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勝ち時計歴代2位の中身あるGI・2勝目/天皇賞(秋)

  • 2018年10月29日(月) 18時00分

前年のクラシックホースが上位を独占


 2017年の日本ダービー馬レイデオロ(父キングカメハメハ)が、1分56秒8の快時計で完勝した。日本ダービー馬がその後にGIを制覇したのは、2011年のオルフェーヴル以来、7年ぶりのこと。それも、勝ち時計は2011年の勝ち馬トーセンジョーダンの1分56秒1に次ぐ天皇賞(秋)史上2位。非常に中身のあるGI制覇だった。

 また、1着レイデオロ、2着サングレーザー(父ディープインパクト)、3着キセキ(父ルーラーシップ)、4着アルアイン(父ディープインパクト)……。上位を独占したのはすべて4歳牡馬であり、前年のクラシックホース(皐月賞馬、日本ダービー馬、菊花賞馬)がみんなそろって上位に名をつらねる珍しい結果だった。

 日本ダービー馬レイデオロを筆頭に、3歳時に頂点のビッグレースを制した馬がそのあともトップグループを形成するのはきわめて希なこと。同世代3頭のクラシックホースがのちに同じレースに出走したのは、グレード制が導入された1984年以降、初めての記録とされる。

 C.ルメール騎手は、これで秋の中山が開幕して以降、重賞は【10-3-1-1】。うちGI・3勝となった。ビッグレースを展望する陣営の奪い合い状態が激化している。それも関係しレイデオロの次走はジャパンCではなく、有馬記念ではないかとされる。

重賞レース回顧

同世代のライバルに完勝し、人馬ともに嬉しいGI制覇となった(撮影:下野雄規)


 流れを作ったのは、菊花賞馬キセキ。同じ4歳のダンビュライト(父ルーラーシップ。3冠3、6、5着)が興奮しすぎて落馬後に逸走のため除外となり、ますます先行タイプが少なくなった中、意欲的に自身の前後半「59秒4-57秒6」=1分57秒0の流れをつくり、レースの中身を高めた。結果、格好の目標となり惜しい3着だったが、レースを作って1分57秒0で乗り切ったのは、馬場差は別にして、2008年に先手を奪って2着したダイワスカーレットの1分57秒2(前後半58秒7-58秒5)に遜色ない価値ある内容だろう。

 先手を奪ったキセキから、前半1000m通過地点では約9馬身ほど離れた6番手にいたのがレイデオロ。その2馬身ほど後方でマークする形がサングレーザー。レイデオロはリズムを大切にしての追走で、まだ先頭との差を詰めに出る場所ではなく、同馬の前半1000m通過は推定「60秒8」前後か。すると4コーナー手前から動いたこの勝ち馬の1分56秒8は、前後半推測「60秒8-56秒0」となる。この速い全体時計で上がりは33秒6だった。

 ディープインパクト一族のレイデオロは、スピード能力にあふれたチャンピオンとされるが、これでロードカナロア、ドゥラメンテなどとともに「キングカメハメハ系」のさらなる発展に貢献することになる。祖母レディブロンド(父シーキングザゴールド)はディープインパクトの半姉ではあるが、ディープインパクト牝馬との交配も可能な範囲と思える。

 2着に突っ込んだサングレーザーは、前走比マイナス12キロでも、絞って究極の仕上げでGI制覇に臨んだもので、カリカリしていても細くなかった。テン乗りとなったJ.モレイラ騎手は、作戦ということもないが、道中ずっとルメール(レイデオロ)をマークする位置取り。レース後半があまりに高速になったため届かなかったが、レイデオロの後半1000mが推定56秒0とするなら、この馬はおそらく56秒を切っていたことになる。京都1600mのレコードは自身の「1分31秒3」なので、もし反動がなく11月18日のマイルチャンピオンシップに挑戦できるようなら、チャンス十分。

 残念なことに、1番人気の4歳スワーヴリチャード(父ハーツクライ)は後方のままレースに参加できなかった。休み明けでも仕上がりに不安はなく、落ち着いていた。しいていえば、休み明けのわりにはやけに落ち着きすぎて、気迫が乏しいように感じられたことだが、やはり、スタートの接触が最大の敗因。あまりスタートの巧みな馬ではなく、自身もあおり気味になったが、その瞬間、隣のマカヒキ(父ディープインパクト)が内によれたためいきなり第一完歩でぶつかって挟まれた。出遅れというよりダッシュつかずのスタートになった。

 そのあと、気迫満点のスワーヴリチャードなら追い上げて行く気をみせただろうが、まったく闘志に火がつかなかった。ぶつかったマカヒキも武豊騎手が接触を気にしたのか、同じように後方追走となり、向こう正面では早くも2頭ともに黄信号どころか赤信号。

 縦長になった隊列は、ちょうど中位のサングレーザーが推定1000m通過61秒0前後なので、決して追い上げ不可能なペースではないが、スワーヴリチャードは3コーナーあたりですでに戦意喪失。ほぼ同じ位置にいたマカヒキも加速することができず、2頭ともに直線は形作りに追う姿勢をみせただけ。前方のキセキ、レイデオロ、サングレーザーが激しい競り合いを展開する中、最初から最後まで圏外のままだった。

 スワーヴリチャードは続けて出走しないタイプだが、まったくレースをしていないので、陣営は「一応、ジャパンCを目標に…」というトーンになったが、ダメージがなく巻き返す気力が戻ることを期待したい。マカヒキも絞った身体は決して悪くはなかった。スタートでよれ(スワーヴリチャードにダメージを与え)、自身も後方差詰めの7着では、とうとう8連敗の悲しいダービー馬になりかねない。なんとしても、立ち直ることを期待したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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