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【天皇賞・春】鞍上と馬との信頼関係がビッグタイトル呼び込む

  • 2022年05月02日(月) 18時00分

行くと決断していた気迫も素晴らしい


重賞レース回顧

天皇賞・春を制したタイトルホルダー(c)netkeiba.com


 4歳タイトルホルダー(父ドゥラメンテ)は、菊花賞を5馬身差で独走した3歳時より一段と強くなっていた。自身で主導権を握り、長丁場ならまず崩れない5歳ディープボンド(父キズナ)に7馬身差。同じ阪神の良馬場の菊花賞3000mは3分04秒6だった。今回の天皇賞(春)3200mは稍重で3000m通過が「3分03秒0」だった。

 初のGI制覇となった横山和生騎手(29)は、騎手生活12年目の快挙。引き上げてきたタイトルホルダーを迎えた栗田徹調教師も、握手する横山和生騎手も笑顔だったが、引き綱を取る担当者がずっと涙を拭っていたのがビッグレース制覇の重みを思わせた。

 昨秋の天皇賞で、横山富雄、典弘、武史騎手は、親子3代の天皇賞制覇を達成していたが、3200mの天皇賞(春)制覇は、横山富雄騎手の1971年メジロムサシ、横山典弘騎手の1996年サクラローレル、2004年イングランディーレ(7馬身差の逃げ切り)、2015年のゴールドシップ。そして横山和生騎手のタイトルホルダー。3代で「5勝」である。

 メジロムサシ、サクラローレル、イングランディーレ、ゴールドシップはみんなロンシャン(仏)やアスコット(英)のビッグレースに挑戦している。今度はタイトルホルダーの番だろう。母の父はサドラーズウェルズ系。祖母の父はミルリーフ系である。

 逃げ一手では苦しいか、となるとそんなことはない。日本で逃げ=差し自在のスピード競馬を身につけたO.ペリエ騎手は、先行力を取り入れたレース運びで1996-1998年の凱旋門賞を3連勝(通算4勝)している。明らかに、欧州のビッグレースの定石通りに控えなかった騎乗が3連覇に結びついている。

 この相手なら行く一手と決断していた鞍上の気迫は素晴らしかったが、ただ飛ばしたわけではない。「馬が自分からペースダウンしてくれた(横山和生騎手)」と振り返ったが、それは仲良く走ろうと、築いてきたお互いの信頼が大きかった。自分たちのリズムを作るために前半「600m36秒5-1000m60秒5」。ちょっと飛ばした。

 中盤に緩急のペースを組み合わせて息を整えると、勝負どころから再びピッチを上げて後半「1000m60秒3-600m36秒4」。全体のバランス抜群だった。能力のある馬に長距離戦でこういうふうにレースを作られると、後続はきびしい。タイトルホルダーは自身で主導権を握ってレースを作りながら、ただ1頭だけ上がり最速の36秒台(36秒4)だった。

 底力で2着確保のディープボンド(父キズナ)の和田竜二騎手に、スキがあったわけではない。前半から好位4-5番手につけ、スパートのタイミングを計りつつタイトルホルダーを射程に入れていた。

 ところが、少しずつ差を詰めてスパート態勢に入ろうとした残り800m付近からタイトルホルダーの刻んだラップは「11秒9-11秒5-11秒7→」。この勝負どころの3ハロン「35秒1」は、レース全体の中でどの部分の3ハロンを抽出しても最速だった。

 ディープボンドは昨年と同じように懸命にピッチを上げようとしたが、少しも差は詰まらない。道中の流れも、全体時計も異なるが、ディープボンド自身の上がり3ハロンは、昨年とまったく同じ「37秒1」だった。長丁場ならまず崩れない同馬はスタミナ満点と思われたが、実は長距離適性(スタミナ能力)で勝ち馬に譲ってしまったのである。

 ワールドプレミアに屈した昨年と同じようなゴール前だった。かろうじて1番人気の意地を見せた陣営の挑戦はまだまだ続くが、内心の落胆は隠せなかった。

 最後の1ハロンで力尽きたが、直線に向いたところでタイトルホルダーに並びかけようとした3着テーオーロイヤル(父リオンディーズ)は、負けはしたが立派だった。3400mのダイヤモンドSを、史上2位の快時計で完勝した能力は本物だった。

 最後は初の強敵相手となったGIで、初めての定量58キロ(前走より4キロ増)が堪えたのだろう。最後に苦しくなって鈍るのは、凱旋門賞やキングジョージVI世&クイーンエリザベスSで最後に日本馬が屈するのと同じで、「負担」重量の経験なしは大きい。

 4歳タイトルホルダーが通算11戦【5-2-0-4】なら、同じ4歳テーオーロイヤルは3歳後半から力をつけて10戦【5-0-2-3】。タイトルホルダーは「もっともっと成長してくれると思う(横山和生騎手)」。

 一方、テーオーロイヤルも「この一戦をきっかけに、また成長してくれるはずの素晴らしい馬(菱田裕二騎手)」。いいライバルになってさらに成長するはずだ。

 底力勝負の3200mの天皇賞(春)らしく、4着ヒートオンビート、5着アイアンバローズまで、上位5頭はみんな5番人気以内に支持された馬だけだった。波乱の連続する今年の重賞路線だが、ときどきはこういう結果もないと苦しいかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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