消耗戦未経験のグランアレグリアをどう見るか(c)netkeiba.com
このスプリンターズSについては、拙作・ラップギアを前面に押し出した手法をご紹介してみたいと思います。ラップギアとは、ラスト4ハロンのラップ区間における"ラップの増減"のみに着目した、競走馬の分類メソッド。ラスト4ハロンをどれだけ加速、もしくは減速したかでレースの質(流れ)を瞬発戦・平坦戦・消耗戦の3つに分類する手法なのですが、今回着目するのは、その中でも消耗戦に分類される流れでの成績です。
ラップギアの定義する消耗戦とは"11秒4-11秒5-11秒9-12秒1"のように、ラスト4ハロンのラップが減速(または同タイム)し続けるレースです。通常は1200m以下の短距離戦で多く見られるラップなのですが、"そういったレースでの好走率"こそがスプリンターズSでのすべてだと言っても過言ではないのかも知れません。
下記のように、GIになって以降(1990年以降)のスプリンターズS勝ち馬は、2000年1着ダイタクヤマト以外すべて、該当年のスプリンターズS前の"ラップギア分類・消耗戦での複勝率"が50%を超えていました。1998年 単勝37.6倍1着マイネルラヴや2009年 単勝13.8倍1着ローレルゲレイロ、2011年 単勝11.2倍1着カレンチャンといった人気薄での勝ち馬も含め、外国馬を除く27頭中26頭(96%)がこの要件に該当しているのです。
■歴代スプリンターズS勝ち馬のラップギア分類・消耗戦の複勝率
1990年バンブーメモリー 消耗戦複勝率 50%○
1991年ダイイチルビー 消耗戦複勝率100%○
1992年ニシノフラワー 消耗戦複勝率100%○
1993年サクラバクシンオー 消耗戦複勝率 71%○
1994年サクラバクシンオー 消耗戦複勝率 80%○
1995年ヒシアケボノ 消耗戦複勝率 75%○
1996年フラワーパーク 消耗戦複勝率100%○
1997年タイキシャトル 消耗戦複勝率100%○
1998年マイネルラヴ 消耗戦複勝率100%○
1999年ブラックホーク 消耗戦複勝率100%○
2000年ダイタクヤマト 消耗戦複勝率 46%×
2001年トロットスター 消耗戦複勝率 69%○
2002年ビリーヴ 消耗戦複勝率 63%○
2003年デュランダル 消耗戦複勝率 67%○
2004年カルストンライトオ 消耗戦複勝率 50%○
2005年サイレントウィットネス 外国馬
2006年テイクオーバーターゲット外国馬
2007年アストンマーチャン 消耗戦複勝率 80%○
2008年スリープレスナイト 消耗戦複勝率 83%○
2009年ローレルゲレイロ 消耗戦複勝率 50%○
2010年ウルトラファンタジー 外国馬
2011年カレンチャン 消耗戦複勝率100%○
2012年ロードカナロア 消耗戦複勝率100%○
2013年ロードカナロア 消耗戦複勝率100%○
2014年スノードラゴン 消耗戦複勝率 56%○
2015年ストレイトガール 消耗戦複勝率 60%○
2016年レッドファルクス 消耗戦複勝率100%○
2017年レッドファルクス 消耗戦複勝率100%○
2018年ファインニードル 消耗戦複勝率 73%○
2019年タワーオブロンドン 消耗戦複勝率100%○
※1999年までは12月開催。2002年と2014年は新潟競馬場開催。
上記一覧を含め、ラップギア分類・消耗戦での複勝率50%を超えていた馬と、超えていなかった馬の成績比較は下記のとおりです。これだけ成績に差があれば、どちらのグループを買うべきかは一目瞭然なのではないでしょうか。
■スプリンターズS、消耗戦の複勝率50%以上の馬と49%以下の馬比較
50%以上 282戦【26-24-23-209】勝率9%
49%以下 148戦【 1- 6- 5-136】勝率1%
※GI昇格の1990年以降、外国馬は除く
それを踏まえて、今年のスプリンターズS出走予定馬を同様に分類してみると、気になるのはやはり 複勝率0%グランアレグリアの存在になります。同馬はラップギア・消耗戦への出走経験自体がゼロなので 判断に迷うところではあるのですが、過去の こういった"消耗戦未経験馬"も含めての148戦1勝であることは 理解しておくべきなのかも知れません。
■2020年スプリンターズS出走予定馬のラップギア分類・消耗戦の複勝率
アウィルアウェイ 6戦4好走 複勝率 67%○
エイティーンガール 5戦3好走 複勝率 60%○
カイザーメランジェ 13戦5好走 複勝率 39%×
キングハート 20戦5好走 複勝率 25%×
クリノガウディー 4戦1好走 複勝率 25%×
グランアレグリア 0戦0好走 複勝率 0%×
ショウナンアンセム 7戦2好走 複勝率 29%×
ダイアトニック 2戦0好走 複勝率 0%×
ダイメイフジ 14戦3好走 複勝率 21%×
ダイメイプリンセス 19戦6好走 複勝率 32%×
ダノンスマッシュ 4戦4好走 複勝率100%○
ノーワン 3戦0好走 複勝率 0%×
ビアンフェ 3戦2好走 複勝率 67%○
ミスターメロディ 4戦2好走 複勝率 50%○
メイショウグロッケ 5戦2好走 複勝率 40%×
モズスーパーフレア 8戦4好走 複勝率 50%○
ヤマカツマーメイド 3戦1好走 複勝率 33%×
ライトオンキュー 6戦4好走 複勝率 67%○
ラブカンプー 18戦6好走 複勝率 33%×
レッドアンシェル 5戦4好走 複勝率 80%○
※消耗戦複勝率50%以上は○、49%以下は×印
闇雲にデータだけを見るのではなく、まずは仮説を立てて、そこから裏付けとしてのデータ・リサーチ。ウマい馬券では、ここから更に踏み込んでスプリンターズSを解析していきます。印ではなく『着眼点の提案』と『面倒な集計の代行』を職責と掲げる、岡村信将の最終結論に ぜひご注目ください。
■プロフィール
岡村信将(おかむらのぶゆき)
山口県出身、フリーランス競馬ライター。関東サンケイスポーツに1997年から週末予想を連載中。自身も1994年以降ほぼすべての重賞予想をネット上に掲載している。1995年、サンデーサイレンス産駒の活躍を受け、スローペースからの瞬発力という概念を提唱。そこからラップタイムの解析を開始し、 『ラップギア』 と 『瞬発指数』 を構築し、発表。2008年、単行本 『タイム理論の新革命・ラップギア』 の発刊に至る。能力と適性の数値化、できるだけ分かりやすい形での表現を現在も模索している。
1995年以降、ラップタイムの増減に着目。1998年、それを基準とした指数を作成し(瞬発指数)、さらにラップタイムから適性を判断(ラップギア)、過去概念を一蹴する形式の競馬理論に発展した。 『ラップギア』 は全体時計を一切無視し、誰にも注目されなかった上がり3ハロンの“ラップの増減”のみに注目。▼7や△2などの簡単な記号を用い、すべての馬とコースを「瞬発型」「平坦型」「消耗型」の3タイプに分類することから始まる。瞬発型のコースでは瞬発型の馬が有利であり、平坦型のコースでは平坦型に有利な流れとなりやすい。シンプルかつ有用な馬券術である。