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【NHKマイルC】種牡馬キングマンのポテンシャルを示した“1分31秒6”

  • 2021年05月10日(月) 18時00分

ハナ差及ばなければ絶賛はない


重賞レース回顧

ハナ差で勝利したシュネルマイスター(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 シュネルマイスター(父Kingmanキングマン)の勝利は、20年ぶりの外国産馬によるNHKマイルC制覇だった。なおかつ輸入されたドイツ産馬によるJRAのGI制覇は初めてのことだった。1995年、ドイツ産のランド(父Acatenangoアカテナンゴ)は第15回のジャパンCを招待馬として、日本の外国産馬ヒシアマゾン(父Theatricalシアトリカル)を下して勝っている。

 シュネルマイスターの母方はドイツの名牝系で、サリオス、ブエナビスタ、マンハッタンカフェなどと同じファミリー。母セリエンホルデ(GER)は、現4歳馬サリオスの母サロミナといとこの間柄になり、なおかつ、すでに日本に輸入されている。馴染みの薄い外国産馬ではない。

 ドイツ血統というと、ほかにはコスモバルクの父ザグレブ(USA)が、その母方は同じドイツの名門シュヴァルツゴルトの牝系であり、もう少し古くは1993年の新潟記念を勝ったブラウンビートルの父スタイヴァザント(GER)が、ドイツダービー馬として輸入された種牡馬だった。日本だけでなく近年のドイツ血統の人気は高いが(大種牡馬Galileoガリレオの牝系はドイツ血統)、その評価は一段と定着するだろう。

 シュネルマイスターの父は、ダンチヒを3代父に持つスピード系のキングマン。愛2000ギニー、仏ジャックルマロワ賞などマイルのG1を4勝し、2014年の全欧年度代表馬だった。今春、凱旋門賞を連覇した牝馬エネイブルの初年度の交配相手に選ばれ、受胎したと伝えられる。種牡馬キングマン(2011年・GB産)産駒の輸入馬はまだ少ないが、NHKマイルCをレース史上2位の1分31秒6で制したインパクトは大きい。シュネルマイスターは「種牡馬候補として日本に連れてきた(吉田俊介氏)」とされる。芝を刈り込んだ印象のある高速コンディションだった。その是非は別に、日本のスピード競馬に対する適性は見事に確認されたことになる。

 今年は先行して押し切りたい快速タイプが多く、なおかつ高速の芝コンディションだったため、前後半流れたペースは「前半33秒7-45秒3-(1000m通過56秒9)-後半46秒3-34秒7」=1分31秒6。スタートで先行型のバスラットレオン(父キズナ)が落馬したにもかかわらず(逆にそれを察知した人馬がいたためか)、例年と同じように前半から非常にきびしい流れになってしまった。

 勝ったシュネルマイスター(ルメール騎手)はエンジン全開にもたつき、先頭から離されかけるような場面もあったが、ここで生きたのが前走の2000mを経験し、かつ通用した自信と底力あるドイツ血統の強みだった。見る角度によっては届いていないようにも思えたが、GIでのハナ差の価値は大きい。ハナ差及ばなければ絶賛はない。

 無念は牝馬ソングライン(父キズナ)。ゴール寸前、さすがに苦しくなって少し内にもたれたように映った。桜花賞こそ不利があり、初の右回りで凡走したが、これで左回り[2-2-0-0]。紅梅S(中京1400m)でみせた迫力のフットワークは本物だった。日本ダービー馬ロジユニヴァース、英G1を制したディアドラは、ともに母ルミナスパレードといとこの関係になる。まだまだ強くなるだろう。ぴたっとマークしていた人気のグレナディアガーズ(父Frankelフランケル)が4コーナーを回って楽な手応えで直線先頭。グレナディアガーズを交わせば…となったのは当然で、実際、完全に差し切った(2馬身半)。仕掛けのタイミングうんぬんは関係ない。勝ち馬に信じがたい底力と幸運があっただけで、まさに負けて強しだった。

 3着にとどまったグレナディアガーズは、このハイペースを追走しながら、最初から少し気負っての追走だった。結果的にスパートが早かったことになるが、東京のマイル戦を1分32秒1(自身57秒0-上がり35秒1)で乗り切ったのだから、示した能力は文句なしと思える。フランケル産駒は日本ではモズアスコット(安田記念など)、ソウルスターリング(オークスなど)、注目の種牡馬として大物を送るが、当たり外れが大きいところがある。

 秋は路線を変えるのではないかという声もあるが、ときにカーッとする気性を考慮して短距離戦に方向転換すると、初年度産駒にいた牝馬ミスエルテのように難しい気性が大成をはばんでしまう危険があるかもしれない。失速の敗戦の影響は大きい。

 4着に突っ込んだリッケンバッカー(父ロードカナロア)は、前半流れに乗れなかったが、上がり33秒9は最速。今回が初めて強敵との対戦に近かった。細身に映った身体つきもだいぶしっかりしてきた。最初は休み休みの出走だったから、軌道に乗ったこれからが楽しみになった。

 5着ロードマックス(父ディープインパクト)も、きつい流れを利して先行タイプの失速に乗じての好走にとどまらない中身があった。しっかり伸びている。

 ちょっと直線で狭くなる不利が痛かったのは、6着タイムトゥヘヴン(父ロードカナロア)だった。多頭数だけに仕方がないが、着順以上の中身を認めたい。

 4番人気で9着のホウオウアマゾン(父キングカメハメハ)は、シャープな身体つきになっていたが、まだハイペースを先行して押し切るというにはパンチが足りなかったか。母ヒカルアマランサスは先行、差し自在だったので、これからの成長待ちだろう。

 落馬したバスラットレオン(父キズナ)は、残念ながら大きく躓くアクシデント。人馬ともに無事だったので、この不名誉はやがて挽回してくれるだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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