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沖縄から静内農高へ、その1

  • 2022年02月23日(水) 18時00分

千乃さんが馬の道を目指すようになった転機は『ジョッキーベイビーズ』


 北海道の東海上で台風並みに発達した爆弾低気圧により、21日(月)〜22日(火)は数年に一度あるかどうかという大荒れの空模様になった。大雪に加え、風速30m(えりも岬では40mを超えた)以上の猛烈な風にあおられ、北海道各地は吹き溜まりによる交通障害が相次いだ。交通事故や立ち往生も多発した。札幌駅を発着するJRの各列車は運休が相次ぎ、空の玄関である千歳空港も2日間にわたってほぼ全便が欠航となった。

 そんな折、はるばる沖縄から、中学校3年生の女子生徒が、4月の静内農業高校入学を控え、制服の採寸や発注、住居の下見などをするために新ひだか町静内を訪れた。名前は木部千乃(ゆきの)さんという。2月10日に、沖縄でリモートによる面接を経て、先ごろ合格通知を受け取ったことから、今回の北海道行きとなったのだ。

生産地便り

木部千乃さんとウイニングチケット


 母親の千晶さんが同行してきた。とはいっても、滅多にない悪天候が予想されたことから、本来の予定を一日繰り上げて、20日(日)の便に変更し、その日は札幌駅前にホテルを取ったという。母親の千晶さんの好判断であった。

 静内入りは21日午後のこと。JRは運休していたが、高速バスは予定通りに運行していることを確認し、札幌駅前から日高方面に出ている「ペガサス」号(道南バス)に乗車して、予定よりだいぶ遅れたものの何とか静内までたどり着いた。

 22日午前。静内農高まで送迎するべく、2人の投宿先のホテルまで迎えに行った。当初は「タクシーで往復するつもりです」とのことだったが、都市部と違い、街中を流しているタクシーを拾えるような土地ではないので、お節介ながら、送迎役を買って出たのである。

 静内農高は、ちょうど試験中とのことで、手すきの教諭が、女子寮に案内して下さった。

 寮は定員24名。建物はやや古めかしいが、学校の敷地内に建ち、農作業や馬術などの活動にはしごく便利である。もちろん通学にも時間を要しない。

 その後、2人は、民間の賄い付きアパートなども見て回り、春からの新生活に向けて、必要なものをチェックしながら、予定のスケジュールを消化した。沖縄に戻るのは、本日午後になる。幸いにも荒れに荒れた悪天候が徐々におさまってきており、千歳空港もようやく平常運転に戻りつつある。ギリギリのところでどうやら無事、沖縄に帰ることができそうだ。

 木部千乃さんは、静内農高の生産科学科に入学予定である。以前、当コラムでも触れたように、静内農高では、サラブレッドを繋養しており、出産から1歳のセリ上場までを授業の一環として実施している。全国でここだけの特徴ある教育内容で、馬術部の活動も盛んだ。

 昨年春からは北海道で唯一のマイスターハイスクール実践校として認可を受けており、馬を学ぶ環境が整っていることから、このところ志願者は増えてきている。とりわけ、北海道内のみならず、本州方面からの入学者も少なくない。仄聞するところでは、今春、生産科学科に入学予定の40名前後のうち、道外組は11名に達するという。いずれも、馬の道を目指して、この高校の門をたたいて入学してくる生徒たちのようだ。

 木部千乃さんもそんな一人である。ではなぜ、千乃さんが、競馬場も場外馬券売り場もない沖縄から馬の道を目指すようになったのか。そして、いつ、私との接点が生まれたのかについて、触れる必要があるだろう。

 前述したように千乃さんは15歳。生まれは群馬県だが、現在は母親の千晶さん、弟との3人で沖縄で暮らしている。公立学校教諭の父親は群馬県に単身赴任しているという。

 現在、千乃さんはうるま市にある沖縄アミークスインターナショナルスクールに在籍しており、馬とはこの学校で出会ったらしい。

 沖縄アミークスインターナショナルスクールは、幼稚園から小中までの一貫校で、2011年の創立時より、教育用として、ポニー10頭を繋養しているという。小学校4年生の時、千乃さんは、そこで乗馬を始め、中学生になってからは近くの乗馬クラブでサラブレッドにも騎乗するようになった、とのこと。そんな千乃さんにひとつの転機が訪れたのは、中1の秋、2019年10月。ジョッキーベイビーズの沖縄地区代表として、東京競馬場行きが実現することになったのだ。(続く)

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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