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【弥生賞ディープインパクト記念】皐月賞制覇のチャンスが生まれることを予感させるトライアル

  • 2021年03月08日(月) 18時00分

この経験を生かした成長に期待したい


 4戦4勝で皐月賞を勝った2019年のサートゥルナーリア、同じく4戦4勝で皐月賞を制し無敗のまま3冠を制したコントレイルのいた2020年と異なり、多くの馬に皐月賞制覇のチャンスが生まれることを予感させるトライアルだった。

 スローで流れ、前後半「62秒6-59秒4」=2分02秒0(上がり34秒5)の決着だった。弥生賞は時期的に完全な良馬場で行われることは少ないが、最近10年の良馬場(6回)の勝ちタイムの中では、2017年の2分03秒2「63秒2-60秒0」に次ぐ遅い決着時計だった。

 馬場差はある。また、スローの年もハイペースの場合もある。時計は目安にとどまる要素ではあるが、過去10年、弥生賞を直前のステップに選んで、本番のGI皐月賞を2着した馬は5頭。勝ち馬は、共同通信杯4頭、スプリングS3頭、などに押され気味で0頭。

 その5頭の弥生賞の中身は、2011年サダムパテック(弥生賞を2分01秒0で1着)。2013年エピファネイア(2分01秒1で微差4着)、2014年トゥザワールド(2分01秒4で1着)。2016年マカヒキ(1分59秒9で1着)、2018年サンリヴァル(2分01秒3で小差4着)。

 着順は別に、みんな「2分01秒台前半」以内の速い時計だった。

「競馬は時計ではない」の金言はある。だがそれは、小差でも勝つべきレースは必ず勝って3冠馬に輝いた伝説のシンザン[15-4-0-0]の勝負強さを賞賛する言葉だった。遅い勝ち時計を指摘されたチャンピオンに用意された金言であり、敗れたグループには使えない。

 人気のダノンザキッド(父ジャスタウェイ)には、トライアルではあるが、スパッと切れない物足りなさ、まだ緩い身体を思わせる印象、あまりスムーズではないコーナーでの手前の替え方、チャカつく気性…など、本番のクラシックに向けて改善したい課題があった。

 そこで、サートゥルナーリア、コントレイルの選んだ日程は取らず、さらなる進展(良化)を確認したい弥生賞出走だったと思える。スケールあふれる馬体は締まってみえた。ただ、チャカつく仕草は同じだった。坂上からはパワフルに伸びて上がり最速タイの34秒2を記録したものの、追撃に入った4コーナーからの加速は必ずしもスムーズではなく、急坂でモタついた印象も残った。

 あくまでトライアル、と割り切れば十分及第点の3着だが、平凡な1分47秒5だった東スポ杯、GIになって最も遅い時計だったホープフルS2000m2分02秒8からくる「スピード能力」に対する死角を払拭することはできなかった。父ジャスタウェイも、その父ハーツクライも3歳時からトップクラスではあったが、GI級の大物に成長したのは4歳秋以降のこと。同じような成長曲線を描くのではないか、そんな心配が生じた弥生賞だった。

 同じく無敗で出走したシュネルマイスター(父Kingmanキングマン)のテーマは、距離の適性を見極める点にあった。好スタートから先手を主張したタイトルホルダー(父ドゥラメンテ)を行かせ、折り合ってスムーズに2番手追走。この馬の前半1000m通過は63秒1前後。4コーナーでタイトルホルダーに並びかけたあたりでは「勝ってください」という位置取りと、そこまで楽なレースの流れだった。

 だが、逃げ込みに入る勝ち馬との差は詰まるところがなく、理想的な2番手でマークしながら、とうとう差は詰まらず残った数字は勝ち馬と同じ上がり34秒5。父がマイラーであることは知られるが、母方は日本で大成功しているドイツのシュヴァルツゴルトのファミリー。3代母Saldeサルデは、サラキア、サリオス姉弟の3代母でもある。牝系から距離は延びても大丈夫とされた4歳サリオス(父ハーツクライ)が、体型もあってマイラーに近い距離適性を示しているが、この馬も背中の詰まったマイラー体型を示している。前を捕まえ切れずの2着を見た陣営は、まだ未定だがNHKマイルCの路線も匂わせている。皐月賞ではない可能性が生じた2着だった。

重賞レース回顧

鮮やかな勝利をあげたタイトルホルダー(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 タイトルホルダーの横山武史騎手は、見事、鮮やかな勝利だった。前半1000m通過62秒6のスローに恵まれたのは確かだが、ダノンザキッド以外は皐月賞出走OKとはいえない条件賞金1150万円以下の重賞未勝利馬ばかり。3着以内確保に出るには目標になる「先手」は主張しにくい。捕まったら失速の着外もある。

 だが、そういう中途半端な空気を読んだかのような積極策だった。全体時計は物足りないが、馬は確実に良くなっていた。コンビで3戦3勝のエフフォーリア(父エピファネイア)がいるので、皐月賞のタイトルホルダーは別の騎手と思えるが、先行一手型(逃げ馬)は、評価など上がらないほうがいい。ムダのない身体つきと血統背景から、距離は2000m以上も大丈夫だろう。

 レース全体の中身は平凡だったが、皐月賞挑戦を展望したメンバーなので、これからの躍進を思わせる好馬体の馬が多かった。この経験を生かした成長に期待したい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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