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WASJに参戦する女性リーディングジョッキー

  • 2018年08月23日(木) 12時00分


 少し前から札幌に来ている。

 開催全体のメインレースと言うべき札幌記念の翌週、つまり今週末は、世界中から名騎手が集まるワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)が行われる。名称を変え、8月末に札幌で行われるようになってから今年で4年目。夏の札幌の風物詩としてすっかり定着した感がある。

 1年目、2015年の主役は、WASJを含め、土日で20戦7勝2着4回3着1回という驚異的な成績をおさめ、「札幌に神降臨!」と騒がれたジョアン・モレイラ騎手だった。その年はモレイラ騎手、2年目の2016年はJRA選抜のミルコ・デムーロ騎手、3年目の昨年はカナダのユーリコ・ダシルヴァ騎手が個人戦を優勝。そろそろ日本人騎手が優勝してもいいころだ。

 騎乗手当がひとレース50万円で、通常の進上金のほか、シリーズ優勝者には300万円、2位には200万円、3位には100万円の賞金が支払われる。金銭的にも魅力的だし、それ以上に、こうしたイベントの結果は世界に発信されるため、大きな栄誉を手にすることができる。1着争いはもちろん、総合ポイントできわどいときは、普段以上に熾烈な2着争い、3着争いが見られるかもしれない。

 前身のワールドスーパージョッキーズシリーズ(WSJS)にはなかった、JRA選抜とワールドオールスター(WAS)選抜との団体戦も面白い。過去3回ともJRA選抜が優勝しているのだが、第1回からデムーロ騎手はJRA選抜に入っており、第2回、第3回は、さらにクリストフ・ルメール騎手が加わった。贔屓のプロ野球チームにバリバリのメジャーリーガーが助っ人として加わってシーズンを戦っているかのようで、心強い。この2人と、武豊騎手、戸崎圭太騎手、そして内田博幸騎手の5人は、今年で3年連続JRA選抜の一員として戦うことになる。7人のうち5人が固定メンバーなのだから、文字どおりのチームメイトである。

 対するWAS選抜で特に注目したいのは、ニュージーランドの女性騎手、サマンサ・コレット騎手だ。彼女はニュージーランドの女性騎手のトップであることはもちろん、男性を含めたすべてのニュージーランドの騎手のなかでもトップなのだから、素晴らしい。

 2006年にデビューした28歳。先日閉幕した2017/18年シーズンで132勝を挙げ、初めてリーディングジョッキーとなった。父のジム・コレット調教師も騎手時代にリーディングを獲得し、WSJSに2度参戦している。母も現役の騎手で、叔父やいとこにも調教師や騎手がいる競馬一家の出身だ。

 ニュージーランドでは、過去20年で女性騎手が14%も増えて、今は全体の40%以上になり、男性騎手に追いつき、追い越しそうな勢いだという。全体の数が増えているだけではなく、コレット騎手のほかにもリーディング上位に女性が名を連ねている。過去には、1994年に短期免許取得者第1号として来日したリサ・クロップ騎手が3度、同じく来日経験のあるリサ・オールプレス騎手が2度リーディングとなっている。

 コレット騎手は、彼女たちに次ぐ3人目の女性リーディングジョッキーとなったわけだ。これまで私は、「女性騎手として成功した人は?」と訊かれると、「世界の長い競馬史でも、ベルモントステークスやブリーダーズカップジュヴェナイルフィリーズなどを勝ったアメリカのジュリー・クローンただひとり。その代わり、彼女は男たちにまじっても全米トップクラスだった」と答えてきたが、認識をあらためる必要がありそうだ。

 それにしても、騎手の40%以上が女性という競馬場の雰囲気はどのようなものなのか。活躍している女性の多い出版界でもそこまでの比率ではない。それだけ女性が多いと、もちろん華やかにはなるだろうが、女の職場には独特の厳しさや難しさがある。ちょっと想像がつかないだけに、見に行くしかない、ということか。

 そんな「異世界」でトップに立った騎手、それも直近のリーディングジョッキーを札幌で見られるのだから、嬉しい。

 初めての日本で、サマンサ・コレット騎手がどんな騎乗を見せてくれるか、楽しみである。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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