スマートフォン版へ

今村聖奈騎手の快挙

  • 2022年07月07日(木) 12時00分
 先週のCBC賞で、テイエムスパーダに騎乗した今村聖奈騎手が、重賞初騎乗初勝利という快挙をやってのけた。

 48kgの軽ハンデを生かすべく果敢にハナに立ち、前半3ハロン31秒8という超ハイペースで押し切った。勝ちタイムの1分5秒8は日本レコード。2着を3馬身半突き放す、文字どおりのひとり舞台であった。

 けっして「捨て身」ではなく、自信を持って騎乗していることが見て取れた。勝利騎手インタビューも18歳とは思えないほど堂々としており、非常にクレバーな騎手であることがよくわかった。

 新人騎手による重賞初騎乗初勝利は24年ぶり4人目。JRAの女性騎手としては、4年目の2019年にカペラステークスを制した藤田菜七子騎手以来2人目の重賞ウイナーとなった。

 今年19勝。新人女性騎手の従来の最多勝記録の9勝をとっくに更新している。これからさらにペースアップすれば、三浦皇成騎手の91勝という新人最多勝記録や武豊騎手の69勝はともかく、「闘将」加賀武見さんの58勝に近づくことはできるのではないか。それもかつては「不滅」と言われた記録だ。ぜひ「闘将超え」を目指してほしい。

 今村騎手は、NHKの特集の番宣動画で「絶対に誰よりもかっこよく乗ってやると思ってます」と話していた。そのかっこよさには、馬を下りているときの立ち居振る舞いや言葉の使い方も大きく寄与する。今村騎手は、インタビューでの「アプローチ」や「ハンドライド」などの使い方からして、現時点でもかなりのセンスを持っている。これからもその感覚を磨きつづけ、かっこいい表現者であってほしい。

 メディアに関わる者のひとりとして、彼女には、殺到する取材依頼を、とにかく、上手く、無難にこなしてほしいと思っている(依頼の交通整理は身近な誰かに任せたほうがいいのかもしれないが)。見られる仕事なので、メディア対応は避けて通れない。舞い上がることも、疲れを見せることもなく、淡々と、ソツなく取材をこなし、自身の考え方やキャラクターを伝えるのも、騎手としての仕事のひとつになってくる。

 武豊騎手も、ランフランコ・デットーリ騎手も、オリビエ・ペリエ騎手も、ゲイリー・スティーヴンス元騎手も、大成功した女性のジュリー・クローン元騎手も、世界的名手はみな下馬してもお洒落で、言葉の使い方もウイットに富み、メディアで「かっこいい」姿を見せつづけてきた。

 これからも、さらに「かっこいい騎手・今村聖奈」を見せてほしい。

 さて、以前この稿でも紹介した、昨秋コロナに罹患し、5日間ほど集中治療室で意識を失いながらも復活した、出版社を経営する知人のMさんに、先日、久しぶりに会った。フェイスブックなどで互いの動向を把握してはいたのだが、実際に会ったのは、おそらく25年ぶりくらいだと思う。

 Mさんは今年69歳になった。以前よりふっくらし、お元気そうで嬉しかった。入院中のお母さまに会うにはワクチンを接種していることが条件だったので、今年になってから2度接種したという。

 Mさんの会社から出している、日本のコロナ政策に対して疑問を投げかける『新型コロナ騒動の正しい終わらせ方』という本を私も読んでみたのだが、思っていたほど過激でもなければ、理論に偏りもなく、淡々と数字やエビデンスを並べたものだった。

 話している間、Mさんはマスクをしていなかった。本を読んでその理由がわかった。コロナは空気感染せず、排便を通じ、手指を介して鼻や口から感染するルートが主経路になっている、と著者が説いているからだ。コロナの本質は、そうした「糞口感染」による血栓症だという。なるほど、と思える部分もあるが、飛沫による感染も(同書によると主経路ではないにせよ)あるのだから、私は、マスクは有用だと考えている。

 マスクに対する考え方が原因で、地方競馬の実況アナウンサーを辞めた知人は、居酒屋のオーナーに転身したようだ。

 その人の店ではマスクも手指の消毒も求めていないというが、Mさんの会社から出ている本でも「コロナは恐るるに足らず」と言っているわけではない。マスクや三密回避、ワクチンなどはさして重要ではないとしながらも、手指の消毒、手洗い、うがいなどの必要性はしっかりと説いている。

 ともあれ、ツイッターを見る限り、その人も元気そうでよかった。

 コロナは人のつながりまでも分断してしまったが、修復可能な関係もたくさんあるはずだ。落ちついたら、その人の店に行ってみようと思う。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング