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令和最初の年末年始

  • 2020年01月09日(木) 12時00分
 あけましておめでとうございます。今年も熱視点をどうぞよろしくお願いいたします。

 令和最初の年末年始。みなさんは、どのように過ごされましたか。

 という話をするには、いつからが「年末」で、いつまでが「年始」なのかを確定させなければいけませんね。ほとんどの競馬ファンにとっては、有馬記念終了後からが「年末」で、金杯までが「年始」でしょう。だとすると、昨年は有馬記念が12月22日と早かったので、年末年始がずいぶん長かったように感じられたはずです。

 いやいや、「やっぱり東京大賞典が終わらないと『年末』という感じはしない」という方もいれば、「ホープフルステークスがトリという番組に慣れてきた」という方もいらっしゃるかもしれません。

 先日JRA賞が発表され、ホープフルステークスを勝ったコントレイルが、朝日杯フューチュリティステークスを制したサリオスを抑えて最優秀2歳牡馬、つまり、2歳王者の座を獲得しました。

 昨年のホープフルステークスは12月28日。日付だけで言いますと、完全に「年末」です。東京大賞典はその翌日ですから、さらに濃い「年末」となり、だからこそ日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が、都内の制限住居から出る日に選んだのでしょう。

 話が逸れました。

 年末年始イコール「お休み」という感覚が普通であるなか、その間に才能豊かなディープインパクト産駒が2歳王座をモノにするパフォーマンスを披露したのです。競馬ファンとしての感覚のセンサーを完全に「オン」にして受け止めるべき走りでした。まあ、有馬記念のあといったん「オフ」にして、ホープフルステークスの前日か同日に「オン」にする手もあるのですが、ともかく、競馬ファンにとっての「年末年始」の概念を変えてしまいそうな一戦となりました。

 お気づきかと思いますが、今回は口調を変えております。

 前にも、この更新日に越してきたころ実験的な試みをしましたが、あらためて、口調を変えると話す内容まで変わるかを、書き進めながら実験しています。結論から言うと、変わりそうな気がしています。

 私はだいたい「〜だ。〜である」という常体で書いているのですが、普段話すときは、今書いている敬体に近い口調になります。

 常体だと、つい構えてしまいますが、こうした敬体だと肩の力が抜け、書いているときの表情もおそらく違うと思います。口を滑らせるとしたらこちらです。

 コントレイルは皐月賞に直行すると矢作芳人調教師から発表されています。厩舎もオーナーも生産者も異なりますが、昨年のサートゥルナーリアも同じローテーションでした。

 大目標は日本ダービーだと思われますが、かつての「競走馬が最も高い能力を発揮するのは叩き3戦目」という考え方は、もう古いのでしょうか。10年ほど前、松田国英調教師にダイワスカーレットについて話をうかがったとき、師は「一流馬になると、ひとつ叩いた変わり身のほうが、2戦目から3戦目の上がり目より大きい」と話していました。

 ノーザンファーム天栄に代表される外厩の施設とノウハウがさらなる進化を遂げた今は、その「ひと叩き」さえも大きなプラスとは言い切れない時代になりました。

 「レースは生き物」と言われていますが、レースの集合体である競馬そのものもまさしく生き物です。私が競馬を始めた1980年代後半は、芝のレースで上がり3ハロンが35秒台だったら「切れる馬」でした。それが今や、32秒台も珍しくありません。

 サンデーサイレンス旋風が吹き荒れたころは、多くの馬が瞬発力勝負をしようとしたため「スローペース症候群」なる現象がしばしば見られました。
「脚が溜まる」だとか「出して行く」といった表現も、競馬の形が変わってきたなかで生まれたものです。

 そうした自然発生的な変化もあれば、降着ルールの変更、クラスの名称変更と降級制度の廃止などのように、主催者による大きなルール変更もありました。

 生き物は成長し、進化します。しかしながら、不吉なことを言うようですが、退化することもあれば死ぬこともあります。

 どんなに手を抜いても、何をやっても死にはしない――という甘いものではないことがわかっているからこその緊張感が、競馬というスポーツの魅力になっているのでしょう。

 昨年は、リスグラシューとアーモンドアイという歴史的名牝がとてつもない強さを見せてくれました。

 今年の競馬界ではどんなシーンが見られるのでしょうか。

 この年末年始、私は2冊の本のゲラの修正に明け暮れていました。ひとつは2月に文庫化される『絆〜走れ奇跡の子馬〜』、もうひとつは3月に上梓する騎手列伝の単行本です。

 こうして本を出してくれる版元があるのはありがたいことです。

 それはいいのですが、単行本のタイトルは『ジョッキーズ』にしよう、と編集プロダクションの社長から言われています。昨年9月に『ジョッキーズ・ハイ』を出したばかりの私としては、それでいいものかと悩んでおります。版元は違うところです。

 常体でも敬体でも、とりとめのない話になってしまうところは同じですね。

 今回もし常体で書いていたら、コントレイルとサリオスの対比と、名実ともに「格」の上がったホープフルステークスの話を軸にしていたと思います。

 えっ、そっちのほうがよかったですか?

 来週以降、本稿の口調をどうするか、もう1週間考えさせてください。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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