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【天皇賞・春】きわめてタフな2マイルを制した底力を評価したい

  • 2021年05月03日(月) 18時00分

福永騎手からは伝統のレースを制した誇りが感じられた


 京都の3200mより、阪神の3200mの方が「厳しい流れになる」と予測されていた通り、きわめてタフな2マイルになった。結果は阪神3200mのレコード。

 前後半の1600mに2分すると「1分35秒6-1分39秒1」=3分14秒7。後半の方が「3秒5」もタイムを要する激しい内容だった。ペースの緩んだ部分はほとんどなく、800mずつに4等分すると、「47秒7-47秒9-49秒8-49秒3」となる。

 みんなが苦しくなったレースの終盤は「37秒4-13秒0」。それでも追い込んで上位に入線した馬はなく、上位を占めたのは厳しいペースで先導したディアスティマ(父ディープインパクト)からあまり離れずに追撃した馬だけだった。

重賞レース回顧

GI2勝目ワールドプレミア(C)netkeiba.com


 勝ったワールドプレミア(父ディープインパクト)は、ただ1頭だけ上がり36秒台(36秒7)で伸びて差し切った形だが、「みんな脚が上がるようなタフなレースになったけど、よく抜け出してくれた(福永祐一騎手)」。見た目以上に苦しかったことを伝えている。

 レースの隊列ができた1周目のスタンド前ですでに7番手。前にいたアリストテレス(父エピファネイア)をぴったりマークする位置になり、きつい流れを追走しつつも最高のポジションとなった。パドックの後半からいらだちを見せるうるさい仕草は変わらないが、レースで折り合いに苦心する若さは解消している。5歳馬ながらまだ[4-1-4-2]。長距離戦に狙いを定めているので、秋はジャパンC、有馬記念の路線だろう。

 決してレベルの高い菊花賞の勝ち馬ではないとされることが多かったが、この天皇賞(春)の中身は、さすがクラシックホースと評価されるに十分な底力だった。

 これで福永祐一騎手は天皇賞を(春1勝、秋1勝)。父福永洋一騎手の(春1勝、秋1勝)と並んで、父子そろって春秋の天皇賞騎手となった。横山富雄騎手(春1勝、秋1勝)、横山典弘騎手(春3勝、秋1勝)の親子につづく2組目であり、「格式の高いレースを勝つことができて光栄です」の勝利騎手インタビューには、クラシックの勝利とはひと味違う、伝統のビッグレースを制した誇りが感じられた。これで重賞150勝でもある。

 2着したディープボンド(父キズナ)は、苦しいレースだった。4コーナーにさしかかる前から和田竜二騎手の手が激しく動き、直線、前のカレンブーケドール(父ディープインパクト)に離されたあたりでは、これは失速かと映ったが、ワールドプレミアに交わされながらもあきらめなかった。懸命に盛り返して2着。鞍上も「良馬場でも差のないレースをしてくれた」。スケールアップと、底力発揮に納得している。スタミナ満点だった。

 陣営は登録済みの凱旋門賞に向かうかどうかは「様子を見てから…」としたが、父キズナは2013年の凱旋門賞4着。その父ディープインパクトは2006年に3位入線失格。母の父キングヘイローは、驚異の勝ち方をした1986年の凱旋門賞馬ダンシングブレーヴ産駒。祖母モガミヒメの父になるカコイーシーズも、結果は出なかったが1989年の凱旋門賞に人気馬として出走している。タフな稍重くらいのコンディションならバテないかもしれない。

 3着カレンブーケドールは強気、強気に攻めて出て、直線に向いて先頭。このまま押し切れるか…のシーンもあった。これで2000m以上のGI「2、2、2、4、5、3」着。クロノジェネシスにも、アーモンドアイにも、ラヴズオンリーユーにもちょっとしか負けていない。

 今回も勝ったにも等しい素晴らしい内容だったが、天皇賞(春)の3200mは守備範囲よりちょっと長かったか。それに阪神とあって前半から流れがきつすぎた。京都の天皇賞(春)3200mなら、もっときわどかったかもしれない。

 2番人気のアリストテレスは、最後までバテたわけでもないが、マークしていたディープボンド、先行していたカレンブーケドールを交わせず、ワールドプレミアには完敗だった。コントレイルとマッチレースを展開した菊花賞3000mは、その前年のワールドプレミアと同じで、こと菊花賞とするとレベルの高い3000mとは評価されていないところがある。前回の阪神大賞典の凡走は能力を出し切れなかった面もあるが、連続してディープボンドに屈したとなると、長距離戦での評価は微妙だろう。この一族、母の4分の3同血の兄リンカーンこそ3000m級でも活躍したが、必ずしも長距離系ではないところがある。

 ディアスティマは最後に失速して6着だが、前回の松籟S(同じ阪神3200m)とは違ってマークがきつすぎた。前回はきついペースながらも自身のリズムで「1分36秒6-1分38秒3」=3分14秒9。ところが今回は最初から徹底的にマークされ、前半1600mが1秒0も速くなって自身「1分35秒6-1分40秒0」=3分15秒6(上がり38秒3)。この展開を考えると急きょテン乗りの坂井瑠星騎手も、ディアスティマも実に見事なレースだった。あの流れで押し切ったら、いきなり超Aランクの評価になる。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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