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“愉快犯”は“病人”でもある?

  • 2005年10月18日(火) 20時37分
 オータムセールが14日に終了した。11日より14日にかけては、サラ、アラの1歳馬が上場され、サラブレッドが上場708頭(牡310、牝398)、落札190頭(牡105、牝85)、売上げ総額5億6461万6500円(対前年比マイナス1億9425万5000円)、売却率26.84%(同マイナス1.56%)、平均価格297万1666円(同マイナス18万3032円)と、いずれも前年より数字を落としてしまった。
 
 一方のアラブも、今年は上場がわずか9頭にとどまり、3頭が売却され、計241万5000円の売上げ。果たして来年以降、アラブ市場がどのようになって行くものか、まったく予断を許さない状態に陥っている。アラブの問題についてはいずれ機会を改めて触れることにして、オータムセールのサラブレッド1歳市場を振り返ってみたい。

 サラブレッドは、血統と馬体、動き、この3要素で価格が決まる。残念ながら、これらの構成要素がどれも水準以上の素材は、本当に少なかったように思う。馬体が良くても血統が三流だったり、母系のブラックタイプが素晴らしくても、馬体に難があったりと、「帯に短し、たすきに長し」というような馬が大半だった。

 1歳の秋まで売れ残った馬たちの集まりなのだから、これもまたやむを得ないことなのだろうとは思うが、案の定、誰からも声がかからずに空しく生産馬を連れ帰らざるを得ない生産者が本当に多かった。今後、それらの売れ残り1歳馬には、かなり厳しい現実が待っていることだろう。
 
 前置きが長くなった。

 売れ残った生産馬をどうするか、と思い悩む生産者のもとへ「馬を売ってくれ」と片っ端から電話をかけていたのが、以前ここで何度か触れたA県のKである。Kは、今年に限っては8月のサマーセール終了直後から暗躍し始めたのだが、昨年、一昨年と、オータムセールが終わってから本格的に行動を開始していたのだ。

 そのために、私を含む日高の被害に遭った生産者は、一様にKの動きを警戒するとともに、これ以上の被害者を出さないように、と日高軽種馬農協や地方競馬全国協会などにKの悪行を告発し、Kに対して何らかの警告を発信してもらえないか、と強く要望することとなった。

 それを受けてさっそく日高軽種馬農協は、機関紙「日高軽協だより」にて生産者各位に対し、注意を促す記事を掲載したのに続いて、地方競馬全国協会も、このほどK本人に連絡を取り「今後、あなたの行動はすべて厳しくチェックすることにします」ときつい口調で釘をさしておいた、という。

 こうした一連の「架空取引封じ込め作戦」が奏効するかどうかは何ともまだ分らないところだが、ごく普通に考えるならば、Kはもう競馬に関わることを断念せざるを得ないほどの包囲網が形成されつつあると自覚すべき時期に来ているはずだ。

 にもかかわらず、またKに関しての新たな足取りが聞こえて来た。先月末のこと、日高のとあるJA(農協)にKが電話をかけてきて、「ジャガイモと南瓜を注文したい。代金着払いで品物を送って欲しい」と要求してきた、というのだ。

 その農協では、さっそく、宅配便で、ジャガイモと南瓜を合計60キロほど発送したという。しかし、品物は間違いなくA県に届いたものの地元の宅配便業者がK宅に届けるべく連絡しても、「今は金がないので後日改めて来てくれ」などと受け取りを引き延ばし、結局、3回も連絡をしたがついにKは品物を受け取らなかったそうである。

 大量のジャガイモと南瓜は、また津軽海峡を渡って、発送元の農協に返品されてくることになっているらしいが、馬鹿を見たのは宅配便業者だ。所詮、中身はジャガイモと南瓜だから、むしろ送料の方が高くついた計算になるだろう。いったい何のために、こんな愚劣極まる架空注文をするのだろうか。

 最終的に金を支払わない、という点に関しては、日高の生産者に馬の取引を持ちかける心理とまったく同じである。ある生産者は言う。「以前、Kが送ってきた米だって、代金を支払っているとは到底思えない。そのうちA県の業者から請求書でも届くんじゃないか」と。残念ながらその可能性もないわけではない。

 それにしても、本当にKの行動は謎だらけである。彼をこうした行為に駆り立てるものはいったい何なのか。「病気ではないか」という見方をする人もいる。そうとでも考えなければ、常識ではとても理解し難い異常行動と言う他ない。

 10月20日には静内にて「繁殖セール」が開催されることになっている。Kは、先月、この市場で欲しい牝馬がいる、などと静内の生産者に話していたとも聞いている。あるいは、その時にでも姿を現すのであろうか。 

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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