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令和最初の相馬野馬追で出会った現・元競走馬たち

  • 2019年08月08日(木) 12時00分
 今年も千年以上の伝統を誇る世界最大級の馬の祭り「相馬野馬追」に行ってきた。

 7月27日(土曜日)には出陣式や宵乗り競馬、軍者会などの「宵祭り」、28日(日曜日)には甲冑行列や甲冑競馬、神旗争奪戦などの「本祭り」、29日(月曜日)には「野馬懸」が行われた。

 今年は395騎(前年から27騎減)の騎馬武者が出陣。3日間で延べ16万3200人(前年から3万2000人増)の観客が見守った。

 参加する馬の大多数、おそらく9割ほどは元競走馬だ。その半数ほどは相馬市、南相馬市を含む相双地区で野馬追のために繋養されており、残りの半数ほどは、この時期だけほかの地区からレンタルされてきた馬たちである。

 令和最初の相馬野馬追で元気な姿を見せてくれた現・元競走馬たちを、フォトリポートの形で紹介したい。なお、キャプションでは、セン馬も「牡」と表記する。

マドリードシチー(牡15歳、父サッカーボーイ、母の父スキャン、中央9戦0勝)


 宵祭りの朝、小高郷郷大将、松本充弘さんの元に参じた郷大将付中頭の本田賢一郎さん。騎乗馬はマドリードシチー。23歳の本田さんは、今年20回目の野馬追出陣という猛者である。

 右は、毎年本稿で紹介している郷大将付軍者の蒔田保夫さん。騎乗馬は昨年と同じアイティテイオー。

ゴロウマルウィン(牡5歳、父クロフネ、母の父ブライアンズタイム、中央2戦0勝、地方35戦7勝)


 ゴロウマルウィンは、3カ月ほど前まで岩手で競走馬として走っていた。ラグビーの五郎丸歩選手公認の馬名として話題になった馬である。

ハギノグラミー(牡9歳、父タニノギムレット、母の父シンボリクリスエス、中央12戦0勝、地方3戦1勝)


 大山ヒルズのキッチンマネージャーだった中ノ郷騎馬の佐藤弘典さんは、ハギノグラミーで出陣した。乗馬のインストラクターの資格を持つ佐藤さんは、乗馬、競馬、野馬追のすべてにおけるエキスパートだ。一緒に甲冑競馬を見ていると、出走馬の外観や騎馬武者が背負う旗指物で瞬時に馬名を識別して教えてくれるので、とても助かる。GIを2勝したグレイスフルリープが、今年、北郷の侍大将を背に出陣することも教えてくれた。

ダンスパフォーマー(牡8歳、父アドマイヤドン、母の父ヘクタープロテクター、地方17戦6勝)


 2014年のダービーグランプリで2着になるなど活躍したダンスパフォーマーは、高校2年生の小高郷先頭軍者付御使番の只野晃章(てるあき)武者を背に、土曜日の宵乗り競馬と、日曜日の甲冑競馬に出場した。上の写真は、宵乗り競馬を圧勝したシーン。

マイネルインペリオ(牡9歳、父スマートカイザー、母の父クリスタルグリッターズ、中央4戦0勝、地方76戦12勝)


 元騎手の木幡初広調教助手は、中ノ郷の騎馬として、お世話になっている人から譲り受けたというマイネルインペリオで出陣した。

ウップスアデイジイ(牡7歳、父ファルブラヴ、母の父シーキングザゴールド、中央14戦1勝、地方51戦8勝=8月7日現在)



 地方競馬で30頭以上を所有する中ノ郷勘定奉行の前田敏文オーナーは、自身が所有する現役馬のウップスアデイジイで出陣した。本稿のタイトルと本文の一部を「現・元競走馬」としたのは、この馬がいるからだ。前田さんと私が初めて会ったのは2年前の秋、中山競馬場の馬主席だった。

サトノメダリスト(牡7歳、父ゼンノロブロイ、母の父ロード、中央12戦1勝、地方10戦1勝)


 中ノ郷武装取締の紺野聡さんは、昨年12月まで南関東で走っていたサトノメダリストで出陣した。

ロジック(牡16歳、父アグネスタキオン、母の父サクラユタカオー、中央23戦3勝)


 2006年のNHKマイルカップを勝ったロジックは、中ノ郷組頭加藤貴之さんを背に、2年目の出陣。甲冑行列に参加した。

エノラブエナ(牡8歳、父シンボリクリスエス、母の父サンデーサイレンス、中央24戦4勝)


 最初の写真の本田賢一郎さんの父で、小高郷副軍師の本田博信さんは、これが初陣となるエノラブエナで出陣。本田さんは、数年前、私が野馬追のあと帰京せず八戸に向かうことを伝えたとき「前田長吉の関係ですか」と言ったほど競馬にも詳しい。

ダンスパフォーマーは前日の宵乗り競馬につづき、本祭りの甲冑競馬も優勝


 ダンスパフォーマーに乗った只野晃章武者は、日曜日の甲冑競馬も圧勝した。道中、空気抵抗を考え、旗指物の角度が水平に近くなるように変えながら、絶妙なペース配分で逃げ切り、甲冑競馬3連覇を果たした。昨年と一昨年の騎乗馬はドラゴンフラッシュ。違う馬で3連覇したのだから、腕がいいのだ。

 私にとって、9年連続9回目の相馬野馬追が無事に終わった。

 日焼けしすぎてボロボロになった鼻の頭と頭皮のかゆみが、ようやく落ちついてきた。また来年も、顔なじみの騎馬武者たちと馬たちに会えることを楽しみに出かけたい。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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