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ステイホームのバトンリレー企画

  • 2020年05月07日(木) 12時00分
 本稿がアップされるのは5月7日。政府による緊急事態宣言が発令されてからちょうど1カ月になる。当初は、ゴールデンウイーク最終日の5月6日に解除される予定だったが、周知のように、今月31日まで延長されることになった。その日、5月31日には第87回日本ダービーが行われる。

 世の中「コロナ」の話題だらけなので、この稿ではまるで違う話をしたほうがいいのか、それとも、コロナが競馬に影響する部分について書いたほうがいいのか、いつも迷っている。

 私の場合、たまにテレビをつけて、何人ものタレントが唾を飛ばしてバカ笑いしている過去の番組の映像が流れているとすぐにチャンネルを変えてしまう。まだそういうものを見る気分にはなれない。やはり、コロナに関する医療業界や外食産業の奮闘ぶりのドキュメントなどを見ているほうが落ちつける。自分よりもずっとしんどい思いをしている人がいることを確かめられるからだろうか。

 そうした番組以外で、つい見入ってしまうのは「動物もの」だ。室内にいるネコが窓の外に張りついたセミに前足でパンチをしたり、犬が人間の赤ん坊を掃除機からガードしたりといった映像を見ていると癒される。「ステイホーム」に従わざるを得ない状況だからこそ、近くにいて、愛らしい姿を見せてくれる動物の存在に救われる。

 ステイホームに関して、このところ流行っているのが「バトンリレー企画」だ。私の周りでは、「7日間ブックカバーチャレンジ」なるものが盛んに行われている。フェイスブックなどのSNSに、毎日1冊ずつ、好きな本の表紙だけを投稿する、というものだ。本についての説明は行わず、友達にバトンを渡していく、というルールになっている。ずいぶん前から何人も知人がそれに参加しているのだが、私のところには一向にバトンが回ってこない。

――どうせあいつは自分の本を7冊アップして終わりにするつもりだろう。

 とでも思われているのか。友人でただひとり、「福島民友」記者の渡邊 久男さんが『絆 走れ奇跡の子馬』をアップしてくれた。

 一部のタレントが、自分にそうした企画のバトンを回さないでほしいと訴えるなど、いい加減飽きられ、忌避されている部分もあるのだが、ここで話は動物に戻る。馬の画像や動画のそうしたバトンリレーがあるなら、ぜひ見てみたい。ただ、これは投稿できる人が限られている、という問題がある。いつだったか、今でも忘れられない動画をフェイスブックで見た。

 ある持ち乗りの調教助手が、自分の担当馬を撮影したものだ。その馬は、角馬場のようなところに入り、嬉しそうに円を描いて軽く走っていた。ふと立ち止まっておしっこをし、また同じように走りはじめた。何周かして疲れたのか、走るのをやめ、前脚を折り畳んで腹這いになった。そして、首を下げ、鼻先を地面につけた。そこはたまたま、さっき自分がおしっこをしたところだった。臭かったのか、馬は驚いたように立ち上がってイヤイヤをし、また走り出した。

 やろうと思ってできることではない。何回もリプレイを見て、そのたびに笑った。

 もうひとつ、これは最近のものだが、運動場のようなところに大きな鏡が置かれ、そこで1頭の馬が生まれて初めて鏡で自分の姿を見た。馬は「誰だあの馬は」という表情で鏡を見て、考え事するかのように首を大きく下げた。それから横に回り込み、鏡の裏側を覗き込んだ。誰もいないので不思議そうな顔をして、また鏡の前に戻ってきた。この映像もよかった。投稿したのはnetkeiba.comでおなじみの佐々木祥恵さんだ。

 東京の5週連続GIシリーズが幕を開ける。ミニマムの人員と移動で、無観客競馬が行われている。これまで主催者サイドは、移動や接触を制限する方向で対策を取ってきた。緊急事態宣言が早めに解除されたら、競馬サークルにおいても、段階的に制限を解除する方向の動きが出てきてほしいと思う。それがいつになるのかも、何を基準に判断すればいいのかもわからないのがもどかしいが、ともかく、まだ我慢のときはつづきそうだ。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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