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「前を向いて諦めずに…」映画に出演し感じたこと

  • 2021年11月01日(月) 12時00分
ビッグレースが続く華やかな秋競馬シーズン、今年も様々なドラマが誕生しています。今回のコラムでは常石さんがある映画に出演したときのエピソードを紹介。自身も闘う“高次脳機能障害”がテーマの作品だそうです。


 秋風が心地よく感じるようになり、GIが続く秋競馬の季節がやってきました。スプリンターズステークスから始まり秋華賞に菊花賞、天皇賞と目が離せません。

 秋華賞は白い桜の女王、アカイトリノムスメ、黒く輝く樫の女王と“白・赤・黒”の対決となり面白いレースでした。真っ白い馬体のソダシは、私が現役の時に所属していた中尾正厩舎で手腕を発揮していた今浪隆利厩務員が手掛けています。須貝厩舎でゴールドシップという素晴らしい馬を送り出した敏腕厩務員です。とても優しく、そして丁寧に馬と向き合いながら話していた姿が印象に残っています。

 期待された秋華賞は残念でしたが、帰厩してから、きっと色々なことをソダシと話しているのだろうなと思います。その様子を覗いてみたいですね。歯茎を痛めたようですが、また“つよかわいい”姿を見せてくれる日を楽しみにしています。

 菊花賞ではレッドジェネシスが1番人気でしたが、タイトルホルダーが先行しそのまま逃げ切り5馬身先着の快勝。おめでとうございます。3000mという長距離を逃げ切るのはすごい業です。鞍上の横山武史騎手は、エフフォーリアで皐月賞を勝利しクラシック2冠を制覇、ますます期待される騎手に成長するでしょう。典さん(横山典弘騎手)が先輩騎手として、そして父として、目を細めて「よくやったな」と息子を褒める光景が目に浮かびます。

 そして24日の新潟4Rでキーパンチとともに勝利し、JRA障害通算255勝に到達した“競馬界の二刀流”熊沢重文騎手。武豊騎手・横山典弘騎手・柴田善臣騎手に続く昭和・平成・令和の3元号でのJRA重賞Vという記録を達成しました。何が起こるかわからずドラマがあるから競馬は面白いですね。

映画『いのち 見つめて』〜高次脳機能障害と現代社会〜に出演


 さて、私にもドラマがありました。

 映画『いのち 見つめて』〜高次脳機能障害と現代社会〜と題したドキュメンタリー映画を撮っていただきました。JR宝塚線(福知山線)脱線事故、三井三池三川炭鉱炭じん爆発事故によって多くの家族や労働者の人たちが経験したさまざまな苦悩や、希望をもつ様子などが収録されています。連絡を受けた時は、まさか本当に映画に出ることになるとは思わず驚きました。

 映画監督の港健二郎さんとナビゲーター兼音楽担当の岡本美沙さんに、騎手デビューからの話をしました。振り返ってみると騎手時代に貴重な体験をした記憶が甦ります。また明石乗馬協会で乗馬の様子も撮影。いつものレッスンと違い少し緊張しましたが、しっかりと乗りました。担当トレーナーの三木薫先生にも質問をされていました。

日々是好日

▲港健二郎さん・岡本美沙さんと一緒に


 私は2004年に落馬し、懸命にリハビリをして復帰を目指すも高次脳機能障害が残りました。大きな馬を御することは難しいとドクターストップがかかり、2007年に引退。この障がいは衝撃を受けた箇所によって症状が異なり、記憶・視野欠損、遂行機能障害、左半側空間無視、麻痺など人それぞれです。乗馬するにはかなりの支障がありますが、外見では判断しにくいのでなかなか理解してもらえません。

 その後はフルマラソンに挑戦したり、トレーニングセンターで取材活動などを行いながらコラムを書いたりしています。多くの厩舎を訪問する中で名馬との出会いも…やはり一番元気が出るのは馬と会うことです。

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 そして10月2日(土)、『いのち見つめて』講演会・映画会に参加しました。

 この会には、家族連れの同級生や母のカメラの先生、母校の教師、叔母などを含む300人ほどが参加。私は聖火ランナーのトレーニングシャツを着て、トーチを持っていきました。講演では石坂好樹さん(精神科医・児童青年精神医学)、大岡由佳さん(社会福祉士・精神保健福祉士・武庫川女子大学)、山口研一郎さん(やまぐちクリニック院長・脳神経外科医)が登壇。講演を聞き、障がいの多さやそれらと向き合い取り組んでいることについて知り、共有できたことが嬉しかったです。

日々是好日

▲中学時代の同級生や母校の教師と


日々是好日

▲トーチを持って参加しました!


 高次脳機能障害専門の山口先生とは2017年に知り合い、先生の診察で私の身体障害者手帳も見直されて等級が4級から2級になりました。脳損傷について詳しく丁寧に調べ、高次脳機能障害の症状がないかを検査、判断してくれます。また院内では歌やリズム遊びなどいろいろな形でリハビリ訓練にも取り組まれています。高次脳機能障害についての本も出版され、私のことも取り上げてくれました。福永祐一騎手のお父様の福永洋一元騎手や北川和典元騎手も診察されています。

 そんな山口先生と出会い、このドキュメンタリ―映画が完成しました。この作品を通して感じたことは、障がいは私自身の個性だということ。他人に迷惑をかけたり少し辛いことがあったりもしますが、上手く付き合いながら前を向いて諦めずにチャレンジしていきたいです。高次脳機能障害は診察の判断を間違えると正しいリハビリができません。高齢化社会が進む今こそ、この障がいについて知ってほしいと思います。

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オカン この映画に関わる中で、自分の意見をはっきりと伝えたり、記憶を紐解きながら話す姿に成長を感じました。一番驚いたのは、勝義が通う聴覚障がい者施設『びわこみみの里』のクッキーやバームクーヘンを声をあげて販売したり、競馬用のゼッケンを再利用してカバンを作っていることなどをアピールしていたこと。大事に思う施設なので、きちんと紹介できたことは素晴らしいと思いました。『びわこみみの里』へ毎日行けることがとても嬉しいのでしょう。

 11月4日から、滋賀銀行・栗東トレセン前支店で、『びわこみみの里』で作っているグッズや聴導犬の訓練の様子などの紹介があります。私たちの周りは、お風呂が沸く音や洗濯機が終了する音、目覚ましの音など音の出るもので溢れていますよね。聴導犬のことはあまり知られていませんが、そういった音を察知し犬が教えてくれるように訓練をしています。ぜひ窓口の前まで足を延ばして見てみてください。

常ちゃんこと常石勝義&オカン

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■映画『いのち 見つめて』〜高次脳機能障害と現代社会〜
12月11日(土) 10:00〜・14:00〜
会場:高槻現代劇場・展示室(大阪府高槻市)
12月18日(土) 10:00〜・14:00〜
会場:国際障害者交流センター ビッグ・アイ (大阪府堺市)
・ほか、九州で上映予定
・上映時間は約70分、鑑賞料金は1000円

※次回の更新は12/1(水)12時を予定しています。

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1977年8月2日生まれ、大阪府出身。96年3月にJRAで騎手デビュー。「花の12期生」福永祐一、和田竜二らが同期。同月10日タニノレセプションで初勝利を挙げ、デビュー5か月で12勝をマーク。しかし同年8月の落馬事故で意識不明に。その後奇跡的な回復で復帰し、03年には中山GJでGI制覇(ビッグテースト)。 04年8月28日の豊国JS(小倉)で再び落馬。復帰を目指してリハビリを行っていたが、07年2月28日付で引退。現在は栗東トレセンを中心に取材活動を行っている。

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