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【アイビスSD】幸運も味方し、最大の長所を知り尽くす最高の騎乗

  • 2022年08月01日(月) 18時00分

新潟直線1000mのレースに新風を吹き込んだ


重賞レース回顧

7歳牝馬ビリーバーが勝利(C)netkeiba.com、撮影:下野雄規


 昨年のバカラクイーン(14番人気で3着)、土曜最終レースのケイティレインボー(9番人気で4着)に続き、今年は4番枠のスティクス(13番人気で5着)、3番オールアットワンス(8番人気で6着)など、内枠の4頭が果敢に内ラチ沿いに進路を取った。それで健闘したのは、あまりにも外枠有利が顕著になってしまった新潟直線1000mのレースに、新風を吹き込みながらレースを盛り上げた。

 他の14頭は競うように外ラチ沿いに向かって進路を選んだのは当然だが、もともと幅員の狭いことで知られる新潟コースとあって、とくに馬群が固まった中間地点で、前が詰まり思うようなコース取りができなかった馬が複数いた。開幕週の内外の差が少ない芝だけに、ラチからは離れても、来年は馬場の真ん中を狙う馬が出現するかもしれない。

 勝った7歳牝馬ビリーバー(父モンテロッソ)と、杉原誠人騎手のコンビは今回がちょうど30戦目で【4-0-3-23】。コンビでの直線1000m出走も7戦目だった。引いたのは理想に近い偶数枠の外の16番。迷うことなく前半から外ラチ沿いをキープ。残り200mで先頭の17番シンシティ(父サウスヴィグラス)と、2番手に上がった18番レジェーロ(父キズナ)との間にスペースができると、あとはそこに突っ込むだけだった。

 勝負ごと。もちろん幸運も味方したが、追って最後に伸びるビリーバーの最大の長所を知り尽くす最高の騎乗だった。杉原誠人騎手は12年目にして重賞初制覇。管理する石毛善彦調教師(67)も、オーナーのミルファームも重賞初勝利。種牡馬モンテロッソ(その父Dubawi)産駒も、JRA重賞初制覇。7歳牝馬ビリーバーは45戦目にして重賞初勝利。若い馬むきのアイビスサマーダッシュで7歳牝馬が3着以内に快走したのも初めてだった。

 土曜日(30日)には、「新潟ジャンプS」で通算35戦目の6歳ホッコーメヴィウスが重賞初勝利を飾り、コンビの黒岩悠騎手(38)はデビュー21年目にして悲願の重賞初制覇。果敢に先手を主張してのレコード勝ちだった。新人ジョッキーの喜びの初勝利のインタビューもいいが、苦心、苦労が実った重賞初勝利騎手の笑顔はいつも最高に素晴らしい。

 あと一歩の2着だったシンシティは、惜しかった。勝てば富田暁騎手も初重賞勝利となる寸前だった。コンビを組んで新潟直線1000mを「3着、2着」。シンシティは5歳馬ながらまだキャリア13戦。ダート重賞にもチャンスはあるが、来年のアイビスサマーDのチャンスは大きい。シンシティの父サウスヴィグラス(2018年没)は、ダート戦を中心に全国で史上空前の5171勝(7月31日終了現在)を記録する歴史的な種牡馬。あと少しで初の芝のJRA重賞にも手が届くところだった。

 3着ロードベイリーフ(父ヴァンセンヌ)は、内の4頭が内に行ったのを見ながら、斜めに動いて外へ進路をとった。固まった馬群の後方になったが、勝負どころからうまく馬群をすり抜けるように伸び、上がり最速の32秒0を記録。勝ち馬とは0秒2差だけ。この差は枠順の差だけだろう。

 1番人気のヴェントヴォーチェ(父タートルボウル)は、互角のスタートから(前半400m22秒1-後半600m33秒1)=55秒2。「なぜか終始左に行きたがった(福永祐一騎手)」という誤算はあったが、多くの馬が外に回ってきたので、14頭の中でもっとも密集した馬群の中になってしまったのがこの馬。後半の勝負どころから多くの馬が進路を探すのに苦心したが、寄られて狭くなる不利が大きかったように見えた。バテたわけではない。

 3番人気のトキメキ(父アドマイヤムーン)は、「前半400m22秒0-後半600m33秒2」=55秒2。レース上がりが32秒6なので、後半の伸びを欠く内容になってしまった。直線1000mのレースは、ダート巧者にもみえるパワー型の馬にも少しの不利はないとされるが、今回の馬体重は自己最高タイの516キロ。いつにもましてボッタリ映った印象がある。

 4番人気アヌラーダプラ(父キングカメハメハ)は、気配は良かったが今回は約1年ぶりの出走で、好スタートから自身の前半400mは22秒0。直線1000mのレースは初めて。自身の前半最高3ハロンは33秒9(メンバー中17位タイ)だったので、いきなりの高速ラップに対応できなかったのだろう。

 この重賞【1-2-0-0】。4年連続出走となったライオンボス(父バトルプラン)は、58キロで最内の1番枠もあったが、過去3年のように韋駄天Sに出走できなかった体調一歩の不利が痛かった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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