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【オークス】「生き残る」総帥岡田繁幸氏の執念

  • 2021年05月24日(月) 18時00分

ついに実を結んだ初のクラシック制覇


重賞レース回顧

鮮やかに差し切ったユーバーレーベン(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 鮮やかに差し切ったユーバーレーベンは、父ゴールドシップも、母の父ロージズインメイもビッグレッドファーム繋養馬。3代母マイネプリテンダー(父Zabeelザビール)はニュージーランドからの輸入馬で、この一族の所属はすべてサラブレッドクラブ・ラフィアン。

 マイネルの総帥岡田繁幸氏の執念が、ついに実を結んだ初のクラシック制覇だった。馬名はドイツ語で「生き残る」という意味だという。岡田さんは残念なことに今春3月に亡くなられたが、その情熱はすべて陣営に受け継がれていた。ユーバーレーベンを称える拍手は、入場制限でファンの少ないスタンドにいつもよりずっと長く響き渡った。

 明確な逃げ馬のいない組み合わせが、結果、大きなカギを握ることになった。先手を主張する馬が現れなければ、好枠の武豊騎手のクールキャット(父スクリーンヒーロー)はレースを主導するつもりだったのだろう。同じく有力候補の1頭ステラリア(父キズナ)も大外18番枠から積極策に出た。

 クールキャットのつくったレース全体の流れは前後半の1200m「1分12秒5-1分12秒0」=2分24秒5。バランス抜群の絶妙な平均ペースであり、道中もっとも遅い1ハロンが「12秒6」。(ふつうだと)紛れの生じにくい実力勝負の流れになった。主導権を握ったのが武豊騎手であり、マークする形になったのがステラリアの川田騎手。少しかかり気味になった吉田隼人騎手の断然人気馬ソダシ(父クロフネ)も、その直後の先行策になった。

 だが、まだみんな厳しい内容の中距離戦を経験していないキャリアの浅い3歳牝馬にとり、前半1200m通過「1分12秒台」は、残る後半になってきつくなる。古馬や、皐月賞の厳しい2000mを経験している男馬にとってはこなせる流れだが、オークスの牝馬が東京2400mを乗り切るにはスタミナを失うことに直結する。

 最近10年、先行してオークスを制したのは2017年のソウルスターリングだけ。道中は2番手を進んだ同馬の1200m通過は推定「1分14秒5」だった。昨2020年、2番手のウインマリリンが2着したが、同馬の前半1200m通過は推定1分13秒3であり、さらにみんなのスパートが早いとみた横山典弘騎手は4コーナーで下げている。2018年、アーモンドアイの2着に粘り込んだリリーノーブルの前半1200mも推定1分13秒台中盤だった。

 オークスを逃げ切った馬は少ない。途中から先頭に立った2004年のダイワエルシエーロは1200m通過1分14秒7だった。マイペースに持ち込んだ1991年のイソノルーブルは1分14秒5の記録がある。

 先行タイプにとって、武豊騎手に主導権を委ねることになったことが痛い。武豊騎手は条件戦ならともかく、ビッグレースでのちにレースの評価が下がるようなスローの逃げは打たない。しかるべきペースをつくる。バランス抜群の前後半「1分12秒5-1分12秒0」の流れにした結果、自身のクールキャットが14着まで沈んだのは誤算で、現時点では思われたほど総合力がなかったが、クールキャットから離れずレースを展開した馬は、人気馬も伏兵もことごとく失速した。

 道中、最後方にいた藤懸貴志騎手のハギノピリナ(父キズナ)が、あわやの3着。同じように最後方近くにいたタガノパッション(父キングカメハメハ)が4着。ハギノピリナと前後して最後方にいた17番人気のミヤビハイディ(父エピファネイア)が猛然と伸びて6着だった。ハギノピリナは4コーナー手前から再三ムチが入っていたが、それでも伸びたからスタミナ十分。4代母ダイナサベージ(父ノーザンテースト)は、凱旋門賞馬Vaguely Nobleヴェイグリーノーブル(その父は輸入種牡馬ヴィエナ)といとこになる。

 M.デムーロ騎手のユーバーレーベンは、少しも慌てることなく前半は後方5-6番手。決して自分たちのリズムを崩さなかった。C.ルメール騎手のアカイトリノムスメ(父ディープインパクト)は、人気のソダシを前に置いて進んだが、さすがルメール。全体の流れを察知して2017年のソウルスターリングのように早めに動くことはなかった。

 やさしい気性のユーバーレーベンは、ストレスがかからないよう桜花賞挑戦を避けた日程が、オークス制覇につながった。前走の馬体重は2歳時のアルテミスSより30キロ減だったが、前日に東京へ輸送した細心の出走態勢で馬体はちゃんと回復していた。

 人気のソダシは、ちょっときつい流れを察知した吉田隼人騎手が、行きたがるのを少しでも下げようとしたが、気のいい先行タイプ。結果的にきつい流れに乗ってしまった。2400m向きのスタミナを欠いたのは事実だが、先行勢で寸前まで残ったのはククナ(父キングカメハメハ)とこの馬だけ。0秒6差の8着では完敗だが、「やっぱりクロフネ産駒だから2400m級は合わない」という敗因だけではないように思えた。まだまだこれから未来は広がる。

 秋にはもっとスケールアップしてくれるはずだ。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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