先週土曜日の京王杯スプリングカップでメイケイエール、日曜日のヴィクトリアマイルではソダシが優勝。同じ週末に、シラユキヒメの曾孫と孫が躍動した。
鹿毛のメイケイエールがこれだけ活躍すると、シラユキヒメを牝祖とするこの一族を「白毛一族」と括ってしまうのはどうか、という感じがしてくる。
白毛遺伝子というのはほかの毛色の遺伝子に対して優性(顕性)なので、それが毛色に出ていないメイケイエールは白毛遺伝子を持っていない、ということなのか。
以前本稿でも紹介した、サラブレッドの血統を遺伝学的観点から研究している獣医師の堀田茂さん(@hotta_shigeru)に訊いたところ、「まったくその通りです」とのこと。将来メイケイエールが繁殖牝馬となっても、ほかの鹿毛馬と条件は同じになる。白毛の仔を産むには、白毛の種牡馬と交配するか、あるいは、シラユキヒメが出たときのように突然変異が起きることを期待するしかないという。
遺伝に関するセオリーというのは、結果が出てから形成されていくものだ。これまではサンプルの少なかった白毛の遺伝に関するセオリーに関しても、シラユキヒメの一族が枝葉をひろげていくことで、新たな発見があるかもしれない。
ヴィクトリアマイルに話は戻るが、自身を含めて5頭のGI馬が出走し、レース史上最高の豪華メンバーと言われたなか、ソダシは2馬身差で勝利をおさめた。
元来、ソダシはあまり後ろを離して勝つタイプではなかった。これまで勝ったGIを見ると、阪神ジュベナイルフィリーズは鼻差、桜花賞は首差で、どちらもサトノレイナスの猛追をしのぎ切ったものだ。
これまでで最も大きく後ろを離したのは一昨年7月の新馬戦で、2馬身半差。次が、デビュー3戦目のアルテミスステークスの1馬身3/4差だった。今回、それを上回る差をつけた。
勝ち馬が、後ろを大きく離したヴィクトリアマイルとして思い出されるのは、ウオッカが7馬身差で制した2009年だ。道中は好位につけ、直線で馬群を割って抜け出し、最後は流してこれだけの差をつけた。勝ち時計は1分32秒4(良)。
次走の安田記念は、直線で前が壁になり、進路を切り換えて抜け出してもまだ前に馬がいたが、また外に持ち出し、3/4馬身差で差し切り勝ちをおさめた。勝ち時計は1分33秒5(良)。
私はどちらのレースのあとも、競馬場内の厩舎にウオッカの様子を見に行った。ヴィクトリアマイルのあとは穏やかだったが、安田記念のあとは馬房のなかでイライラし、機嫌が悪くて大変だった。
安田記念の直線では、アクセルを吹かしてはブレーキをかけ、また吹かして……という状態で、アクセルを全開にする前に勝ってしまった。その結果、ヴィクトリアマイルより時計が1秒以上遅くなり、着差も僅かになったわけだが、メンタル面では相当キツかったようだ。
担当の中田陽之調教助手によると、フィジカル面でも、ヴィクトリアマイルのあとより安田記念のあとのほうが疲れていたという。
速い時計で後ろを離して勝つと負担が大きくなりそうだが、それはあくまでも人間の感覚で、馬としては、むしろ、ドカーンと発散したほうが疲れが残らないこともある、というわけだ。
その伝で言うと、今回のソダシは存分に末脚を伸ばし、弾け切ったので、心身両面の疲れは、それほど大きくないかもしれない。
札幌記念を視野に入れ、秋の目標はマイルチャンピオンシップとなるようだ。楽しみである。
さて、中央でも地方でも、女性騎手が活躍している。中央では新人の今村聖奈騎手が先週3勝し、今年の9勝目をマークした。新人トップの勝ち鞍である。
地方では、昨年デビューした兵庫の佐々木世麗騎手が通算101勝目を挙げ、減量騎手を卒業した。来週からは2kg減での騎乗となるが、これまで以上の奮闘に期待したい。
最後に宣伝を。本稿がアップされる日に発売となるスポーツ誌「Number」の競馬特集に、スペシャルウィークの幻の凱旋門賞挑戦と、ノーザンファームの世界戦略に関する文章を寄稿した。
競馬場への入場制限も徐々に緩和されている。春競馬が、もっと盛り上がってほしい。