スマートフォン版へ

13度の重賞挑戦を経て良血馬の才能が開花

  • 2021年07月12日(月) 18時00分

馬場状態も味方につけた快勝劇


重賞レース回顧

念願の重賞タイトルを掴んだトーラスジェミニ(c)netkeiba.com、撮影:小金井邦祥


 波乱必至の伝統のハンデ戦は、当日に再三降雨があり、芝状態がきわめて微妙だった。午後になって7レースの芝1800m16頭立て(1勝クラス)を勝ったのは、最内を通って突っ込んだ2番のクリーンスイープ(戸崎騎手)。9レースの織姫賞1800mを制したのも、最内を追走していた1番のエイシンチラー(M.デムーロ騎手)だった。

 この日、3場ともに内をついた馬が快走していたが、七夕賞のM.デムーロ騎手は2番のロザムール(父ローズキングダム)に騎乗し、同じようにイン有利を実感している戸崎騎手は内枠4番のトーラスジェミニ(父キングズベスト)。ともに先行馬なので、外に出す必要はまったくなく、経済コースを通った「先行=逃げ」馬のワン・ツーが決まった。

 トーラスジェミニは、やや単調な先行一手型だったが、安田記念を粘りに粘って一旦はあわやのシーンを作った地力強化は本物だった。仕上がりも文句なしだった。

 父キングズベスト(その父Kingmambo)は輸入されてからはまったくの不振で、代表産駒のエイシンフラッシュ(2010年の日本ダービー馬)、2011年のダイヤモンドSを勝ったコスモメドウは、持ち込み馬と外国産馬だった。キングズベストは体調を崩して2019年に病死した不運な馬だったが、名血の種牡馬らしく、日本にきての重賞勝ち馬をようやく送ってみせた。勝ったトーラスジェミニは、13回目の重賞挑戦での初制覇だった。

 トーラスジェミニは、父がキングズベスト(先ごろ亡くなったGalileoガリレオとSea The Starsシーザスターズの母となった凱旋門賞馬Urban Seaアーバンシーの、4分の3同血の弟)というだけでなく、4代母に名牝Cosmahコスマーが登場する世界の良血馬。

 デビューした2018年の福島で9、10着と凡走して評価を落とし、骨折のため途中で1年間も休養したため、七夕賞で8勝目を記録したのにまだ一度も1番人気になったことがない不思議な重賞勝ち馬となった。高額の良血馬はめったに管理しない美浦の小桧山厩舎の所属馬であるのも人気にならない一因か。

 確かに小桧山師はいわゆるトップトレーナーではない。先週10日の函館の2歳未勝利戦で、小桧山厩舎のトーセンヴァンノにいきなり武豊騎手が騎乗していたのを不思議だと感じたファンもいたらしい。これは、小桧山調教師と武豊騎手は、もう30年も前から互いを認め合い、そろって遠征に出かけ、互いの生き方を尊敬しあう非常に親しい関係であることが、あまり知られていないからだった。若いころの武豊騎手は、関東に遠征すると再三小桧山厩舎の馬に騎乗している。

 レース展開は、それほど楽なペースにはならないと思えたが、逃げてしぶとくクビ差の2着に粘ったロザムールは、勝ち馬にプレッシャーはかけられたものの、前半1000m通過60秒8は決して苦しいペースではなかった。好位で流れに乗ったマウントゴールド(父ステイゴールド)、ショウナンバルディ(父キングズベスト)、カウディーリョ(父キングカメハメハ)などはみんな上位に粘り込んでいる。

 人気のクレッシェンドラヴ(父ステイゴールド)は、こういうパワーの必要な馬場は、昨年は重馬場で快勝しているくらいなので有利と思えたが、前半から動きが重く、昨年のように馬群の中に突っ込んでいく闘志を失っていた。滑るようなコンディションの芝に58キロは辛かった。外に回ったのはもう仕方なくだろう。

 期待したワンダープチュック(父ハーツクライ)は、痛恨の出負け。流れに乗ることができず、直線は内に突っ込んで伸びかかったが、前が詰まってしまった。

 ヴァンケドミンゴ(父ルーラーシップ)は、渋った馬場でも明らかに内有利の芝コンディションのため、外枠のロスが大きかった。

 これで最近10年、1番人気馬、2番人気馬、3番人気馬はそろって「3連対」止まり。馬券に関係した全30頭のうち、半分以上の16頭を上位5番人気に入らない伏兵が占めたことになった。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング