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【中山記念】自身の能力を存分に発揮したパンサラッサ

  • 2022年02月28日(月) 18時00分

まだまだ完成途上の馬体で、父を超える日も近いか


重賞レース回顧

2馬身半差で完勝したパンサラッサ(C)netkeiba.com、撮影:小金井邦祥


 先手を主張したパンサラッサ(父ロードカナロア)の先行は、途中でペースを緩めることなく前半1000m通過「57秒6」。1400m通過は「1分20秒7」。1600m通過は「1分32秒9」の猛ペースだった。当然、上がりは「37秒3-最後13秒5」となったが、2馬身半の着差以上の完勝だった。

 1400m1分20秒7。1600m1分32秒9の時計自体は、コースは別にして、今回の組み合わせの有力馬なら楽に乗り切れるタイムだが、最終的に乗り切らなければいけない距離はその先にある1800mのゴール。離れてしまうと対応が難しい。

 この戦法の相手に慣れていない馬が離れずに追走すると、大敗が待っている。また、パンサラッサのように一気に飛ばす馬相手は、後続は前を捕まえに出なければならないことは分かっていても、簡単にはこなせないレースの組み立てが求められる。

 この痛快で一方的な逃げ切りをみて、ちょっと古いファンは1993年の「七夕賞」を4馬身差で逃げ切り、「オールカマー」を5馬身差で逃げ切ったツインターボ(父ライラリッジ)を思い出したにちがいない。中舘騎手が乗って、果敢な逃げ戦法に絶大な人気があった。ツインターボの七夕賞2000mの逃げ切りは「57秒4-62秒1」=1分59秒5。前後半の差が4秒7もあった。

 パンサラッサは最初のうちはそういう逃げ馬ではなく、1勝クラス2000mの逃げ切りは平均ペースで自身の上がりは35秒8。昨秋のオクトーバーS2000mの逃げ切りも「59秒3-60秒7」=2分00秒0(上がり35秒9)だった。

 ところが、同型馬(コントラチェック)のいた11月の福島記念2000mになって、コース形態と気性を考えた菱田裕二騎手が強気に飛ばす作戦に出ると「57秒4-62秒1」=1分59秒2(上がり37秒6)。1800m通過は1分46秒1だった。当然、最後は苦しかったが、最高タイムを更新し4馬身差の独走。初重賞制覇だった。飛ばして相手の出方を難しくし、自身は最大の能力を発揮するツインターボ型の戦法をこのとき取得した。

 有馬記念では、強引に飛ばしては乗り切れない2500mの距離と、相手関係もあって13着に失速したが(ツインターボの有馬記念も14着と13着)、今回の中山記念のパンサラッサは、鞍上は再び吉田豊騎手にチェンジしても福島記念の再現だった。

 同じような逃げを身上としたツインターボのJRAの5勝は「中山3勝、福島2勝」であり、パンサラッサの重賞2勝も「福島と中山」。この「果敢なペースで飛ばす」戦法は、コーナー4回の2000m前後の中距離での必殺の逃げ作戦とされる。直線の長いコースでは決まりにくい。

 距離短縮が正解に出ていた1番人気のダノンザキッド(父ジャスタウェイ)は、ハク離骨折で15着と失速した皐月賞で「中山にいやな記憶があるのか、走る気をみせてくれなかった(川田騎手)」という敗因もあるだろうが、レース前から気負い気味で出負けしてしまったのが誤算。このペースだから縦長になった展開の中、向こう正面で少し順位を上げながら、本気でスパート態勢に入ったのはこの馬が一番早かった。1番人気だから仕方がない。

 この流れで、途中で脚を使わされては苦しい。追い上げて一応の見せ場は作ったものの最後は鈍って上がり37秒2。飛ばしたパンサラッサが37秒3だった。

 迫力あふれる馬体だが、まだまだ完成の途上なのだろう。父ジャスタウェイがこの中山記念を圧勝したのは、本物になった5歳の春だった。

 2着に押し上げたカラテ(父トゥザグローリー)は、ダノンザキッドが動いたあと追撃態勢に入ったが、例によってエンジンのかかりが遅い馬。反応が遅かったぶん、逆に最後まで脚が残っていた。これまでダートを含め1800m以上【1-0-0-15】。マイル戦の厳しい流れで突っ込んでくるケースが大半だったが、先行タイプと、早めに動いた馬が苦しくなった流れは厳しいマイル戦に似たバランスとなっていた。

 タフなステイゴールドの一族であり、祖母の父パラダイスクリークも無類にタフで丈夫な活躍馬を送ることで知られた種牡馬。6歳春、まさに本物になったところだった。

 3着アドマイヤハダル(父ロードカナロア)は、一旦2番手に上がったが、ダノンザキッドと同じで早めにスパートしなければならない立場(3番人気)が結果的に苦しかった。

 同じロードカナロア産駒のパンサラッサに完敗だが、身体つきも動きも一段とシャープになっている。まだ4歳、こちらは切れ味勝負の中距離型として成長するはずだ。

 後方から突っ込んで4着のガロアクリーク(父キンシャサノキセキ)は、休み明けながら素晴らしい体になっていた。もともと使いながら良くなるタイプ。5歳とはいえ今回がまだ11戦目。順調さを取り戻し、これから軌道に乗ってくれるだろう。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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