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インティのGI制覇で守られた種牡馬ケイムホームの名誉/フェブラリーS

  • 2019年02月18日(月) 18時00分

作戦通り、最高の展開に持ち込んだ武豊騎手の存在感


 武豊騎手と陣営の思い描いた作戦通りの逃げ切りが決まった。インティ(父ケイムホーム)の可能性と、類い希な能力を確信はしても、今回は初の東京コース、初の1600m。厳しい流れは避けたい。ハナを主張するスタートではなかったが、周囲に無言のプレッシャーをかけてしまうあたりが、トップジョッキーの存在感なのだろう。他馬の出方をうかがいつつゆっくりハナを切ることに成功したインティの前半600mは「35秒8」。

 GIとしてレベルアップした2000年以降、東京ダート1600mで行われたフェブラリーSにおいて、前半35秒8はアドマイヤドンの勝った2004年と並びもっとも緩いペースだった。もう作戦成功である。

 1分35秒6の前後半バランスは「48秒0-47秒6」。ダート戦では芝ほどはペースがカギを握ることはないが、同じ2000年以降、前半の800mが後半の800mより遅かったのは初めてだった。これこそまだ若さの残るインティに最高の展開。自分から動ける。示された能力とは別に、理想の流れに持ち込んだ武豊騎手の勝利でもあった。

 インティのGI制覇により、種牡馬ケイムホーム(父ゴーンウエスト)の名誉は守られた。USA当時から通算11世代目でとうとう送り出したGI馬だった。ケイムホームは輸入初年度の2008年には175頭も交配されている。名種牡馬ゴーンウエスト産駒であると同時に、3歳4月のG1サンタアニタダービー(ダート9F)の勝ち馬である。このGIは古くは3冠馬アファームド、2冠馬サンデーサイレンス、大種牡馬A.Pインディ。近年では2冠馬ポイントギヴン、2冠馬カリフォルニアクローム、昨年の無敗の3冠馬ジャステファイなどを輩出したケンタッキーダービー前の、重要な出世レースのひとつである。

 だが、厳しい生存競争の種牡馬界にあって、軽種馬協会のケイムホームには大牧場の所有するような著名な牝馬はなかなか集まらない。しだいしだいに評価が下がり、ここ2-3年は種付け頭数も10頭台まで減少し、インティは北海道当時の産駒だが、現在の供用地は九州種馬場(鹿児島)に移っている。

 種牡馬ケイムホーム(20歳)は、ネイティヴダンサーの「4×5」。その流れを踏襲したインティの配合は、孫のミスタープロスペクターの「3×4」に求めた。生産した荻伏の山下氏の会心の傑作であり、手元の資料だと山下氏の長い生産の歴史(先代からと思われる)の中、インティが初のJRA重賞勝ち馬になる。こういう必ずしも著名ではない小牧場から、時として大物が出現するのがサラブレッド生産の不思議と神髄なのだろう。インティのさらなる大活躍を期待したい。

重賞レース回顧

武豊騎手と陣営の思い描いた作戦通りの逃げ切りが決まり、見事フェブラリーSを勝利したインティ(撮影:下野雄規)


 かつて、米2冠馬カリズマティック(父サマースコール)も、日本に輸入されて長く供用されながら不振で、ただ1頭だけ送ったJRA重賞の勝ち馬がワンダーアキュートだった。同馬は今年の新種牡馬になる。カリズマティックはアメリカに帰国して最近21歳で死亡したと伝えられた。

 なお、同じケイムホーム産駒で2016年の武蔵野S(東京ダート1600m)を1分33秒8のレコードで勝ったタガノトネールも、同じようにミスタープロスペクターの「3×4」であり、タガノトネールの2着馬は、今回と同じゴールドドリームだった。

 2着に突っ込んだゴールドドリーム(父ゴールドアリュール)は、これでGIフェブラリーSを3年連続連対「1着(M.デムーロ)→2着(R.ムーア)→2着(C.ルメール)」となった。創設期のフェブラリーH時代を含めて36回、毎年のようにリピーターの台頭するレースとはいえ、3回も3着以内に快走(まして連対)したのはこのゴールドドリームが史上初めてのことになる。緩い流れだったから同馬の上がりは「34秒8」。

 巧みに4コーナー手前からスパートして上がりを「35秒4」でまとめたインティに「クビ差」及ばなかったが、早めに動いて出ればいいというタイプでもなく、ゴールドドリームも力を出し切っているだろう。残念な惜敗だが、これでダート1600m【4-4-0-1】。はち切れるような筋肉の盛り上がりが光った。6歳馬ながらまだ19戦。適鞍にマトを絞っての出走なので、やがてゴールドアリュールの後継種牡馬になるだろうが、もう一年現役なら同一GI「4年連続連対」の大記録も夢ではないと思える内容だった。

 3着以下は2頭から4馬身も離れてしまった。3着ユラノト(父キングカメハメハ)も、4着の7歳モーニン(父ヘニーヒューズ)も、現在の能力は発揮しているだろう。

 注目の藤田菜七子騎手のコパノキッキング(父スプリングアトラスト)は、初距離1600mを考え大事に後方に控える作戦。大外から突っ込んで5着(上がりはゴールドドリームに次ぐ35秒2)だった。多くのファンが、内心「直線伸びて4-5着くらいかな…」、と予測していたはずだが、その通りに結果を出してみせたのだから、素晴らしいGI初騎乗だった。根本調教師が「これから若い女の子のあこがれの存在になってくれるだろう。声援はありがたい」としたが、まさにそうなるだろうと思えた。

 ビシビシ追ってまた体が増えてしまったサンライズノヴァ(父ゴールドアリュール)は、ちょっとスランプに近い状態。今回のデキの善し悪しではないかもしれない。

 4歳オメガパフューム(父スウェプトオーヴァーボード)は、馬体減りもなく落ち着いた好状態。追い出してささり加減になったあたり、まだ左回りに対する不安が解消していなかったのだが、コーナーではなく直線に向いてからスムーズさを欠いては苦しい。

 ノンコノユメ(父トワイニング)は、大きく出負け。スローなので追い上げることはできたが、あの形は最初から自分のリズムではなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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