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【エリザベス女王杯】タフな勝負も譲らなかった女王の座

  • 2020年11月16日(月) 18時00分

アーモンドアイだけではない現5歳世代牝馬の層の厚さ


 5歳牝馬ラッキーライラック(父オルフェーヴル)が、4歳時の昨年に続き見事に連覇を達成した。1996年から3歳以上になったこのレースを連覇したのは、1998-1999年のメジロドーベル、2003-2004年アドマイヤグルーヴ、2010-2011年のスノーフェアリー(GB)に次いで史上4頭目だった。アーモンドアイと同期の現5歳牝馬がハイレベルを誇り、なおかつ層の厚さを誇ることは知られるが、2着に押し上げたのも5歳のサラキア(父ディープインパクト)。エリザベス女王杯が現行の形になって以降、5歳以上馬が1着、2着したのは2度目のことになる(2009年は5歳-6歳)。改めて現5歳世代の牝馬の層の厚さを再確認させることになった。

重賞レース回顧

エリザベス女王杯連覇を果たしたラッキーライラック


 紛れの生じない厳しい流れを作ったのも同じ5歳のノームコア(父ハービンジャー)だった。最初はハナに行く気はなかったと思えるが、先手を主張する馬が現れなかったため、しばらくしてハナを切ることになった。そうなった以上、GIらしいレースを作らなければならない。作り出したレース全体の流れは前後半の1000m「59秒3-(12秒0)-59秒0」=2分10秒3。高速の平均バランスで、2011年の宝塚記念でアーネストリーが記録した2分10秒1のコースレコードと0秒2差の決着となる厳しいレースだった。

 外枠18番のラッキーライラックは、正攻法の好位差しに出るかとも考えられたが、C.ルメール騎手はラッキーライラックが流れに乗って先行すると案外な結果になることは、テン乗りとはいえ最初から百も承知。前半は後方の外に控え、3コーナーまで動かなかった。とはいえ、最後の直線が約356mの阪神の内回り2200m。3コーナー過ぎで、有力馬の中でスパートしたのがもっとも早かったのもラッキーライラックだった。

 スパートのタイミングが違っても勝ったのはラッキーライラックだったろうが、ゴールの瞬間はクビ、クビの差。あえてC.ルメールを配した陣営全体の勝利でもあった。これで制覇したGIは4勝目。引退しなければならない来春3月までに出走できるレースは、もちろん有馬記念。ただ、最後にムリをする必要はなく18戦7勝でこのまま引退の可能性もある。

 2連勝中の充実と、目下のデキの良さをフルに発揮したサラキアがクビ差2着。3コーナー過ぎでスパートしたラッキーライラックと一緒に動けなかったから上がり最速の33秒7につながったのか、少し待ったのが良かったのか難しいが、あと一歩でGIに手が届くところだった。5歳後半になり、今ようやく本物になったところ。こちらもクラブ所属の馬なので競走生活に期限はあるが、会員の方だけでなく、なんとかあと1-2戦...の声は大きいだろう。

 3着ラヴズオンリーユー(父ディープインパクト)は、記録上はオークスのあと5連敗となったが、昨年のエリザベス女王杯3着(ラッキーライラックと0秒2差)より、今年の「クビ、クビ」差3着のほうがずっと中身は濃かった。ゴール寸前は上位2頭に力負けとされるかもしれないが、3歳春は450キロ台だった身体が現在は480キロ台後半。確実にパワーアップしている。全兄リアルスティールは、ムリをしなかったこともあるが6歳時も現役だった。まだ4歳。本当の充実はこれからだろう。レース直後なので出走は未定と思えるが、11月29日のジャパンCに登録している。

 うまく流れに乗って巧みにインに潜り込んだとはいえ、3歳馬で最先着の4着(9番人気)に粘り込んだウインマリリン(父スクリーンヒーロー)は、追い込んだ馬が上位を占めた流れのなか、価値ある0秒4差だった。オークス2着は、勝負どころで絶妙にひと息入れた横山典弘騎手の技ありの印象があったが、息の入れにくいこの流れに乗っての4着は中身がある。休み明けになった秋華賞は凡走でも、ポイントとなるレースはほとんど人気を大きく上回る着順(連対4回は、6、4、4、7番人気)。戦法がハデなタイプではないが、今回の好走で評価は大きく上がる。

 そのほかの3歳馬では、6番人気のソフトフルート(父ディープインパクト)が6着。7番人気のリアアメリア(父ディープインパクト)が7着。そろって古馬の厚いカベに迫力負けした形だが、ウインマリリンと同じく挑戦者らしく正攻法のレースをしての結果だった。ちょっと物足りない結果は確かだが、レース内容が悪かったわけではない。来季はもうひと回り成長してくれるだろう。リアアメリアは2000mまでが理想か。

 最後に突っ込んで5着の5歳馬センテリュオ(父ディープインパクト)は、もともと多頭数をさばく器用さに欠けるのが死角なのでこういう形になったが、ちょっと後手後手に回り、脚を余した印象も残った。差し一手型にレース上がり34秒8は厳しい。

 紛れの生じない高速の一定ペースから速い時計の決着になったため、上位7着までをすべて上位人気馬が独占する結果となった。この流れを先導することになった2番人気のノームコア(父ハービンジャー)だけが失速することになったが、ノームコアは2-3歳の初期にも最初から先手を主張するレース経験はなかった馬。自在型ゆえレベルの高いレースを演出しなければならない立場になってしまったから、これはやむを得ない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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