▲香港Cがラストランとなるラヴズオンリーユー (C)netkeiba.com
今年の香港国際競走には総勢12頭の日本馬が出走予定。今回はノーザンファームしがらきが管理をサポートする有力馬の中からピクシーナイト・レイパパレ・ラヴズオンリーユー3頭の状態について、松本康宏場長にうかがいました。
(取材・文=netkeiba編集部)
福永祐一騎手も絶賛! ピクシーナイトの将来性
──まずはピクシーナイトから、香港到着後の状態はどうですか?
松本康宏場長(以下、松本) 担当さんの話によると特に日本にいるときと変わらず、初めて遠征した割にはどっしりと構えているというか。馬体を見てもスプリントっていう感じはせず、本当に大人しくて落ち着いている馬ですね。
──3歳とは思えない雄大な馬体です。
松本 フレーム自体が大きい馬なので、いわゆるスプリントというような、トモや肩周りの筋肉がそんなに目立たないというか。大きい分スラっとした印象で当初は距離がもつ馬なのかなと思っていたんですけど、走らせてみたらとても高いスプリント能力があったという感じです。
──福永祐一騎手が絶賛していますが、将来性について聞かせてください。
松本 福永騎手も気に入ってくれていて、デビュー当初からすごく走るとは聞いていました。しがらきの方で乗っている子たちの評判も良かったです。
ただ馬体に迫力はあるんですが、立ち馬や厩舎で歩かせてみる分には、そこまで目立っては…もっと成長してほしいというところがあった段階での今回の制覇なので、もしかしたらとてつもない馬なのかなという感じは受けてます。
──海外遠征を決めた経緯は?
松本 スプリンターズSのパフォーマンスを見て香港のスプリントに行きたいという部分と、香港だけではなく他の外国でも価値のあるスプリントレースを狙えるのではないか、と感じていることもあり、まだ3歳ですが、遠征を経験させることでさらにポテンシャルを引き出せたらなという意味合いもあります。
▲今年のスプリンターズSを制したピクシーナイト (撮影:橋本健)
──この先がとても楽しみですね。
松本 ノーザンファームの生産馬で最近すごいと言われているGI馬は、海外遠征をこなすことで精神的にも肉体的にも成長していってさらなる活躍を見せる馬が増えています。先週のチュウワウィザードも遠征時にドバイでしっかり結果を出せていましたし、日本でも活躍しています。
リスグラシューが初めて香港遠征へ行った時は3日間カイバを食べなくて…精神的に弱い牝馬は連れてきてはダメなのかなと思っていましたけど、何回か遠征を繰り返すうちにどこへ行っても大丈夫な馬に成長しましたし、パフォーマンスもアップしていきました。“可愛い子には旅をさせよ”ではないですけど、色々と経験させた中でさらに上の領域にもっていきたいという意識はあります。
──最後にレースへ向けての意気込みをお願いします。
松本 スプリンターズSのパフォーマンスを考えればここは勝ち負けできるのではないかと。ただ香港もスプリントが強い馬が多く、レシステンシアなども状態が良さそうなので、なんとかその中でいい結果を出せたらなと思います。
レイパパレはスミヨン騎手が調教予定
──続いてレイパパレです、香港到着後の状態から教えてください。
松本 到着した時は少し落ち着きがなくて、ちょっとイレ込んだ感じのところもありました。リスグラシューの時ほどではないですが、カイバも少し食べる量が減ってしまいまして…そういった感じですかね。
──普段の遠征と異なる点は?
松本 もともとレイパパレ自体、日本でも遠征する際は全くカイバを食べなくなるみたいなんですよ。今回、調教過程とか輸送を考えると、おそらく「すぐ競馬がくる」というような認識があるんじゃないかなと思いまして。今はとりあえず「まだ競馬じゃないよ」っていうところで調整しながら、馬に理解してもらうような感じです。
少しずつカイバを食べる量も増えていますし、感じはよくなってきているかなと思います。
──ここ2走はハナを切れずに敗戦。香港カップの位置取りの希望は?
松本 枠が決まり次第だとは思うんですが、基本的には世界のトップジョッキーである(クリストフ・)スミヨン騎手にお任せしようかなと思ってます。彼は昔から日本でも短期免許で騎乗してますし、世界中で騎乗してる中で、一緒に仕事する時でもやっぱりかなり研究熱心で。
その馬に対しての研究や、周りの馬の研究をしっかりした中で作戦を決めて、結果も出してくれる騎手なので、特に指示を出すっていうことはないと思います。
▲エリザベス女王杯では6着だったレイパパレ (C)netkeiba.com
──スミヨン騎手は調教に乗る予定ですか?
松本 どういった形で可能なのかというところで、香港ジョッキークラブとも協議しています。スミヨン騎手も木曜日に到着するので、乗るとしても金曜日に馬場で17-15ぐらいの調教になると思うんですけど、そういったところで感触は確かめてもらいたいなと思ってます。
──それではレースへ向けての意気込みをお願いします。
松本 今回の香港カップはチャンピオンSで2、3着の馬がきてますし、例年に比べるとかなりレベルが高いのかなと思っています。その中でレイパパレ自身、どういった競馬ができるのかというのは非常に楽しみです。
まだ来年1年は現役が残ってますし、今回の遠征によって、さらに日本でどんな成長をしてもらえるかっていうところも楽しみなので、見ていただけたらなと思います。
“女王様タイプ”なラヴズオンリーユー
──ありがとうございます。では最後にラヴズオンリーユーについてですが、今回は米国から香港への輸送となりました。
松本 騎乗者の話によると、到着した当初は腰やトモの方に少し疲れがあるような感じがあるそうでして。香港ジョッキークラブの許可が下りず、私が治療することは出来なかったので、日本から持ってきている器具をお貸しして厩務員さんに治療してもらったところ、日に日によくなってきたと聞いています。
──馬体重などの変化は?
松本 馬体重計がないためアメリカではほとんど計っていなかったらしいのですが、12月2日時点で486kgですね。香港の春の遠征時が478kgなので、その時よりは多少増えてるような状態です。
ただ、見た目は特に細い感じも太い感じもなく、ちょうどいいかなとは感じています。
──今回は引退レースとなります。思い出に残っているレースはありますか?
松本 オークスの強い勝ち方も印象には残っているんですが、その後あまり結果が出ない時期がありまして。一般の声では「もう終わったかな」っていうような感じもあったんですけど、厩舎は京都記念の頃からよくなってるとは言っていました。
ドバイ遠征へ一緒に帯同した時に、非常に状態がよく「本当にこの馬よくなってきたな」と思ったので、この状態でどれくらい競馬ができるのかすごく楽しみで見てまして。実際あの年、クロノジェネシスとほとんど差のない競馬ができていたので「とうとう本物になってきたんだな」と感じたのは印象深いところですかね。
──ラヴズオンリーユーはどんな性格ですか?
松本 ツンデレのデレはなくて、ツンとしてる馬で。痛めているところを触ろうとすると、とてつもない速い蹴りが飛んでくるので、うちのスタッフとかに「ちょっと触ってください」って言われると、正直触るの嫌ですね(苦笑)。
ただ、年々それはましになってきてます。今回香港でも機会があって触らせてもらった時も非常に落ち着いてましたし、以前ほどの速い蹴りはもうないのかなと思ってます。
──女王様タイプですね。
松本 そうですね。一時期トモを痛めて確認するために触った時とかは、ちょっと半端なくて…今でもやっぱり要注意馬です。体温測ったり何かしら馬房内でする時は、突然蹴り出すようなところはあります。
そういったところが最後のすごい脚にもつながっているのかな、という部分もありますけど。レシステンシアはおっとりしていて大人しくて可愛いので、どちらかというとそちらの方が触ってたいですね。
──今回のレースで引退となります。
松本 前のリスグラシューの時もそうですけど、充実期に入っているのでかなりいい状態で走れるんじゃないかなとは思ってます。
この馬のパフォーマンスはブリーダーズCで見ていただいたとおり、世界の超一流と勝ち負けできる能力を持っているので、結果を非常に楽しみにしています。
(文中敬称略)