくらいパーフェクトなレースができた。

佑介 それはすごいね。間違いなくいいレースだったし、クリストフじゃないとあの競馬はできなかったんじゃないかな。ダービー馬とはいえ、みんな本質的には2400mは長いと思っていたから、後方からじっくり行くのかと思いきや、クリストフは外目の3、4番手で我慢させたからね。

クリストフ 僕も2400mではスタミナが足りないと思ってたけど、リズムよく運べたし、とにかく直線での反応がすごかったよ。

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▲ウオッカの国内最終戦となった2009年ジャパンC、オウケンブルースリをハナ差退けGI7勝目(撮影:下野雄規)


佑介 あのレースで、クリストフの折り合いをつける技術の素晴らしさに改めて気づいた人も多かっただろうし、クリストフの武器が一番発揮されたレースだったと思うよ。

クリストフ 当時は毎年3か月間、日本で乗って、その経験をフランスで生かすことでどんどん強くなれたし、結果にもつながっていたと思う。ウオッカに限らず、日本で経験を積めたことは本当に大きかった。

佑介 そういえば、僕がフランスに行ったとき、大抵の人には「乗れないのに何で来たの?」って言われたんだけど、クリストフだけはそういうことを言わなかったよね。

クリストフ だって、将雅と佑介がフランスに来たとき、「やっと来たか!」という気持ちだったからね。さっきも言ったように、環境を変えて世界観を広げることは、キャリアのなかで本当に重要なことだと自分自身感じているから、外国にチャレンジしに行く人に対して、「なんで?」とか「日本にいれば乗れるのに」とか、僕は一切思わない。

佑介 そんなクリストフのおかげで、フランスでは本当に有意義な時間を過ごすことができた。ルメール家の地下の部屋に居候までさせていただいて(笑)。

クリストフ あの部屋には角居先生もちょっと住んでたことがあるよ(笑)。それにしても、若い頃から少しずつ外国でのキャリアを重ねていった豊さんは、今なおトップジョッキーの位置にいて、いまや世界中どこに行っても乗れる状況にある。それってとても素晴らしいことなのに、日本人ジョッキーは誰一人、豊さんの後を追わない。「なんでなの?」ってすごく思う。

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▲「日本人ジョッキーは誰一人、豊さんの後を追わない。なんでなの?ってすごく思う」


佑介 僕もそう思う。僕がフランスにいるときに豊さんも来てね、同じようなことを言われたよ。「俺がこんなに来てるのに、なんで後輩が続かないのか。本当に不思議に思う」って。「“もっともっと”と自分の気持ちを鼓舞するために海外に来るんだ」っていう話もしてくれた。豊さんレベルの人がそう考えて実践してきたんだから、そりゃあ敵うわけないよね。

(文中敬称略、次回へつづく)
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JRAジョッキーの藤岡佑介がホスト役となり、騎手仲間や調教師、厩舎スタッフなど、ホースマンの本音に斬り込む対談企画。関係者からの人望も厚い藤岡佑介が、毎月ゲストの素顔や新たな一面をグイグイ引き出し、“ここでしか読めない”深い競馬トークを繰り広げます。

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1986年3月17日、滋賀県生まれ。父・健一はJRAの調教師、弟・康太もJRAジョッキーという競馬一家。2004年にデビュー。同期は川田将雅、吉田隼人、津村明秀ら。同年に35勝を挙げJRA賞最多勝利新人騎手を獲得。2005年、アズマサンダースで京都牝馬Sを勝利し重賞初制覇。2013年の長期フランス遠征で、海外初勝利をマーク。2018年には、ケイアイノーテックでNHKマイルCに勝利。GI初制覇を飾った。

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