◆“運命の中に偶然はない”
毎年、ゴール前は、10分の1秒の中に4、5頭がなだれ込むスプリンターズステークスは、厳しいレースになっている。レース実況は覚悟はしているが、難儀なだけに「運命は志のあるものを導き、志のなきものを引きずっている」を胸に、いつもチャレンジしている。それでも、ここ5年、1、2番人気馬が揃って連対を外したことはなく、少なくともどちらかは上位に来ている。難しいからと言って、そんなに目茶苦茶ではない。
レッドファルクスの史上初のスプリンターズステークス3連覇なるかとか、ファインニードルの史上5頭目の同一年春秋スプリントGI優勝なるかが話題になっているが、気にしたいのはその年令だ。7歳のレッドファルクスは少しズブくなっていて、春の2つのGI戦は不完全燃焼だったと聞いているが、過去の例から、7歳馬は苦しく、よくても2、3着がせいぜいと出ている。
一方のファインニードルは、夏を完全休養にあて、久々の前走で、外枠、道悪、58キロを克服して完ぺきな勝利だった5歳馬。今年に入って同じ日本馬には負けていないところから、ここでは有望。JRA賞最優秀短距離馬のタイトルも現実味を帯びている。この馬には、「運命の中に偶然はない。人間はある運命に出会う前に、自分がそれをつくっている」のT・W・ウィルソンの言葉があてはまる。元気なのだから、どんな苦難でも乗り越えられる。
サマースプリントチャンピオンは、これまで2、3着が2回ずつあるだけで、まだスプリンターズステークスは勝てていない。だが、アレスバローズには気性面の成長があって競走馬として本格化したことと、藤岡佑騎手がこの春、NHKマイルカップをピンチヒッターで勝ち、GI初優勝をしていて、人馬の勢いを感じる。これも「ある運命に出会う前に、自分がそれをつくっている」くちになる。
圧倒的に差し、追い込みが決まるレースでは、そういうタイプの伏兵も考えたい。これには、「ある時間、待ってみる力をふるい起こすように」という大江健三郎の言葉をそえたい。マイル戦から距離を短かくしているムーンクエイクは、京王杯スプリングカップのレコード勝ちが光る。惨敗の後の2度目のスプリント戦、父アドマイヤムーンの切れ味が魅力だ。さて、運命や如何に。