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「覚悟」をもってBTCに入講した30代の研修生

  • 2021年06月16日(水) 18時00分

2人とも研修メニューを順調にこなせている


 去る4月19日にBTC育成調教技術者養成研修第39期生が入講式を迎え、25名が入所した。それ以来、一度も研修所を訪れていなかったので、そろそろこのあたりで研修の様子が見たくなり、昨日(6月15日)、久々にお邪魔した。

 女性6名を含む総勢25名というのは、この研修制度開始以来最多人数である。のみならず、今期より年齢制限が撤廃されたことから、30代の研修生が入講したことを開講式の日に知った。多くは18歳で高校卒業後、馬の世界を目指してここに入ってくる若者たちだが、そんな中にあって、30代というと、やはり異色の存在という印象が先に立つ。果たして彼らは、今、どうしているのか。若い世代に交じって日々、訓練を続けているのだろうとは思うが、体力的に20歳前の若者たちに伍して行けているだろうか。そんなことがずっと気になっていた。

 彼ら、と書いたのは、他でもない。今期は30代が2人いるからだ。1人は、西潟行博さん(39歳)。元小学校教諭。そして、もう1人は松尾恵理香さん(34歳)である。

 この日の研修は、午前に2鞍の騎乗訓練、午後は座学ということになっていた。伺ったのは午前10時半。2鞍目が始まった直後のことだ。

 研修所内の角馬場に行くと、全員が「こんにちは」とあいさつしてくれた。開講式から約2か月が経とうとしているが、今のところ、1人も欠けることなく全員が研修に出席できている、という。25名を騎乗組と地上待機組に半数ずつ分けての訓練である。13騎が一列になり、教官が3〜4人、騎乗して列の中に入る。この日は、横木通過のメニューが新たに加わった。

 常歩、軽速歩、そして、駈歩まで進んでいるが、あくまでまだ基礎段階なので、駈歩の速度は遅い。繰り返しこれらの騎乗動作を反復する。絶えず、教官の指示が飛ぶ。研修生自身も自分の姿勢を絶えず意識しながらの騎乗である。

 西潟さんもそんな中に交じって、騎乗訓練に励んでいた。同じ組に松尾さんの姿もあった。他の研修生と比較しても違和感は全くない。あくまで皆と同じように、馬上で必死に手綱を握る。だが、表情はどちらかというと淡々としており、それほど辛そうには見えない。

 松尾さんもまた、落ち着いた表情で騎乗している。今の時点では、2人とも、研修メニューを順調にこなせている印象である。

生産地便り

▲▼2人とも順調に研修メニューをこなせている様子だ


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 騎乗訓練を終えて2人に少しお話を伺った。訓練はいかがですか?という私のベタな質問に、西潟さんは「体のあちこちが痛いのですが、それでも何とかやれています。私のような年配者でも、この世界に転職してどうにかやれているというところをアピールできれば良いと思っています」と力強く答えてくれた。

 松尾さんは「私の場合はほんの少し乗馬クラブで乗っていた経験があったのですが、ここに来てからはそんな経験も全く関係なくて、初心者そのものです。馬装や厩舎作業なんかもここで一から学んでいるところです」と語った。

 2人とも社会人として働いて来た経験がある。その意味では、他の若い研修生とは事情がやや異なり、言うならば、馬の世界で生きて行こう、という「覚悟」ができているのであろう。

 西潟さんは「たぶん、都市部で普通に働いている20代後半とか30代の人々の中にも、できることなら馬の仕事をしてみたいと夢見ている人が大勢いそうな気がします。そういう人々に、私たちの経験を少しでも参考にして頂けたら嬉しいですね」と言う。

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研修に対する想いを語ってくれた▲西潟行博さんと▼松尾恵理香さん


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 育成の現場で、1歳馬の初期馴致から携わり、競走馬として育てて行く仕事は容易ではないと思うが、馬に関わる仕事は多岐にわたる。騎乗のプロとして働けるようになるのが目標であっても、実は牧場にはそれ以外の仕事が山ほどある。

 何とかこのまま無事に研修を修了し、2人には、この世界で自身に最も合った形の仕事を見つけて、生きて行って欲しいと思う。もちろん騎乗のプロとして働けるようになるのならばそれがベストだ。

 教官たちも2人には温かい目を向ける。「どちらも常識ある“大人”ですから、他の研修生ともよく馴染んでくれていますし、みんなのまとめ役のような立場でもあります。もちろん年齢がだいぶ上ではありますが、区別せずに他の研修生と同じ扱いを心掛けております」とのこと。

 もう少しで、角馬場から周回コースに出ることになる。800m馬場での騎乗訓練に移行するのである。予定では今月末あたりから、という。また近いうちに研修所を訪れてみようと思う。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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