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ばんえい競馬、売り上げ好調の陰で抱える課題

  • 2019年11月28日(木) 18時00分

サラブレッドと共通する部分が何もない


 先日、ばんえい競馬を主たる現場にしているカメラマン仲間のK氏が来宅した。しばらく帯広競馬場に行っていないが、ばんえい競馬でもやはり「かなり人手が不足している」状態だという。

「浦河ではインド人が160人でしたっけ?実は帯広でも今年からインド人厩務員が厩舎で働き始めていて、現在確か4人になっていますね。これからもっと増えて行くんじゃないですか」とK氏が語っていた。大型馬をパドックで引くのがインド人か・・・と想像してみたが、多少の違和感は感じる。

 とはいえ、ばんえい競馬の人手不足はK氏によれば「おそらく門別競馬場の比ではないと思う」とのこと。馬を調教し、レースに出走させ、日々の世話をするという点ではサラブレッドと同じだが、そもそも馬のサイズが余りにも違いすぎて、ほとんど共通する部分がない。調教方法から、ゲート幅から蹄鉄の大きさから、飼養する馬具に至るまで、何一つサラブレッドと兼用できるものがない。

「なので、ばんえいは、それこそ生産から競走、そして引退した馬が生産牧場に帰って繁殖に上るまで、あの世界だけでサイクルが完結しているスタイルですから、どこか一か所がおかしくなっても、その流れが不自然なものになります。生産頭数が減少してきているのは今に始まったことではなく確かにそれも深刻ですけど、やっぱり見ていて思うのは競馬場の厩舎で働く人の数がどうしようもないレベルまで少なくなってきていることですね。新しい人を補充して行かないと、とても持ちませんよ。みんな総じて年齢を重ねてきている感じですから」とのこと。

 このところの馬券売り上げの好調さは、ばんえい競馬でも例外ではなく、地全協発表の今年4月〜10月末までの数字では、開催日数が82日(前年と同じ)、入場人員は21万7207人(前年比116.5%)、総売り上げは156億2659万8900円(前年比124.5%)となっている。

 一日平均でも、入場人員が2649人(前年比116.5%)、売り上げが1億9056万8300円(124.5%)と、絶好調と表現して差し支えない。

 売り上げが一日平均2億円に達していないのは、他の地方競馬と比較しても確かに見劣りする部分ではあるが、もともとばんえいは、どん底の時代には、1日1億円にすら達していなかったのだ。概ね7000万円〜8000万円あたりで推移し、したがって賞金も驚くほど削減されていた。1着賞金がわずか10万円かどうかするとそれ以下という時代がつい数年前まで続いていた。それを思えば、一日平均2億円近い今年の数字は、十分に評価できるものだ。

 さらに入場人員の多さにも驚かされる。土日月の週3日間開催が基本で、中央場外も兼ねていることから、ばんえい競馬よりも中央競馬の馬券を購入するために来場するファンもこの中にカウントされているだろうが、それにしても、2649人というのは、例えば門別の739人(今年度4月〜10月)と比較すると、実に約3.5倍である。

生産地便り

多くの観客で賑わう帯広競馬場


 もちろん観光客が立ち寄り、ばんえい競馬を楽しんでいるという例も多いはずで、そういう人はあまり多額の馬券を購入しないだろうから、入場人員ほど場内での発売金額が多いわけではない。因みに帯広の場合は、156億円余の売り上げのうち、場外発売分(ネットを含む)が148億円余。場外比率は94.9%。場内での1人当たりの馬券購入単価は3700円である。多くの競馬場が1人あたり1万円を超えている中にあって、この3700円というのは、全国一少ない。次に少ないのが門別の7200円なので、ほぼその半分であり、帯広の場内購買単価はとにかく群を抜いて少額なのだ。

 とはいえ、ばんえい競馬は2007年度から帯広競馬場のみの単独開催に踏み切り、以後今日まで関係者の努力によって、世界で唯一の「大型馬が橇を曳く」競馬として着実に認知度を高めてきた。ばんえい競馬ファンは全国津々浦々に分布しており、3月下旬の大一番である「ばんえい記念」の日は、友人知人と再会し笑顔を見せるファンがあちこちに見られ、さながら、同窓会のごとき光景が現出する。ネット中心とはいえ、全国にいる熱心なばんえいファンに支えられ、愛されている競馬とも言える。

生産地便り

ばんえい記念でのセンゴクエース怒涛の追い込み


 そのばんえい競馬の厩舎現場でも、ご多分にもれず、深刻な人手不足に陥っているというのは、何とも気がかりである。ハローワークでの募集程度では、おそらく大した効果は望めまい。単に、馬が好き、競馬が好き、というだけでこの世界に飛び込んでくる人もそれほどいないはずで、だとすれば、他にどんな方法が残されているのか。

 ここでまた思考停止に陥ってしまい、容易に解決策が思いつかない。生産地のみならず、どこの地方競馬にとっても、人材確保の難しさが今後の最大の課題になって行きそうだ。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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