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【関屋記念】人馬ともに本来の姿を取り戻した一戦

  • 2020年08月17日(月) 18時00分

サトノアーサーの本当の充実はこれからかもしれない


 2018年のエプソムC以来、8連敗を喫していた6歳牡馬サトノアーサー(父ディープインパクト)が鮮やかに復活して重賞2勝目を記録し、落馬負傷で半年以上も休んでいた戸崎圭太騎手(40)がようやく本来の姿を取り戻し、2019年の毎日王冠(ダノンキングリー)以来の重賞制覇を達成した。

 6歳サトノアーサーは、レイデオロが制した2017年の日本ダービーで5番人気に支持された注目馬。ここまで多分に人気先行型のところがあったが、6歳夏とはいえまだ【5-5-4-6】。ディープインパクト産駒の中では、ちょっとらしくないフットワークで、必ずしも猛烈に切れるわけではない一方、逆にもろい一面はない。大敗したのは不良馬場の菊花賞11着(2秒0差)だけ。

 戸崎騎手は強気(一気に)にスパートして早めに勝機を見いだす流儀ではなく、直線の長い東京や新潟では本気のスパートを遅らせることが多い。今回のサトノアーサーはスタートで出負けしたこともあるが、4コーナーではまだ最後方近くの17-18番手。

 そこからスペースを探しつつ徐々に差を詰めると、全力スパートに入ったのは残り400mを過ぎてからだった。これでコンビ成績【2-0-0-1】。リズムが合う。1分33秒1は関屋記念とすると非常に平凡な時計だが、今年の夏はここまで4週間、(新潟ではきわめて珍しいことに)土日ともに良馬場だったことがほとんどない。そんな芝コンディションが影響し、全体にタイムを要し、軽い芝を好むタイプの苦戦も生じている。

 輸入牝馬の母キングスローズ(NZ産)は、NZ1000ギニーを制したNZ3歳牝馬チャンピオンながら、満年齢5歳いっぱいまで【8-5-2-8】のタフな牝馬だった。その父Redoute's Choiceリダウツチョイス(父デインヒル)は自身も再三チャンピオンサイアーに輝いたと同時に、4シーズン連続でオーストラリア総合種牡馬成績1位になったばかりのスニッツェル(07年、11年の春は日本で供用)の父であり、きわめてタフな活力を伝えている。6歳サトノアーサーの本当の充実はこれからかもしれない。

重賞レース回顧

写真提供:デイリースポーツ


 逃げて2着に粘った5歳牝馬トロワゼトワル(父ロードカナロア)が、外枠からハナに立って作り出したレース全体の流れは「46秒3-46秒8」=1分33秒1。1000m通過57秒8。芝状態を考慮すると、スローバランスも珍しくない過去10年の平均「46秒65-45秒58」=1分32秒23より前半1000mまでが少々きついペースだったかもしれない。

 自身は「46秒3-47秒0」=1分33秒3。最後の1ハロンが12秒6と鈍ったため勝ち切れなかったが、これは復活サトノアーサーを称えるべきで、マークを振り切り寸前までしのぎ切った快速牝馬トロワゼトワルは、全能力発揮に成功している。4着のヴィクトリアマイル、今回の2着も三浦皇成騎手とのコンビ。勝ってはいないものの、絶妙のペース配分が光るすばらしい逃げ戦法だった。

 3着アンドラステ(父オルフェーヴル)は、ここまで1600m4戦3勝だが、条件戦のマイルとはまったく異なり、先行できなかったのに自身の1000m通過はこれまで経験したことのない58秒台。息の入れにくいペースで、内枠なので外から来られてもまれ、直線に向いてもっとも早く手が動くほど苦しいレースだった。それでも最後まで音を上げることなく苦しいインから伸びて3着。この内容は絶賛に値する。

 これで1600m【3-0-2-0】となったが、1分31-32秒台向きの快速タイプとは思えないところもあり、このあとは中距離でさらに勝負強さ全開の活躍が望めるだろう。

 先行して5着(58秒3-35秒2=1分33秒5)に踏みとどまったミラアイトーン(父Lonhroロンロ)の内容も十分に立派だったが、こちらもアンドラステと同様、自己最高が1分33秒台。しぶとい粘り腰、持続スピードが生きるのは、パワーの生きる短距離戦か、逆に1800-2000m級であり、こなすことはできてもトップマイラー相手はきびしい印象が残った。

 グルーヴィット(父ロードカナロア)は、19年7月の中京記念を勝ってはいるが、夏は歓迎ではないという心配があった。快調教をこなしてその不安はないと思えたが、プラス10キロの迫力あふれる馬体のはずが、猛暑のためか、心なしかこぢんまり映った。

 5歳牝馬プリモシーン(父ディープインパクト)の残念な凡走の敗因は難しい。しいていえば、プレッシャーを受け通しの最内枠で、途中から嫌気がさしたレースだったのか。

 GI級の能力を秘めるのは衆目一致だが、17戦して【4-3-1-9】。鮮やかな切れを爆発させることもあれば、いかにも繊細な牝馬らしく、動きや馬体や位置取りは良くても、凡走回数も非常に多いのがプリモシーンであり、実際、これは3歳時から変わっていない。

 4歳クリノガウディー(父スクリーンヒーロー)も非常に難しいタイプ。同じ距離か、距離短縮の場合の内容は悪くないが、今回で改めて判明したが、前走より距離延長の場合は行きたがってしまい、どうも結果が良くないように思える。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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