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【大阪杯】鮮やかに差し切ったレースは見事のひと言

  • 2022年04月04日(月) 18時00分

今週からのクラシックに当てはまりそうな教訓があるかもしれない


重賞レース回顧

初のGI制覇を果たしたポタジェ(c)netkeiba.com


 3連単が278万円台だった高松宮記念に続き、大阪杯も「8、3、7」番人気の組み合わせで3連単53万円台。2月のフェブラリーSから、1番人気馬は「6、6、9」着。波乱のGIが連続している。今週以降に連鎖しないとは限らない。今週からのクラシックに当てはまりそうな教訓があるかもしれない。

 ここまで【6-1-0-0】のエース4歳エフフォーリア(父エピファネイア)は、ほとんど見せ場のない9着に沈んでしまった。もちろんこれが実力などということはありえず、敗因は複雑だが、最大の敗因は関西への初遠征を考慮し、万全を期したはずの金曜日の事前輸送が裏目に出たことか。まだ余裕残りと思えた水曜の追い切り後発表の馬体重は521キロ。輸送で絞れるはずが、平気で輸送をこなしたうえ、金曜、土曜と十分には乗れなかったためか、当日の馬体重は変わらずの522キロ。 

 大型馬に前走比プラス6キロくらいなんでもないはずだが、パドックに登場した瞬間、明らかに立派すぎる馬体に「えっ! 」という声が漏れたのは事実である。2戦目からずっと「当日輸送→当日レース」の形が続いたエフフォーリアは、金曜はともかく、土曜もレースの行われている阪神にいながら、出番はない。賢いエフフォーリアは今回の輸送はレースのためではない、と考えてしまったのではないか。

 たしかに素晴らしい馬体だったが、レース当日のみなぎる気迫と、秘めた闘志は乏しいように映った。3コーナー過ぎから鞍上の手が動くようなチャンピオンではないはずである。初の遠征には、思いがけない死角が隠されていた。

 2番人気のジャックドール(父モーリス)は、目下5連勝中の上がり馬らしい気迫があった。少し気負うくらいの仕草は不安ではなかった。ただ、ジャックドールの逃げ(先行)は決して前半が速くないことが知られてしまっていた。

 スタート直後から、アフリカンゴールド(父ステイゴールド)、好スタートのレイパパレ(父ディープインパクト)、ウインマリリン(父スクリーンヒーロー)が離れずに追走してきた。最初の3ハロン34秒6(12秒3-10秒3-12秒0)はGIになった2017年以降、断然の最速であり、前半3ハロンが34秒台だったことなど一度もない。 

 ましてコーナーのある2ハロン目に「10秒台」のラップが記録されたのも初めてのこと。そのため、GIになって初めて前半1000m通過59秒を切る「58秒8」となった。前半にムリをしないジャックドールが、前半1000mを58秒台で行かざるをえない展開になったのは初めてのことだった。

 それでも4コーナーを回って後続を突き放そうとし、最後は鈍ったとはいえ勝ったポタジェ(父ディープインパクト)から、0秒5差の5着。初めて厳しい洗礼を受けた逃げ馬とすると、評価の下がる内容ではない。落鉄もあったという。先手を譲らない形を続けたこと。さらに敗戦を喫したことで、次のレースはマークが緩む可能性もある。近年のトップホースには珍しい「先手主張」のレースを続けて欲しいが、これを機に少し控える先行策に転換することもできる。

 鮮やかに差し切った吉田隼人騎手のポタジェは、とにかく見事のひと言。一歩ずつ階段を上がるように育ててきた陣営の展望が5歳の春に開花した。4重賞を制し、オークス2着もあるルージュバックの4分の3同血の弟。

 ここを勝つまで【5-4-2-3】。昨秋の毎日王冠3着は0秒2差の1分45秒0。天皇賞(秋)も0秒8差で1分58秒7。あと一歩で重賞に手が届きそうだったが、再三のリフレッシュ放牧をはさみ、決して無理はしないスケジュールを組んできた。

 今回の挑戦は【2-1-0-0】の阪神2000m。「GI馬を相手に控えている位置取りでは勝機はない」と、青写真通りに好位を取りに出た積極策がピタリはまった。これは作戦勝ちではなく、中身は実力勝ち。これからさらに上昇するだろう。

 惜しい2着のレイパパレ(川田騎手)も、通過順こそ前走の金鯱賞とさして変わらないが、ずっと強気(積極的)だった。これで阪神2000m【2-1-0-0】。コースも、距離も、さらには時期まで最適なのだろう。ゴールした直後、川田騎手が吉田隼人騎手に伸ばした手は、互いの馬の力を出し切った結果を受け入れるためだった。

 上がり馬アリーヴォ(父ドゥラメンテ)は、突然の乗り替わりの不利もあり、まだ定量のGIでは苦しいかと思えたが、画面を通しての角度では2着に届いたと見える脚勢だった。3勝クラスを突破し、GIII小倉大賞典を54キロで勝って、定量57キロのGIを「クビ、ハナ」差の3着。上がり35秒0は最速タイだった。

 母エスメラルディーナ(父ハーランズホリデー)は、2戦目に芝1600mのジュニアC(中山)を勝って、5戦目にダート2100mの関東オークスを7馬身差で独走している。エフフォーリア、ジャックドールの4歳牡馬世代に、さらに駒がそろった。

 差がない4着に突っ込んできたヒシイグアス、インから上がり最速タイの35秒0で伸びたスカーフェイスはともに6歳馬だが、この2頭のハーツクライ産駒はまだベテランといえるほど出走しているわけではない。そろって上昇カーブに乗っている。このあと重賞路線で主役級に成長してくるだろう。もたらされた結果は波乱と形容されるが、中身の濃い2000mの大阪杯だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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