▲通算1000勝を達成した国枝栄調教師にお話を伺います(c)netkeiba.com
史上15人目の通算1000勝を達成した国枝栄調教師、これまでアパパネ、アーモンドアイという2頭の三冠牝馬など、数々の活躍馬を管理されてきました。そんな国枝調教師に積み重ねてきた1000勝を振り返っていただき、近年の競馬においてキーワードになりつつある、“外厩”との関係性なども話していただきました。
さらに話題は新馬戦へ、“国枝厩舎の新馬は2戦目が狙い目”というのはファンの間で通説となっていますが、実際に国枝師はどのような考えで新馬を送り出しているのでしょうか。そして今年デビューを迎える期待の2歳馬についても伺いました。
(取材・文=佐々木祥恵)
新馬戦は競走馬としてのキャリアのスタートであり、ゴールではない
──1000勝達成間近(※6/28取材時)ですが、積み重ねてきた数字をどう思われますでしょうか?
国枝 これまでうまくいかないことやトラブルもありましたが、オーナーサイドからは良い馬を預けていただいておりますし、生産や育成牧場の方々にも応援していただいたりと、皆様のサポートがあってここまで来られたととても感謝をしております。
──特に印象深い1勝はどのレースでしょう?
国枝 アーモンドアイのドバイのレースも印象深いですが、あれはJRAの勝利数には入らないですからね。JRAの勝利ではレコードタイムを出したアーモンドアイのジャパンカップが際立っています。
──過去の成績を振り返ると2017年以降はコンスタントに年間45勝前後を挙げていらっしゃいますが、2017年以前とは何か変化はあったのでしょうか?
国枝 牧場サイドのレベルが上がったというのははっきりしています。クラブをはじめとして、牧場の成績を出していくには、牧場と厩舎が互いに協力し合ってやっていくのが必要ですからね。両者の歯車がうまく合っていって、よりレベルの高い馬が厩舎にも入り出したというのは間違いないです。
──牧場とおっしゃいましたが、確かに2018年頃からノーザンファーム天栄の調整馬が競馬界を席巻しています。やはり影響は大きいとお感じになりますか?
国枝 あると思いますね。今の状況ではどうしても厩舎の管理頭数が多くなりますから、すべてを自分の厩舎でやるわけにはいかないです。そうなるとより一層牧場との連携は必要になってきますし、牧場のレベルがどの地点まで来ているかによって、馬や厩舎の成績が決まってきますよね。
▲国枝師が印象深いと挙げた2018年ジャパンカップのアーモンドアイ(撮影:下野雄規)
──ノーザンファーム天栄の木實谷場長は先生の後輩にあたると聞きましたが?
国枝 そうなんですよ。東京農工大学の馬術部の後輩になります。私としてもすごくラッキーというか(笑)、向こうもそのような人脈があれば仕事もしやすい面もあるでしょうし、話も通じやすいので、そういう意味では良かったなと思いますよ。
──2歳戦が始まっています。国枝厩舎の馬は変わり身のある2戦目が馬券は買いと競馬ファンの間ではお馴染みだそうですが、そのあたりはいかがでしょう?
国枝 新馬戦は馬の2年、3年というキャリアのスタートですし、元々、競馬を点ではなく線でとらえています。もちろん勝とうと思って出走させますけど、新馬戦は競走馬としてのキャリアのスタートであって、その馬のゴールではないという考えです。そういう意味では少し甘いところがあるのかもしれないですね。
──デビュー前の追い切りでは何を意識していますでしょうか?
国枝 馬が走ることに集中すること、そして真っ直ぐに走るということですね。
──馬によって軽めの追い切りだったり、強めにやったり違いも当然ありますよね?
国枝 自分で勝手に仕上がっていく馬もいますし、走ることをちゃんと理解していない馬もいますから。ある程度動ける態勢にはするけど、まだ足りない部分のある馬もいますので、その馬に合わせた調教をしていくしかないですね。
──例えばお話に出た少し足りない部分のある馬には、どのような対策をしているのでしょうか?
国枝 勝たせるつもりで出走はさせますけど、そういう馬の場合は追い切りの回数よりも1回の競馬を経験することがとても重要になってきますね。
▲アカイトリノムスメも新馬戦は7着、2戦目で勝ち上がった(c)netkeiba.com
──新馬がデビュー戦を迎える時のお気持ちを教えてください。
国枝 楽しみですよね。例えば新種牡馬の子がデビューするとか、自分が管理していた馬の子供がデビューする時には、ワクワクします。攻め馬で良い動きをしていたら、ひょっとしたら勝てるのではないかなと思いますしね。
──期待の2歳馬を教えてください。
国枝 1度使って2着だった、ダノンザタイガーですね。レースでは余裕があり過ぎたというかおっとりと構えていましたけど、それくらいで丁度いいかなと思います。あとは札幌でデビュー予定のキタサンブラック産駒のシュバルツガイスト、新馬を勝ったシャンドゥレールも楽しみです。牝馬も血統や馬格的にもいいところまで行けそうな馬が揃っています。新馬で4着だったコマンドラインの下のエルダーサインやムードインディゴの子のアップトゥミー、ドゥラメンテ産駒のノットファウンド、秋になりそうですけど父ロードカナロアのシーザリオの子、テンペストも楽しみです。
──国枝厩舎は活躍馬が多数いますが、活躍する馬は2歳の頃から何か違いを感じますか?
国枝 基本的にはトラブルが少なくて、様々なことを楽にこなしていきます。前向きさがなくなって成績が伸びない馬は、(心身に)どこか苦しいところがあるので、こちら側の要求を拒絶したりするのではないかなと思います。
──定年まであと少しになりましたが、これから成し遂げたいことや目標があればお聞かせください。
国枝 1000勝は達成したけれど、ダービーを勝っていないのではしょうがないですから、やはりダービーを取りたいですね。
(文中敬称略)