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【ラジオNIKKEI賞】予測された以上のスローに近い展開が大きく明暗を分ける

  • 2021年07月05日(月) 18時00分

短い直線向きの切れ味を秘めるのは、ファミリーの特徴


重賞レース回顧

重賞初制覇したヴァイスメテオール(c)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 朝から小雨が続き、馬場が悪化するほどではなかったが、開幕週にしてはちょっと時計を要する馬場コンディション。近年では珍しくないが、予測された以上のスローに近い展開が大きく明暗を分ける結果となった。

 レース全体のバランスは「前半48秒1-(1000m通過60秒7)-後半47秒3」=1分48秒0(稍重)。最近10回の中では、不良馬場で行われた2019年に次ぐ遅い勝ちタイムになった。レースの上がり3ハロンは「11秒8-11秒6-11秒8」=35秒2なので、典型的な先行馬向きのペースだったことが分かる。

 2番枠から差し切ったヴァイスメテオール(父キングカメハメハ)には、少しタイムのかかる芝が味方したのは確かだが、前半から置かれることなく中団につけ、絶妙なスパートのタイミング。4コーナーでは少し外に出すなど、丸山元気騎手の満点の騎乗が大きかった。2018年の福島記念、2019年の小倉大賞典などを制しているので、仕掛けどころが微妙な小回りコースの中距離戦には自信があるのだろう。

 2走前、豪雨の不良馬場の中山2000mでは前半は最後方に控えながら、直線、猛然と伸びて3馬身差の圧勝だったヴァイスメテオールは、短い直線のコースの方がかえって良さが生きるのかもしれない。母シャトーブランシュ(父キングヘイロー)は2015年、阪神内回り2000mのマーメイドSを一旦後方に下げ、直線一気に伸びて上がり最速の33秒6。抜け出したマリアライトを差し切って勝っている。

 祖母ブランシェリーも福島1800mで勝った記録がある。差しタイプではあるが、ヴァイスメテオールが短い直線向きの切れ味を秘めるのは、ファミリーの特徴ともいえる。8月のダートのレパードS(新潟)や、この3歳限定の芝1800mのローカル重賞は、キャリアの浅い3歳馬にとって貴重な出世レース。「いい秋を迎えられる競馬ができたと思います(木村調教師)」。この圧勝を機に大きく成長してくれるだろう。

 2着したワールドリバイバル(父エピファネイア)は、前2戦で失速しているのでちょっと狙いにくかったが、こういうコースの1800m前後がベストということか。テン乗りだったが、津村明秀騎手もこのコースは得意。岩田康誠騎手のノースブリッジ(父モーリス)、さらにはタイソウ(父モーリス)が行く構えを見せると、ここ数戦と違ってスムーズに好位のインで折り合った。逃げ=先行タイプとすると最後まで最高のコース取りで、ヴァイスメテオールには離されたが、先行2頭をしぶとく競り落とした。

 成功しているエピファネイア産駒の特徴そのままにサンデーサイレンスの「4×3」。ましてこの馬、アメリカ産馬となった3代母はディープインパクトの半姉ではあるが、平坦に近いコース歓迎のファミリーに変化していたのだった。

 注文通りにハナを切ったノースブリッジは懸命に粘ったが、前半1000m通過60秒7のスローにも近いペースだったわりに粘り腰もう一歩。これから力をつけていきたい。総じてだが、若いモーリス産駒はスローペースを好まない一面がある。

 同じようにスローで先行した4着タイソウは、510キロ台の大型馬で大跳びのストライド。コーナーもあまりスムーズとはいえず、好走したプリンシパルS2000mが示すようにのびのび走れる広いコース向きで、福島向きではないように映った。

 まったく流れに乗れなかった1番人気のボーデン(父ハービンジャー)は6着止まり。出負けが大きく響いて、直線は外に回る不利なレースだったとはいえ、勝ったヴァイスメテオールの上がり34秒8に対して、こちらは35秒5。スパートした勝負どころから4コーナーでは勝ち馬の近くまで追い上げてきたが、楽勝だった勝ち馬との差は逆に広がってしまった。東京1800mを馬なりのまま1分45秒2で独走した素質馬だが、まだキャリア3戦の1勝馬。その弱みに加え、今回は馬体こそ良く見えたものの、なんとなく本来の動きではないように映った。

 2番人気のリッケンバッカー(父ロードカナロア)は、中団の外で4コーナーまで勝ち馬と同じような位置を進んだが、スパートのタイミングが難しい福島コースに対応できなかった。NHKマイルCの好内容から、小回りの1800mくらい平気なはずだが、ちょっと寸の詰まったマイラー体型。祖母の父はサドラーズウェルズでも、母の父City Zipシティジップはスプリンターに近く、その産駒も短距離タイプが多い。リッケンバッカーは1600m【1-3-0-3】でもあり、あまり距離は延びない方がいいと思えた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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