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【読者リクエスト】「アルドワーズに穏やかな余生を」そう決意した人々の物語/動画

  • 2016年07月26日(火) 18時01分
第二のストーリー

▲秋華賞馬ファビラスラフインの孫アルドワーズの物語


“青い瞳と白い馬体”出会いは競馬週刊誌の広告


 昨年暮れから今年の春にかけて、読者の方からリクエストメールが2通届いた。ともに岡山県にある「吉備ひだまり牧場」を取材してほしいという内容だった。

 先に届いたMさんのメールには「現役時代は450キロ前後で、仔馬のような子でした。とても女の子が大好きな元気のいい子です」と、その牧場で余生を送るアルドワーズ(セン8)という馬について書かれていた。Mさんはキャロットクラブで出資会員を募っていたアルドワーズに出資し、競走馬登録を抹消されたのちは同馬の余生を支える「アルドワーズの会」の会員にもなっていた。

 今年の春に届いたTさんのメールには「人間の娯楽のために利用され、最後はその命が簡単に処分される現実に疑問を持っている」と馬たちへの熱い思いとともに、やはり吉備ひだまり牧場で余生を送るダンツシンガー(牝13)とストロングフローラ(牝13)について紹介してほしいというリクエストが綴られていた。

 2通のメールを受け、直接足を運んで取材をしたいと編集部に相談し、岡山行きの計画を練ってきたのだが、ようやく取材が実現したのは7月初旬。吉備ひだまり牧場のホームページに記載されている案内とナビを頼りに牧場の看板を発見した時は「やっとここに来ることができた」と感慨深いものがあった。

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▲岡山県にある「吉備ひだまり牧場」 読者リクエストから取材が実現


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 牧場の敷地に足を踏み入れると放牧地が広がり、馬たちが太陽の光を浴びてのんびりと午後のひとときを過ごしていた。優しい笑顔で出迎えてくれたのは、吉備ひだまり牧場の森光さん夫妻と、アルドワーズの会の北殿さん夫妻だ。

 午前中が放牧時間だったというアルドワーズの芦毛の馬体は、既に馬房の中に収まっていた。その真っ白な小柄な体にはギュッとエネルギーが詰まっているように映り、さらに目力が強く気圧されるような不思議な感覚に襲われた。

 人に媚びたりへつらうことはしない。体全体から強い意志を感じた。サンクスホースプロジェクトのオープニングセレモニーの会場で、北殿さんとともにアルドワーズの会を立ち上げた岡村さんと会い、牧場取材に先んじてお話を伺ったのだが「アルドワーズにはまだ怖くて触れないんです」という岡村さんの気持ちが、何となくわかったような気がした。

 アルドワーズは2008年4月5日に、北海道安平町のノーザンファームで誕生している。父は快速サクラバクシンオー、母はラフィントレイル。そして祖母は1996年の秋華賞(GI)馬ファビラスラフイン。

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▲アルドワーズの祖母ファビラスラフイン(写真は秋華賞優勝時、撮影:高橋正和)


 ファビラスラフインは、2012年の阪神大賞典でオルフェーヴルを下したギュスターヴクライをはじめ、12頭の子供をこの世に送り出し、2013年に20歳で天に召されている。改めて血統表を見直すと、アルドワーズの美しい芦毛の馬体は、母系から受け継がれたものだとわかった。

 北殿さん夫妻とアルドワーズの最初の出会いは、たまたま購入した競馬週刊誌の広告だった。キャロットクラブの会員募集広告に写真入りで掲載されていた1歳時のラフィントレイルの2008に、北殿さんの奥様は目を奪われた。その馬は「青い瞳と白い馬体」とキャッチコピーにある通り、左目が青く毛色は芦毛だった。

 モノクロ写真ではあったが、その姿が強く印象に残り、アルドワーズと名付けられたその馬を、2010年に中央競馬でデビューしてからも応援を続けた。ちなみにアルドワーズとは「青みがかった灰色」という意味だそうだ。

 初勝利は2011年6月の名古屋競馬場での交流競走。これが中央在籍時の唯一の勝ち星となった。そして北殿さんが気づかぬうちに、2013年に地方競馬へと移籍。主に高知競馬で走り続けていた。

一目惚れをしたアルドワーズが目の前に


 夫妻には、その頃ある養老牧場との出会いがあった。それが吉備ひだまり牧場だ。特定NPO法人引退馬協会のツイッターで、自分の住む岡山の地に養老牧場ができたのを知り、早速連絡を取って見学に訪れた。

 馬と触れ合い、牧場の森光さん夫妻と語らううちに、競馬から引退した馬たちの厳しい現状を知った。そして少しでも支援をしたいと思い、人参やリンゴを携えては、吉備ひだまり牧場に月1回、足を運ぶようになっていた。

 そのひだまり牧場に、高知競馬から1頭の芦毛の馬が放牧に来た。当時アングロアラブのエスケープハッチ(現在は埼玉県のつばさ乗馬苑)もここで余生を過ごしていた。その縁でハッチが高知競馬時代に所属していた田中譲二厩舎から、その芦毛の馬が休養に来たのだった。その馬の名前はアルドワーズ。

 それを知った北殿さんは驚いた。ずっと応援し気にかけてきたアルドワーズが、ひだまり牧場にいる! 牧場と連絡を取り、早速会いに行った。馬っけが強くて世話が大変だと調教師さんからも聞いているし、気をつけて接するよう森光場長からはアドバイスを受けたが、北殿さんの奥様は最初からアルドワーズとは自然に接することができた。

 募集広告で一目惚れをしたあのアルドワーズが目の前にいる! 大人しく顔を撫でさせてくれる! 心が躍った。そして気になっていた左目を確認すると、既に瞳からは青い色が失われていた。よく観察すると、瞳孔のまわりに青色の名残りがあり、その周りは薄い茶色になっていた。

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▲アルドワーズの青かったはずの左目


 北殿さん夫妻は、折に触れて牧場に通ってはアルドワーズとの距離を縮めた。牧場を訪れるたびに、北殿さん夫妻の中でアルドワーズの存在がどんどん大きくなっていく。しかし、その脚元はあまり芳しくないとも聞いていた。北殿さんご夫妻は、大好きな馬に会える喜びよりも、これからのアルドワーズが心配になっていった。

「ここを訪ねた帰りの車の中は重たい雰囲気でした」と、当時を振り返った。アルドワーズには無事に競走馬生活を終えてほしい、そしてできることならば余生も無事に…。しかし爆弾を抱えた脚元では乗馬としての道も険しいのは目に見えていた。北殿さんを覚えて、訪れるたびに寄ってきてはおやつをねだるアルドワーズと会えなくなるのは耐えられない。そのくらい気持ちは膨らんでいた。

 アルドワーズにいずれ訪れるであろう引退の日。その時に引き取り手がなく、処分の道を辿っても「仕方ない」と果たして割り切ることができるのか。馬に辛い思いをさせても平常心でいられるのか…。夫妻は話し合うようになっていた。

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▲アルドワーズとの触れ合いを楽しむ北殿さん夫妻


第二のストーリー

 馬1頭を養うには、お金がかかる。馬の寿命は決して短いものではなく、継続して資金が必要になってくる。だがそれをするだけの余裕があるわけではない。例えばアルドワーズの余生を支える会を立ち上げて会員を募っても、人数が集まらなければ預託料を負担し続けるのも難しい。可愛い、可愛そうだけで、簡単に引き取ってはいけないのかもしれない…北殿さん夫妻の心は揺れに揺れた。

 これまでの取材を通してわかったのは、馬を助けたい、人間のために頑張ってくれたのだから、せめて余生はのんびりと過ごしてほしい…そう考え、行動を起こすのはほとんどが市井の人々だということだ。北殿さん夫妻も正にそうだった。

 話し合いを重ねた末、引退後のアルドワーズに穏やかな余生をプレゼントしようという方向に、北殿さん夫妻の気持ちは固まっていった。そしてもう1人、アルドワーズの引退後を気にかけていた女性がいた。それが前述した岡村さんだった。

(次回へつづく)



※吉備ひだまり牧場
(現在、一般見学は中止しています)

HP http://mauka.web.fc2.com
Facebook https://www.facebook.com/吉備ひだまり牧場-551011321631051/

※アルドワーズの会公式ブログ「青い瞳のアルドワーズ」
http://ameblo.jp/ardoise-blue-eye

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北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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