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競り合うシーンもなく抜け出した内容は、見た目以上の完勝/朝日杯FS

  • 2018年12月17日(月) 18時00分

父と同じように距離適性の幅を広げたい


 2番人気の牡馬アドマイヤマーズ(父ダイワメジャー)が好位から一気に抜け出し4戦4勝となった。昨年の勝ち馬ダノンプレミアムほどインパクトのある勝ち方ではなかったものの、2馬身の差をつけ1分33秒9(上がり33秒9)で完勝は、朝日杯FSの勝ち馬として上々だろう。

 好スタートから断然人気のグランアレグリア(父ディープインパクト)をマークする絶好の位置につけ、競り合うシーンもなく抜け出した内容はこれまでよりずっと強かった。

 ダイワメジャーの送った8世代目の産駒。ここまでの産駒は典型的なマイラー型が多く、またレーヌミノル、メジャーエンブレム、前日のターコイズSを制したミスパンテールなど牝馬に活躍馬が多い傾向があった。マイルだけでなく、皐月賞、天皇賞(秋)などGIを5勝もしたタフな成長力と、自身と同じように距離の幅を広げる産駒はなぜか少なかったが、アドマイヤマーズは顔つきや同じ栗毛だけでなく、身体全体のバランスも父に似ている気がする。

重賞レース回顧

顔つきだけでなく身体全体のバランスも父に似ているアドマイヤマーズ


 アイルランド産輸入牝馬の母ヴィアメディチ(父メディチアンは、タフな血を伝えるマキャヴェリアン直仔)のファミリーは、近親に活躍馬の並ぶ牝系というわけではない。しかし、ヴィアメディチから数えて5代母ロッセリーナ(1957・父テネラニ)は、少し古いファンなら泣いて喜びそうな伝説の最強馬リボー(1952・16戦16勝)の全妹である。今週は有馬記念。イシノヒカル、イシノアラシの父がマロット(その父リボー)だった。

 現代の社台グループの創設者である吉田善哉さんは、当然のようにF.テシオのリボーを好んだ。一族の牝馬ラザニナ(父テネラニ)を輸入し、その産駒にフイニイがいた。同じく一族の輸入牝馬ラルワの産駒にはシャダイリボーの名がつけられた。ロッセリーナの産駒ルイスデール(父ライトロイヤル)は種牡馬として輸入され、天皇賞(秋)3200mの優勝馬テンメイ(母トウメイ)などの父になっている。

 もちろん、こういうファミリーの出身だから距離をこなせるのではないか、ということではないが、朝日杯FSの勝ち馬にふさわしい牝系出身馬に思える。

 阪神JFの前後半は「47秒0-47秒1」=1分34秒1。1000m通過は59秒1で、レース上がり35秒0。朝日杯FSのバランスは「47秒7-46秒2」=1分33秒9。1000m通過は59秒5で、上がり34秒4だった。

 阪神JFの1〜2着馬の上がりは34秒0と、33秒9であり、アドマイヤマーズのそれは33秒9なので、レース全体のペースと位置取りを考えると、中身の評価はほとんど互角か。阪神JFのダノンファンタジーと、クロノジェネシスは、十分に桜花賞レベルに達している。一方、アドマイヤマーズは、友道調教師が「皐月賞」挑戦をほのめかしている。ぜひ、父と同じように距離適性の幅を広げたい。父ダイワメジャーは皐月賞直前に驚異の上昇を示した馬だった。

 2着したクリノガウディー(父スクリーンヒーロー)はたくましい。朝日杯FSが終了して間もなく発表された28日の「ホープフルS」にその名が登録されていた。好スタートからなだめられて下げ、アドマイヤマーズを追うように伸びてきた。11月の東スポ杯1800mでは力んで早めに先頭に並んでゴール前は失速したが、今回は折り合うことができた。

 ホープフルS出走は中間の様子をみてからになるだろうが、ヘイルトゥリーズン、ノーザンダンサーなどの近年の根幹種牡馬が幾重にもクロスする配合ながら、牝系は日本の古典アストニシメント系。今回、デキは素晴らしく良かった。タフに成長してくれるだろう。

 問題は、圧倒的な注目を集めながら3着に沈んだ牝馬グランアレグリア。初の遠征競馬のためだろう、パドックから気負いが目立った。スタッフになだめられ、入れ込みというほどではなかったが、返し馬が終了してもイライラはおさまらなかった。レースの途中からは一見折り合ったように映ったが、1000m通過59秒5のスローなのに自分からスパートすることができない。

 初コース、初の右回り…などの死角があり、「59秒7-34秒6」=1分34秒3で3着の記録は数字上は大凡走とはいえないが、苦しくなって内ラチを頼った直線は、とてもこれまでのグランアレグリアではなかった。あまりに残念だった。回りを気にするような馬ではないはずである。500万下の条件馬ではないから、たちまち巻き返しに出るローテ−ションはありえない。放牧で立て直すことになるが、秋前半の自信に満ちたグランアレグリアにすぐに戻れるだろうか。クラシックを展望する期待の牝馬にとって、上昇を示さなければならないもっとも大切な時期に予想外の破綻が生じてしまった。無名馬なら見切りの再出発で、桜花賞へ…もあるが、とてもそういう立場の馬ではないから慎重にならざるをえない。ここが大変である。

 ファンタジスト(父ロードカナロア)は、武豊騎手のGI記録もあって人気になったが、この週の阪神の芝は明らかに内有利。また、1400mをあまりにも遅い1分24秒7で辛勝のあと、マイルのGIではさすがに厳しかったろう。この状況で4着は好走と考えたい。

 上がり最速の33秒5で突っ込んだ6着エメラルファイト(父クロフネ)も、ファンタジストと同じように内の馬が伸びる芝コンディションが味方しなかった。

 13着ケイデンスコール(父ロードカナロア)は、馬体重はプラス6キロなのに身体が細く小さく映った。ロードカナロア産駒は父に似て素直で賢いとされる。父の評価がどんどん高まり、また実際にすごい成績を残している。だが、かつてサンデーサイレンスや、ディープインパクト産駒が直面したのと同じように、新進の種牡馬には簡単には見えない課題もあるのだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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